第13章 再会 その②

「まだ話はあるの」


 立ち上がる私の腕を女性が掴む。


「この写真を見て」


 私はしぶしぶ手渡された写真を見る。まさか……!


「この人が私の今の夫。こちらは娘さん。そして娘さんのパートナー。あなたのお友達なんですって?」


 そこには笑顔で女性と腕を組む香乃の姿があった。


「驚いたわ。まさか娘の友達と海外で会うなんて。2人は結婚するんですって」


 私はおそるおそる尋ねる。


「香乃は私のこと、なにか言ってましたか?」


「あなたは特別な人だと」


 急に涙が出てくる。香乃も運命の人と出会ったんだ。よかった。


「心愛……?」


「香乃は、私にとっても特別な人ですよ」


 女性はソファに座り直す。


「皮肉なことだけど……今の夫もアルコール依存症なの」


 私が女性の斜め前に座ると、彼女は軽くため息をつく。


「でももう、私は逃げないわよ。夫はAAという自助グループに通って、今はお酒を絶っているわ」


 AAとはAlcoholics Anonymousの略であり、ミーティングでは各自、言いっぱなし、聞きっぱなし。話す力と聞く力を養い、お互いに励まし合って困難を乗り越える。AAは自助グループの先駆者と言える存在だ。


 


「それで? トラブルがあったんですって? 焦っちゃだめよ」


 そのトラブルが何かも聞かずにアドバイス?


 悪気はないのだろう。ただ私が求めている距離感とは違った。だからそっと拒絶する。


「私はもう大丈夫ですから」


「あらそう。じゃあ私は今から会食だからまたね。人生はいつからでもやり直しが効くから、お互い頑張ろ」



 母はあくまでも私を産んだ人に過ぎない。私は何を期待していたのだろう。母の家族、香乃の家族、私の家族。どれが正しいわけでもなく、比べたところで意味がないのだ。


 そして私は父に感謝する。つらいことがあって、お酒に溺れ、妻に逃げられながらも、私を大事に育ててくれた。



〈積もる話はできたかい?〉


〈あまり……。でも私にはお父さんがいるからいいや〉


 父は照れるうさぎのスタンプを送ってくる。


 私は香乃に「幸せになれてよかった」とメッセージを送った。Taylor SwiftのMineも忘れずに添える、もう1人じゃないって。



**



 私はお風呂場の鏡を見る。


 左手首には横に何度も切った白い傷跡。両腕と両足には、深く切りすぎたためにできた無数のケロイド。


 切った過去を変えることはできない。だから私は私の人生を引き受ける。



 その日は普段より早めにベッドに入り、ゆっくりと寝た。翌朝起きたときに、りくさんからのメッセージに気づく。


〈心愛、りくです。あの時は本当にごめんなさい。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまった。もう一度会ってほしい。ちゃんと謝罪したい〉

 

 気がつけば別れてから2年がたち、コロナは5類に引き下げられていた。


 私たちは初めて会った渋谷ヒカリエのカフェに行く。

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