強まる感情と欲望

「いやぁ……最高の一日だった!」


 あの男臭い街から出て辿り着いたこの場所は俺にとって楽園に近い。

 漂う空気から香る匂い、そして視界に映り込む全てが俺の心を癒してくれる……ははっ、最高だ!


「この城……外観は立派な城だけど、内装はどこか親しみやすさがあって凄く良い。この部屋もそうだけど、飯も美味かったし風呂も凄く気持ちが良かったからな」


 正に高級すぎるホテルみたいなものだ。

 今のところ俺の存在を知っているのはセレスさんとニアさんだけで、そこが少し不自由さがあるもののこればかりは仕方ない。

 俺という存在はあまりにも異質であり、誘拐などではないにしても女性ばかりの場所に男性が居ることはそれだけで波紋を呼ぶ……その意味でもセレスさんには苦労を掛けてしまうが、大丈夫と言ってくれた彼女に甘えさせてもらおう。


「そうなると……男という立場に胡坐を掻くのもそれはそれで楽だけど、何かやれることがしたいなぁ……明日にでも聞いてみるか」


 たぶんだけど……男として王様気分を味わうことは可能だ。

 でも全部をやってもらうというのも申し訳ないし、こうして俺に最高の生活を約束してくれたセレスさんと、世話をしてくれるニアさんにまずはお返しをしたいところだ。


「……ま、焦っても仕方ないか――にしても、綺麗な国だな」


 城が少し高い場所にあるのと、この部屋も高い位置にあるせいでエルフの人たちが住む街並みが良く見える。

 既に夜だが所々明かりが見え、星空が地上にあるような美しさだ。


「どんよりしていた前の街とは違う……あぁいや、何でもかんでもあの街のことをディスるのは良くないな――俺はもうここで生きるんだ」


 まあ、ずっとここに居るかどうかは今のところ分からない。

 でも出来れば長く居たいと思う……だってセレスさんとかニアさんとかあんなに綺麗でエッチな人たちが多いんだぞ?

 それならここに居ない理由はない……くくっ、ここから始まる俺の最高の物語が今! 幕を開けるぅ!!


「……けど何度だって言えちまうな――まだ一日目だけど、この国の雰囲気は凄く良い。まあトップがセレスさんって優しい人で、その人の傍に居るニアさんも素敵な人だし当然か……俺、マジであの人たち大好きだ。単純かもしれないけど……ぐふふっ、エッチなこととか出来るかな?」


 なんて言葉を最後に、俺はベッドに横になった。

 三人……いや、四人くらいは一緒になって寝れるくらいの大きなベッドで凄くふかふかだ。

 枕も程よい高さで柔らかい……こんなに良いベッドは前世で泊まったホテルでも使ったことはないほどだ。


「おやすみ……むにゃ」



 ▼▽



 カズキは心からセレスに感謝している。

 あそこで見つけてもらえなければ、男であることを加味しても落ち着いた対応をしてもらわなければこうはならなかったからだ。


「……ぐへへっ」

「こ、このような素晴らしい瞬間が……っ!!」


 さて、そんな彼を魔法で覗く二人組が居た!!

