思った以上に世界は過酷
「しっかし……こんなに色んな知識が入ってくるとはなぁ」
俺の目の前には数多くの雑誌が並んでいた。
男としておいそれと外には出られないため、暇を持て余した俺にニアさんがこの雑誌を届けてくれた。
男だけが住む街の中では色んな情報がシャットアウトされていたので、こうしてどんな情報が飛び交っているのか知ることの出来るこの雑誌は凄くタメになる。
「ニアさんが言ってたけど、この雑誌に嘘はほとんどない……男に関しては小さな嘘でも書けば大変なことになるらしいなぁ」
だからこそ、男の情報に関してはまず信じても良いだろう。
その上で改めて分かったのは男が今まであの街の外で確認されたことはなく、ましてやどこにも漏らすことなく誰かが匿っているという可能性も完全否定されているとのこと。
「男は絶対にあそこを出ようとしない……今までに冗談でも外に出て女性に会いたいと言った男は一人も居ないから――確かにそれなら、俺のあの発言であそこまで異端に見られるのも無理はないのか」
女性に会ってみたい、そう言った時に異端者でも見るような目をされたのは今でも思い出せるけど……あいつからすれば、俺はあの瞬間に得体の知れない生命体にでも見えたんだろうな。
「だからこそ男だけが住む街の外で男が確認された場合、凄まじく大変なことになるってわけかぁ」
俺がどういう気持ちで街を出たかはともかくとして、外に出た時点であの街のルールは俺に適用されない。
自分のことだからあまり想像出来ないけど、男を求めて争いが勃発する可能性さえあるのかも……いや、確実にありそうだ。
「そう考えると流石に複雑ではあるし……笑顔では居てくれたけど、セレスさんやニアさんも相当頭を抱えたんだろうな」
雑誌の内容には、男に対する世の女性たちの言葉もいくつかあった。
その中の大半……それこそ九割くらいは男に対する欲望で溢れており、どうせ女しか見ないからって理由なのか生々しい言葉も数多くあって逆に引いてしまうような内容もあった。
「……別にあの街から出たことを後悔はしてないけど、笑顔で優しく受け入れてくれたセレスさんとニアさんはどんだけ良い人なんだって話だ」
あの二人は俺に対して一切の欲望を見せなかった。
正直なことを言えばあんなエロい美人とエッチなことが出来るなら願ったり叶ったりではあるけど、あの二人はどこまでも俺のことを考えてくれていた……逆にエロいとか思うのが申し訳ないくらいに。
「……それでも思っちゃうけどさ」
まあでも、エロいのはエロいし考えちゃうのは当たり前だ。
少し沈んでいた気持ちもあの二人の爆乳とか、肌の露出が多い恰好とか見たら色々と元気になっちゃうからな。
「色々と元気に……なりますわそりゃ」
なんか……こういう下ネタを話せる同性の存在って自分で思う以上に掛け替えがなかったんだなって今は思う。
内容はもちろん下品で褒められたものじゃない。でも同性で下ネタが一切通じないだけでなく、女性が傍に居なかった世界本当に抜け出せて良かったわ。
「カズキさん、入っても大丈夫かしら?」
「あ、どうぞ!」
扉の向こうからセレスさんの声が聞こえ、俺はすぐに返事をした。
今のところはセレスさんとニアさんしか開けることの出来ない扉であるため、他の誰かがこの部屋に入ることはなく見つかる心配もない。
「ニア、あなたは外に居てちょうだい」
「畏まりました」
あ、ニアさんは外で待機なんだ……ちょっと残念だなと思いつつ、セレスさんが傍へ。
(……朝一番にも見たけど、ほんとにエロい人だぜ)
正面に立つセレスさんの全てがエロい。
当然のように見える胸の上半分とか、だからこそ見える谷間とか、その胸を支えている布を解いたらどうなっちゃうのとか、太ももの両サイドのスリットとかヤバすぎだろと色んなことが言いたくなる。
「退屈させてしまっているわよね?」
「あ~……確かに少し思いますけど、全然大丈夫ですよ」
「なら良いのだけど……」
ここに来てまだ翌日だし、全然退屈という気分じゃない。
ただ……それよりも俺は聞いておきたいことがあった――さっきも考えていたことだ。
「ニアさんに用意してもらった雑誌を読んでいたんです」
「聞いてるわ。それで何か面白い物でも見つかったの?」
「その……あの街に居ただけじゃ絶対に知り得ない情報が多くあったのと同時に、男という存在の重要性というか……今の俺が如何に特異な存在であるかを再認識したんです」
そう言うとセレスさんは苦笑した。
「そうね……カズキさんの存在はあまりにも異質よ。ニアと似たようなことを話したみたいだけど、カズキさんは私たちエルフですら気付けないほどの変身魔法を極めた女性じゃないかって考えるくらいには」
「そういえばそんな話をしましたね」
俺もそうだが、ニアさんも笑って否定したことだ。
「セレスさんは俺を守ると、俺の願いを聞いてここに連れてきてくれた。ニアさんも凄く優しく接してくれて……俺、本当にあなたたち二人に感謝しています。でも……だからこそ俺の存在は頭を抱えさせているんじゃないかって、余計な火種を抱えさせてるんじゃないかって――」
