第5章 SNS その②
チャットルームにいる間は本当に楽しい。いつでも誰かがいて話をすることができる。
死にたいと言っても「大丈夫ですか?」などという人はいない。むしろどんな死に方をしたいかで盛り上がる。
そのうちオフ会の話になった。月に1回、関東や関西を中心に行われているらしい。
オフ会に参加できるのは18歳以上、カッターなどの危険物の持ち込み禁止、薬の売買や受け渡し禁止、連絡先交換の禁止など細かくルールが決められている。
興味を持った私は、その理由を聞いてみる。
〈それはね、トラブルがあるからだよ〉
〈警察に潰された部屋もあるし〉
〈この場所を守るためにルールは必要なんだよ〉
〈女の子は特に気をつけないとまずいよ。誘い出されて会いにいくとヤバい目にあう〉
ここの人たちは誰よりも優しい。自分は死にたいというのに、人の命は大事にする。
**
「そろそろ話してくれないか?」
やはりきたか。食べ終えたご飯をキッチンに返しに行くと、待っていたかのように父が話しかけてくる。私は父の方を見ずに答える。
「友達とケンカしたの」
「だから急に語学旅行をやめちゃったんだね」
「お金出してくれたのにごめんなさい」
「いいんだよ。お金より心愛の命が大事だよ。元気になってよかった」
なぜだろう。その夜、私は生まれて初めてのリスカをしてしまう。切ったらどうなるのか知りたくなった。手首に当てたカッターがヒヤッとして気持ちよかったが……。
ーーっ! 私はすぐチャットで報告する。
〈そりゃ、カッターは痛いよ〉
ルカさんが指摘する。どうやらカッターで切るのは邪道らしい。カミソリ派が多いようだ。カミソリによっては傷口がガタガタになるという。
ここで副管理人のマリが加わる。
〈ヒリヒリするし、やめた方がいいよ〉
そんなマリを無視して私は翌朝、皆がよく使うというカミソリを買いにドラストへ行く。
昨日と同じように切ってみる。温かい血が流れて、生きている心地がした。
そして何より、私は今、安全だと感じた。私は自分の居場所を見つけたのだ。
1ヶ月ほどチャットルームでやりとりをして私はすっかり参加者たちと打ち解けた。そして、まだ人が怖いという感覚はあるものの、オフ会に参加することにした。管理人タツヤから再度ルールが伝えられる。
〈俺中学生だよ、残念〉
〈じゃあ大人になるまで生きなさいよ〉
〈はーい!〉
今回のオフ会は都内の猫カフェで行われる。そこには個室もあり、他の客には話が聞こえない。猫に癒されながら、交流しようというタツヤの計らいであった。
待ち合わせ場所は総合ディスカウントショップ前。1994年に亡くなった有名なミュージシャンのTシャツを着たマリが目印となり、人が集まってくる。
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