第4章 消したい記憶 その③

 卒業式。


 周りの子たちは泣いていた。感極まっていたのかもしれないが、私はワクワクする気持ちの方が強かった。


「一応確認だけど、橘さんも2次会くるよね?」


 学級委員に聞かれて私はハイと答える。


「一応言っとくけど、私はパス」


 2次会に松中先生が来ると聞いた香乃が断る。




 結局、香乃以外の生徒たちが集まり、2次会の会場であるカラオケ店に行く。学級委員は大人数でも入れる部屋を予約していた。


 

 部屋に料理とお茶類が運ばれてきて、学級委員が盛り上げる。


「私たちが無事に卒業できたのは松中先生のおかげです。ありがとうございました!」


 拍手が沸き起こり、先生も満足げである。


 カラオケを始めるものもいれば、クラスメートとの自撮りに夢中なものもいる。


 1時間ほどたったろうか。私は香乃の声を聴きたくなり、立ち上がるとスマホを持って部屋を出た。


 広い館内で部屋から少し離れた場所まで歩く。


「橘、気分が悪いのか?」


 ドアから出てきた先生が私に声をかけてくる。そして返事をする間もなく、先生は私の肩を抱きながら歩き出す。


「前から言おうと思ってたことがあるんだよ」


 なんだろう。


「無事卒業式を迎えたし、私たちはもう教師と生徒ではなくなったね」


 普段の先生とは違う雰囲気に私は恐怖を感じる。


「前から気づいていたんだよ。橘は私のことが好きだろう?」


 身体が動かない。


「今日は気持ちに応えてあげよう」


 先生から壁に押しつけられた私は、スマホを落としてしまう。


 松中先生はそのまま私の腕をつかみ、私を抱きかかえて男女共用トイレに連れ込む。



 私は声を出すことができなかった。

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