「そのようなことはないわカズキさん」
「っ!」
それは凛とした声だった。
セレスさんのこちらを見つめる視線は真剣で、それ以上は言わないでとも暗に訴えかけているかのようで、半ば強制的に口を閉じた。
真剣な空気を醸し出し、胸を揺らしながら彼女は近付く。
しっかりと視線を下げてそれを凝視した後、俺はセレスさんと視線を合わせた。
「確かにカズキさんの存在は爆弾と同じだけれど、私はあなたをこの国で守ると約束したわ。その言葉に嘘はないし、何よりそこには大事な私の想いが込められている」
「想い?」
「私があなたと居たいの……カズキさんと居たいのよ」
それは、あまりにも真っ直ぐな言葉だった。
こう言ったらアレだが、俺があの街で見たどんな男よりも男らしい力強さを感じさせる瞳……強い意志ががそこにはあって、心から安心させてくれる強さを感じさせてくれるのだ。
「俺も……セレスさんと一緒に居たいです」
「っ……~~~~~~~!!」
漏れた言葉にセレスさんが身悶えするように下を向く。
……こういう姿を見せられるとやっぱり世界の違いだったり、男としての優位性を再認識するけど、やっぱりセレスさんは良い人で優しくて最高以外の言葉がない。
「あぁダメだわ……カズキさんと話してると、自分が選ばれた存在に思えて調子に乗っちゃいそう」
「今のプルプルと体を震わせるセレスさんとかめっちゃ可愛いけど……」
「も、もうカズキさん! お願いだからそれ以上私に快楽を与えないでちょうだい!」
快楽ってどういうこと!?
ただ喋っていただけなのにセレスさんはいつの間にか肩で息をしているだけでなく、汗も軽く流れていた。
首から流れて胸の谷間に消えていく汗とか大変目の保養だけど、取り敢えずセレスさんを落ち着かせよう。
「ニアさんもそうですけど……セレスさんも凄く喜んでくれますよね。俺の言葉というか、色々なことに」
「私も正直驚いてるわ。こうして話をするだけで十分なのに、喜ぶ言葉を言われたら体が否応なく反応してしまうの」
反応……またちょっとエッチな響きだぞ。
その後、深呼吸をして汗を引っ込めたセレスさんに手を引かれてソファに腰を下ろした。
「時間とか大丈夫なんですか?」
「女王とはいえ自由時間はかなり多いのよ。それもこれも、特に争いがなく平和だからこそかしら」
「良いことですね」
「凄くね」
この世界は割と争いも多いし、ニアさんが言ってたけどダークエルフの侵攻なんかも過去にはあったって……まあでも、やっぱり今が平和というのは喜ばしいことだ。
じゃあ時間に余裕があるのなら色々と教えてもらおうかな。
そう思って男では絶対に知らないようなことを教えてくださいと言ったのだが、この世界に関する俺の知識はあまりにも脆いのだと思い知る。
「そうねぇ……まず、私たち人間ではない存在の産まれ方とかかしら」
「……そういえば男ってみんな連れて行かれるものだし、その辺りはどうなんだって思ってました」
「人間以外の種族では男……雄は確認されてないわ。男性に精子をもらって子供を産むのは基本的に人間の女性がやることで、私たちにはそれが許されていないの」
「えっと、それじゃあどうやって世代が続いて?」
「魔法によって強引に体に子を宿すのよ。ただそれをすると母体への悪い影響が強すぎるのと、絶対に女しか産まれない」
「……………」
「種族が永らえるには結局子は作らないといけないからね。そうやって人間以外の種族は女のみでずっと続いているのよ」
どうやら……思った以上にこの世界は過酷を極めているらしい。
「男側からすれば、私たちなんて次代が続くことなく消えてしまえば良いと思ってるでしょうねぇ……それでもしぶとく、たとえ女しか産まれなくても私たちは頑張って生きていくしかない」
「……大変ですね」
「でも、それはそれで良かったのかもしれない」
「え?」
「もし自分で産んだ子が奇跡的に男子だったとして、酷い言葉を言われたりして拒絶されたら悲しいだろうから」
「あ……」
この世界……本当に女性に対して容赦なさすぎるだろ。
それなのにあの街の男たちは女を下に見て、自分たちのために働くことが全てだと思ってる……はぁ、重いため息が止まらねえ。
「だからこそ、男性であるあなたを守らなくちゃならない。あの街の加護がない男なんて他の種族からしたら……いいえ、エルフの中にもその欲望を止められなくなる者は居るでしょうから」
「それで俺は爆弾ってことなんですね」
「そういうことよ。特にダークエルフに見つかったら何が何でも連れ去ろうとしてくるはず……まあ絶対にさせないけど」
「ダークエルフにも女王とか居るんですか?」
「居るわよ? あまり言いたくないけどダークエルフの女王の見た目は私に似てるの。言うなれば気が強くて冷たい私って感じかしら」
「……ほう」
ごめんセレスさん。
こんな真剣な話の途中なのに俺……そのダークエルフの女王も凄くエロいんじゃないかって思っちゃった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます