第2章 女同士 その③

 昼食は手巻き寿司だ。私は市販のものしか食べたことがなかったので困惑する。


「まず海苔をとって酢飯をおくの。酢飯を少なめにするのがコツだよ。平らにして、好きな魚を巻いたら出来上がり」


 香乃は慣れた手つきでマグロやサーモンをとっていく。

 

 正直どれがなんの魚かわからない。エビと卵巻きときゅうりはわかる。海苔を一枚とって、酢飯を乗せ、エビをおく。だが巻こうとしたら、酢飯がはみ出てしまった。


「っと。私が心愛にオススメ作ってあげるよ! 苦手な魚ある?」


「魚は好きだけど貝が無理かな」


「じゃあ鯛とマグロと」


「ちょっと! そんなに詰めたらまたポロポロ落ちるわよ」


 3人で笑う。


「娘が小さい頃はマグロとでんぶの組み合わせが好きだったの」


「甘いからね。今でも好きだよ。でも今日はないなあ」


「というと思って……」


 お母様が席を立つ。冷蔵庫から食品トレーを持ってくると何やらピンクのものが入っている。 


「このフワフワしたのが桜でんぶよ。3色弁当にも使うの」


 お母様が説明する。香乃の家の3色弁当は、たまごと鶏ひき肉と桜でんぶなのか。私の父が作る3色弁当は、たまごとほうれん草と鶏ひき肉だ。


「香乃ってピンクが好きなんだね」


「そうそう、淡いピンクも濃いピンクも好き」


「私はいつも黒い服ばかりだよ」


「黒はいいわよ、汚れが目立たないから」


 お母様がテンポよく話に加わる。彼女は香乃と同じくらい明るいだ。やはり母娘は似るのだろうか。


「今日はお忙しい中、迎えに来ていただき、すみません」


 お礼を言ってなかったことにようやく気づいた私が頭を下げる。


「いえいえ、働いてないから大丈夫よ」


 私が反応に困っていると、香乃が追い討ちをかける。


「ニートだ! ニート!」


 香乃が茶化すがお母様は全く気に留めていない。


「実はね、私はロースクールに通ってるの。大学でてしばらくは働いてたんだけど、弁護士になるって夢を捨てきれなくてね」


 素敵なお母様だと私は感心する。

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