エルフの女王
「……ま、こんなものか?」
「そーですよ。というかやめておきましょ? もし何かあって面倒ごとは嫌ですからね!」
「お前な……」
グラグラと箱を揺らされたが、何とか事なきを得た。
ふぅっと大きく息を吐いたものの、俺としては二つの意味でドキドキしている。
一つ目は見つかったらどうなるんだってことと、二つ目は一体この二人はどんな見た目をしているのかというのものだ。
(異世界の女性……どんな綺麗な人たちなんだ?)
ずっと昔から覚えている記憶を掘り起こしても、俺の記憶に刻まれているのは全部男の姿だけだ。
物資搬入で中に入ってくる女性はみんな肌が全く見えない鎧姿だし、一目で良いから異世界の女性って奴を見てみたいんだ!!
(流石に鎧は脱いでるだろ……?)
俺が住んでいた男が保護される街からは離れ、別の場所に着いた今となってはこの二人の女性も鎧を脱いでいるはず……さて、ゆっくりと箱から出て見てみるかぁ!!
「お、おい……まだ仕事中だぞ?」
「良いじゃないですかぁ。ここ、こんなにぷっくりさせちゃってぇ♪」
「ひゃんっ!?」
「可愛い声ですねぇ先輩♡」
な、何をしとる……?
ゆっくりと箱の蓋を持ち上げ、外の光景を観察した――そして俺は、盛大に声を上げそうになったが我慢する。
(え、ええええええええええっ!?!?!?)
そこに居たのは、恐ろしいほどの美女だった。
前世でもモデルをやっていたり、テレビに出たりする芸能人の人で綺麗な人は見たことがあったが……それとは比べ物にならないほどに、誰が見ても美女だと言われるであろう女性たち。
そんな女性たちが乳繰り合っている……というか、エッチなことをしているだとぉ!?
(あ、そうか!! この世界では極端に異性との接触がない……だから恋愛なんかをするにしても相手は同性になっちまうのか!)
……そういえば、街に居た時もやけに仲の良い男共を見た気がする。
当時は何も思わなかったけど今なら分かる……そうかぁ、そう言うことだったのかぁ……っ!
(……ってことは俺も記憶が戻らなかったらまさか……っ!?)
その先を想像しそうになり、俺は即座に頭を振って考えるのを止めた。
「先輩、今日も激しくしましょ?」
「し、仕方ないな……ただ途中までだぞ?」
「は~い♪」
隠れて行われる美女同士のレズプレイ……見たくはあったけど、こういうプライベートを覗く趣味は俺にはない。
でもあちらが夢中になってくれているおかげですんなりと俺は箱から出ることが出来ただけでなく、傍に置いてあった全身を覆い隠せるローブも拝借出来た。
「ここは……どこなんだ?」
俺は、元々住んでいたあの街しか知らない。
だからあの壁を越えた先の世界は全くの未知……街の名前も、どんな人や種族が居るのかも分からない。
だが俺はワクワクしていた……俺は今、こうして女性たちが住んでいる世界に足を踏み入れたのだから!!
「……行くぞ!」
そして、意気揚々と街に入った時――俺は感動していた。
「……おぉ!」
どこを見ても歩いているのは女性ばかり……っ!
しかも圧倒的なまでに美人が多いというか、顔立ちが整っているだけでなくスタイルも抜群な人が多い……うっひょ~!!