 二人ともこの世界においては男性から毛嫌いされる存在だが、カズキからは最高に優しくエッチな女性だという評価をもらっている二人だ。

 見るからに柔らかそうな爆乳を携え、世界が世界なら男を魅了して止まない美貌、そして肌を赤く火照らせ下半身を湿らせている二人。


「体が熱いわね……でも凄く幸せな感覚だわ」

「私もです……さっきから体が熱くて……っ」


 最高に優しくてエッチだと思われているセレスとニアだ。

 まあ……優しいのは確かだしエッチなのも間違いないが、まだカズキはこの世界における男性に受け入れられた女性を知らない。

 見るが良い――この獣になりかけの発情した雌の姿を。


「カズキさん……あぁカズキさん!」

「カズキ様ぁ……素敵♡」


 どんな世界であっても、覗き見というのは許されない。

 だがそれを堂々と一国の女王とメイド長がやっている……しかし、ある意味でこれで済んでいるだけでも彼女たちは弁えている。

 欲望よりも、性的欲求よりもカズキに悪く思われないように……それが彼女たちを律し、そして更に強い想いを育て続けている。


『そうなると……男という立場に胡坐を掻くのもそれはそれで楽だけど、何かやれることがしたいなぁ……明日にでも聞いてみるか』


 何もしなくて良いんだ、あなたはただそこに居てくれれば良い。

 セレスとニアは強くそう思いながらも、やはり他の男とは違うんだなと改めて再認識する。


「彼は……本当に他の男とは違うわ」

「それは理解しています。男性との関わりが少なすぎるとはいえ、それでも理解してしまうほどにカズキ様は他の方とは違いますね」


 セレスは、今まで男のことを男性としか呼ばなかった。

 それがカズキとの出会いを経て他の男に対する呼び方が“男”になったのは、それだけカズキという存在がセレスに衝撃を与えるだけでなく変化を齎したのだ。


「何があっても彼を守るわ――彼は神に等しき男性だから」

「私も同じ気持ちでございます――永劫に渡り、彼を守る所存です」


 守りたい……ずっと傍に居てほしい。

 そんな想いを二人が抱くのもまた当然だった……二人はもう、たったあれだけのやり取りでカズキを愛してしまっている。

 他の男が一切気にならなくなるほどに、カズキしか見えていない。

 一瞬たりとも瞬きすることなく覗き見を続けているが、その中のカズキは更に言葉を続けた。


『……けど何度だって言えちまうな――まだ一日目だけど、この国の雰囲気は凄く良い。まあトップがセレスさんって優しい人で、その人の傍に居るニアさんも素敵な人だし当然か……俺、マジであの人たち大好きだ。単純かもしれないけど……ぐふふっ、エッチなこととか出来るかな?』


 その言葉に、セレスとニアはギロリと彼の部屋に繋がる扉を見た。

 だがかろうじて残る理性をフル動員し、深く呼吸をすることで何とか気持ちを落ち付かせた。


「優しい人……大好きですって!? エッチなこと……したい!」

「素敵な人……大好きでございますか? あぁ……仰せになられれば、どんなことでもさせていただきますぅ!」


 前半の言葉に感動し、後半では欲望が漏れ出す。

 もはやカズキからのどんな言葉にさえ心を動かされる二人は、大好きだとかエッチしたいとか言われてしまったらこうなるのも無理はない。

 まだ出会って一日が経過したわけでもないのに、セレスもニアも完全にカズキの虜になっている……だが、更なる奇跡が待っていることを二人は知らない。

 この世界において男とは何なのか、男と接することで何が起こるのか。

 その奇跡を目の当たりにするのは意外と早かったりする。



▼▽



「ここは……」


 目を覚ました時、一瞬ここがどこか分からなかった。

 だがすぐに記憶が蘇って行き、エルフが住まう国――エターニアに来たことを思い出した。

 体を起こし、鏡で顔を見た。

 ボサボサの髪と寝惚け眼が随分と間抜けで、こんな格好は女性には見せられないなと苦笑する……だが、コンコンと扉がノックされてニアさんが入ってきた。


「おはようございますカズキ様」

「あ……おはようございます」


 昨晩振りのニアさんだ……やっぱり綺麗だな。

 彼女は俺の世話をしてくれるとのことで、朝になったらこうして勝手に部屋に入ってくるのもメイドさんの仕事らしい……まあ、世話になってる身なので勝手に入っても大丈夫だと言ってはいたが。

 それにしても……朝から豊満な谷間を晒す美人を眺められるなんて素晴らしい寝起きだ。


「どうかされましたか?」

「いえ、朝からニアさんを見られたことで凄く嬉しかっただけです」

「っ……わ、私もカズキ様とこうしてやり取りが出来ることが楽しくてたまりません!」


 そんな風に言ってくれるニアさん最高かよ。

 それから程なくしてセレスさんもこちらの部屋に来たのだが、二人が並ぶと気付けるものがあった。


「セレスさんにニアさん……なんだか凄く目が充血してますけど?」

「ちょっと寝不足かもしれないわね……」

「寝たのが三時間前だったからかもしれませんね」


 それは……何か忙しかったのだろうか。

 ここもまずは点数稼ぎだと思い、セレスさんとニアさんに近付いて手を握った。


「お二人の立場が忙しいものであることは分かってますけど、どうか体には気を付けてください。俺……二人に何かあったら嫌ですから」

「っ……分かってます! あなたに心配なんて掛けませんから!」

「私もでございます! これはただの寝不足なので大丈夫ですよ!!」


 ギュッと握り返される手に熱がこもるだけでなく、少しだけ痛いほどの力が加わっているが嫌な気はしない。


「というかセレスさん、喋り方は砕けた感じで良いですよ?」

「えっと……良いのでしょうか?」

「はい。そっちの方が俺としても良いというか……あはは」

「わ、分かったわ……じゃあ普段通りにさせてもらうわね!」


 よしっ、更に距離を詰めることに成功したようだ。

 いくら貞操逆転の世界とはいえ好感度を高めていくことは大事……もっともっと二人に好かれて、うははな人生を過ごしてやる!


(二人の様子を見るに好感度は高いはずだ……俺が男ってことで稼ぎやすいとしても、まあ100が上限なら60は確実にあるはず!)


 よし、もっともっと頑張るぞ!



【あとがき】


面白いと思っていただけたり、続きを期待していただけたら評価等していただければと思います!!

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