第11章 無能な警察 その②
「お父さん、警察なんてあんなもんだよ」
「あんなもんて……どういうことだ?」
私は以前観た性被害の映画に出て来たセリフを引用する。
「警察はシステムなんだよ。守ってるのは市民じゃなく秩序なんだって」
だが父はあきらめきれないようだ。
「こんなことでは引き下がらない、弁護士に相談する」
帰宅後、父はすぐパソコンに向かい、調べ物を始めた。
私は不安になり、その夜プチODをしてしまう。
**
1週間後弁護士に会って来た父は、両手で額を押さえていた。
「どうだった?」
「訴えない方がいいと言われたよ」
やはり証拠がないとだめなんだ。
「いや、そこじゃない。教師を訴えると、被害者が傷つくことになるって」
「どういうこと?」
「昔からよくあるらしいんだ。教師が加害者で裁判になった事件で、初めは罪を認めていたのに後から否定し始める」
「そんな犯人、よくいるんじゃない?」
「起訴されたあと、在校生が署名運動始めるんだってさ。私たちの先生はそんな人じゃないんですよーって」
松中先生は人気者だ。確かにありうる。
「それだけじゃない」
父が続ける。
「被害者は成績が悪かったとか、普段から素行が悪かったとか、噂を流されると。怪文書が出回ったこともあるらしい」
「もういいや」
私がつぶやく。こうやってみんな泣き寝入りさせられるんだ。
「何しても無駄だよ」
「そんなことはない。また別の弁護士を探すから」
「いいってば!」
正義なんてないんだ。
何が真実かなんてどうでもいいのだろう。誰が傷ついたかなんて警察は気にしない。彼らは自分たちの手柄になりそうな事件しか手掛けない。被害届は受理しないといけないのに、あの手この手で拒む。
私はこの3年で文字通り警察の無能ぶりを体験した。SNSで読んでいた通りだった。性被害後に警察に行く人はほとんどいない。行っても無駄だと皆わかっている。勇気を出して行っても、私のようにまるで被害者に落ち度があるようにされてしまう。
本当にみんなの言う通り。
無力な被害者は被害者のまま泣き寝入りさせられ、加害者は大手を振って歩く。
自殺系で私は性被害について明らかにしていなかったが、イジメやパワハラ、モラハラで苦しむ人たちもきていた。
私たちがアングラなサイトで苦しみ、互いを支えあい、なんとか生きようともがいている間、加害者たちは罪の意識を感じることもなく笑いながら生きている。
そして正義のカケラなどない警察は、世間が騒ぎ出すと表面的な措置をとる。マリの自殺後にチャットルームを閉鎖したように。
彼らが弱いのは「警察は何をしている!」という世論だ。マズイと感じるとすぐに動き、仕事してる感をアピールする。
だが彼らが動く目的は正義ではなく、世論の沈静化。私人逮捕系動画配信者が人気になると、痴漢ではなく動画配信者を逮捕する。痴漢全員を逮捕するのではなく、1人を逮捕して世の中を黙らせるのだ。
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