(っと、あぶねえ……つい感動で大きな声を出すところだった。普通なら男はあの街から出ることはない……精々が女性に連れ出されたりなんていう例外がない限り絶対にない――だからこそこんなところに男が居るとなったら、絶対に騒ぎになるだろうしおいそれと声も出せないか)
「ねえねえ、早く帰ってエッチなこととかしよ?」
「しょうがないわねぇ……良いよ」
「あたしさぁ、この前男だけの住む街を外から眺めてたの。匂いが最高だったわ襲いたい!」
「アンタいずれ捕まるわよ? でも……良い匂いするわよね!」
すれ違う人たちの中にはさっきの二人のようにレズカップルも居れば、男に対して欲望を募らせる人も居る。
というか男にほぼ会ったことがないだろうに、性の衝動に突き動かされて襲いたいと思う辺りはちょっと感動した。だってこれこそ貞操逆転世界のあるべき姿じゃないか。
「さてと……ほんとにどうしよっかな」
ひとしきり感動した後、改めてこれからのことを考える。
以前までは飯も住む場所も勝手に用意されていたわけだけど、今の俺は何も持っていない……早急にそこはどうにかする必要がある。
「……なんだ?」
辺りを見回していた俺だったが、開けた場所に人だかりが出来ているのを見つけた。
何だろうと思いそこに近付いていく……すると、その中心に居たのはあまりにも美しい女性だった。
(……すっげえ美人)
この世界の女性の顔立ちがあまりに整いすぎているとは言ったが、その女性に関してはレベルが違った。
長く綺麗な金髪、宝石のような青い瞳。
精巧な人形のような見た目だが、その体はあまりにも暴力的で目の毒である――布面積が少なすぎて露出狂のようだがエロいから良し! 真っ白な肌は綺麗だしデカい胸は形が良すぎて……もうとにかくエロい!
(耳が……長いな)
そしてもう一つ重要なこと、それは女性の耳が長かった。
まるでアニメや漫画で見たエルフのような耳……もしかして、彼女はこの世界のエルフって奴なんだろうか?
そんな風にジッと見ていた時、その女性と視線が合った気がした。
「……っ」
美人でエロい人と目が合ったら咄嗟に逸らしてしまうのは当然だ。
だが、次の瞬間に俺は地面に組み伏せられていた――体に痛みが走っても苦しくて声を発することも出来ず、俺はただ呻くしかなかった。
「っ……くっ!」
「貴様、先ほどからずっとセレス様を見ていたな? そうやって頭を含めて全身を隠そうとする輩はあまりにも怪しすぎる……まさか、エルフ国の女王たるセレス様を狙う暗殺者か?」
どうやらあの女性はエルフで間違いないようだが、やんごとなき立場の女性らしい。
「答えろ、貴様は何者だ?」
勇ましい女性の声に、やはり俺は呻き声しか返せない。
(俺……同年代の奴らに比べたらやれると思ったけど、女性の接近には気付けなかったし今は全く体を動かせない……弱すぎるだろ俺)
そのことに絶望するも、フードに手を掛けられた。
「何事ですか?」
「セレス様、こやつは怪しい者です。このような出で立ちもそうですが、ジッとセレス様の方を見ていたのです」
セレスって人……声が凄く綺麗だ。
ただこの状況は非常にマズい……確かに俺の考えなしが生んだ結果とはいえ、まさかこんな風に拘束されるなんて思わなかった。
「顔が見えませんね……まずはその顔を見てからにしましょう」
「セレス様、あまりお近付きにならず」
「あなたが抑えているから大丈夫でしょう」
フードを脱がされることよりも、体に走る激痛のせいで涙が出そう……否、既に涙は出ていた。
こんな泣き顔を見られたくないな、そう思いながら俺は顔をセレスってエルフに確認されてしまうのだった。
「な……」
「セレス様?」
こういう場合、なんて言えば良いんだ……いやなんも言えないんだよ。
だから俺は目を大きく見開いて驚くセレスさんに対し、涙を流すことでしか反応出来ない。
「……そこを退きなさい」
「セレス様?」
「退けと言っているの」
瞬間、冷たい声と共に背中を抑えていた重みがなくなった……いや、吹き飛ばされたようだった。
「……え?」
手を翳していたセレスさんが魔法を使った形跡がある……つまり、俺の背後に居た女性を魔法で吹き飛ばしたのか?
……えぇ?
どういうことなの……?
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