第5章 SNS その③
毎晩チャットをしている仲間だからか、初めて会った気がしなかった。タツヤ、マリ、ルカさん、今やチャット常連となった私は名前を明かすが、他の参加者たちは名前を伏せたいとのことだった。
「さてさて、夏に向けてまたあの問題が始まりますね」
タツヤが切り出すと皆がどっと笑う。
「半袖長袖問題です!」
集まっている人々はリスカに限らず、さまざまな自傷行為をしている。腕を縦横に切っている人やタバコの火を押し付けている人たちは、確かにみるのも痛々しい傷跡を持っている。
「私は一年中長袖だよ。冷え性だと言い張っているの」
紺色のカーディガンを着たマリが両腕をバンザイしながらいう。マリは大学生だ。講義中エアコンが効きすぎるとも言っており、羽織ものをしている女性も多いようだ。
するとタツヤが明るい声で言う。
「俺は半袖だね。前『見せつけるな』っ言いがかりつけられてむかついたから。じゃあむしろ見せつけてやるわって思ってさ」
そういうタツヤの話を皆真剣に聞いている。チャットにあまり現れないタツヤは謎の人だったが、安息所をゼロから創り上げた凄腕のSEだという。場所や名前を変えながら、10年以上チャットルームを運営しているそうだ。
チャットルームで私が1番仲良くしているルカさんは、見た目20代前半だろうか。初めて会話したときからリスカをあまりよく思っていなかった彼が、ここでもやはり渋い顔をする。
「傷がバレて仕事クビになる子がいるよ。だから、隠したほうがいいときもある」
「クビってなんでですか?」
驚いた私が思わず質問すると、彼は厳しい顔をしながら説明する。
「接客業だと傷が見えるとまずいからね」
「ひどい……」
私は絶句する。そういえばチャットで太ももを切るという子がいたが、外からは見えない場所だろうか。
マリがため息をつく。
「1番死にたくなるわ、そーゆー時がね」
「いったん切り初めて習慣になると仕事選びに困る。そしたら文字通り生きるか死ぬか……って、死にたくなったら、好きに死ねばいいんだけど!」
真面目な話を茶化すルカさんにみな笑う。
ルカさんを観察してみると、オシャレに気をつかっているのがわかる。モノトーンのファッションに、少し長い髪からピアスがのぞく。ネックレスも似合っている。
タツヤはルカの方を見ないようにしながら、ゆっくりと話す。
「仕事はいくらでもある。リスカくらいでクビになるところはこちらから願い下げだね」
タツヤによると、SEには長髪の男性や金髪の女性もいて、仕事で成果を出せば周りから干渉されないのだという。彼はボソリと言う。
「生きる方法はいくらでもあるんだよ」
夕方にはお開きとなったが、まだ楽しみたかった私は、タツヤ、マリ、ルカさんとカフェに行き、取り止めもない話をする。
それも夜8時には解散になった。バスで帰るという二人と分かれ、私とルカさんは駅に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます