第2章 女同士 その①
金曜日の夜になる。
香乃とはお互い制服姿でしか会ったことがない。明日は何を着よう。とはいっても私が持っているのは黒い服ばかり。好きな服を買っていると、似たようなものばかりになってしまう。
何かアクセントになるものを探す。レモン色のミニバッグにしよう。
土曜日の朝、鏡の前で髪を優しくとかす。学校では校則によりローポニーにしているけど、今日は髪をおろす。昨日は週一回のトリートメントをしたから、コンディションは最高だ。
ひとつ気になるのは新宿から赤羽まで「
でも土曜日だから大丈夫だろう。痴漢が多発するのは金曜日の通勤通学時間帯だと聞いたことがある。
私が目玉焼きを焼いていると、まだパジャマ姿の父が台所にやってきた。
「おー? 珍しいな」
チンとなったトースターから食パンを取り出し、私が笑う。
「たまには私が朝ごはん作ろうと思って」
「心愛には何不自由ない暮らしをさせてあげたいんだ。いっぱい稼ぐし好きな大学いっていいからな?」
昔からそう聞かされてきた。そして「私には自慢のお父さんだよ」と答えるまでがセットだ。
私が早めに支度をし始めると、父が気まずそうに聞いてくる。
「今日会う友達って、女の子だよな?」
「女子校に男子はいないよ」
私が笑うと父は頷くが、まだ心配そうだ。
「林原さんを今度うちに呼んでいい?」
そう聞くと父は安堵の表情を浮かべた。
「おっ! それなら安心だ」
ニコニコする父に見送られて家をでる。
ブロードウェイを通って中野駅に。中央線で新宿に。新宿から埼京線で赤羽に向かう。1号車は危険だと聞いていたので、念のため真ん中の車両に乗る。
それにしても……これだけ痴漢被害が有名なのに、なぜJRや警察はパトロールをしないのだろう?
電車は池袋を過ぎ、板橋へ。板橋で私の後ろにいた男性が私にぶつかりながら降りて行った。
気のせいかな? わざとじゃないよね? それに今、何かが足を伝わっていった気もする……。
赤羽で降りて待っていた香乃に声をかける。白のTシャツにピンクのホットパンツ。香乃ならなんでも着こなせそうだ。
私は癖で髪をかき上げる。香乃が口を両手で覆い、叫ぶ。
「心愛! 髪!」
髪がハラハラと肩から腰へ、腰から足へと流れていった。これは一体……
「痴漢だろうね。ジロジロみたり、匂い嗅いだり、髪切ったりする奴もいるんだよ。最低!」
そんな……。
私の自慢の黒髪が……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます