マッサージを決行する!

「さ~てと、慣れてくると暇が気になっちまうな」


 窓の外は暗くなり、たとえ外を自由に出歩けるとしても既に遅い時間になってしまっている。

 ここ数日は新たな環境にワクワクしたのはもちろん、セレスさんやニアさんという超絶エッチな女性が傍に居るので気にはならなかったが、前世に比べて娯楽の無さがやはり気になる。


「この世界……ある程度技術の発展があるとはいえ、スマホとかパソコンはないし……あったとしても動画サイトなんかも存在しないよなぁ」


 前世の俺は、基本的に夜はゲームや動画を見て過ごしていた。

 そんな俺も記憶が戻る前はこんな何もない世界でも普通に過ごしていたが、思い返せば思い返すほど何を楽しみに生きていたんだと過去の自分に問いたい。


「……ふ~む?」


 こうなってくると、俺の視線が向くのは扉――セレスさんとの部屋を繋ぐ特別製の扉である。


『いつも言ってるけど、用があれば遠慮なく来てちょうだいね』


 その言葉に導かれるように、俺は扉へと近付いていく。

 軽くノックをするとすぐに向こう側から返事があったので、扉を開けてセレスさんの部屋へと入った。


「いらっしゃいカズキさん」

「どうもです……!」


 セレスさんはベッドに腰かけていた。

 普段の露出が多く布同然の服装ではなく、この世界にもあるんだなと驚かされたキャミソール姿だ。

 黒を基調としたキャミソール……まあ言葉は不要だ――あまりにもエロすぎてそれだけでテンションが上がる。


「もしかしてまだ仕事してたんですか?」

「少し報告書を見ていただけなの。仕事というほどのものじゃないわ」

「なるほど……」


 ベッドに座る彼女は書類のようなものに目を通していたので、それが気になって仕事なのかと聞いたのだ。

 どうやら本当に大したものではなかったらしく、セレスさんは書類を近くの机に置いてこちらに視線を向けた。


「……そういえば、こんな格好を見せるのは初めてだったわね?」

「あ、はい」

「カズキさんのことだから大丈夫だとは思うけれど、嫌じゃない?」

「嫌じゃないですよ。むしろ一日の疲れが吹き飛ぶくらいです!」


 グッと親指を立てて言ってやった。

 俺が嫌がるわけがないのを知ってるはずなのに、それでも聞いてくるセレスさんは少し心配症だ。

 嬉しそうに、けれども恥ずかしそうに頬を染めて笑うセレスさんの元に近付く。


「いきなりすみませんでした。その……つい暇を持て余してしまって」

「会いに来てくれたのでしょう? それだけでも私は凄く嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだわ!」


 なら是非飛び跳ねてくれ!

 ……なんて言うわけもなかったが、セレスさんは体を解すように天井に向かって腕を伸ばす。

 そうして気が抜けたのか小さく欠伸までしたが、すぐに手を口元に当ててセレスさんは苦笑した。


「ごめんなさいカズキさん。決して眠たいとかじゃないからすぐに戻ろうとか考えなくて良いからね!?」

「わ、分かりましたからそんな肩を揺らさなくても!!」


 そもそも俺だってすぐに戻るつもりはないのだ。

 こうしてセレスさんを見るだけでも元気になれたわけだが、せっかくだしもっと好感度を稼がせてもらう!


「セレスさん、良かったらマッサージをさせてくれませんか?」

「マッサージって……体を触るやつよね?」

「はい、そのマッサージです!」


 どうだセレスさん!

 この世界の女性にとって体に触れてこようとする提案は願ったり叶ったりだろ? それに俺も体に触ることが出来る……! 素晴らしい戦略だと思うんだがどうだ!?

 俺の提案にポカンとしていたセレスさんだが、キリッと表情を引き締めたかと思えばベッドに横になった。


「お、お願いしても良いかしら……!?」

「お任せください!」


 ということで俺の作戦は成功した。

 シンプルにセレスさんの体に触れることを目的にしたマッサージではあるけど、実はもう一つ理由があった。

 それは俺が使うことの出来る魔法……ワンチャンあれば、これでやっていけると思っていたことだ。


「それじゃあ失礼します!」

「え、えぇ!」


 うつ伏せになっているセレスさんの腰付近に跨り、ゆっくりと指圧するように背中に手を添えた。

 ビクンと震えただけでなく、悩ましい声も漏れた。


(よしよし……こうやってっと……っ!)


 指に魔力を込め、それをセレスさんの体へと注入する。

 これが俺の魔法! 女性に比べたら多くない魔力量であり決して戦いには向かないが……相手にとって心地良く、心から気持ち良いと感じるようにマッサージすることが出来るのだ。


「これ……凄いわね。凄く気持ち良いわ……あぁん……っ」

「炎とか水とか、凄い魔法は使えないんですけどね。どうやら俺には、こうやって相手を気持ち良くさせる魔法が使えるみたいです」

「癒しの魔法かしら……回復魔法とも違うみたいだけど?」

「詳しくは分からないんですけど……はい」


 ちなみにこれ……同時に今の俺だからこそ嫌な記憶を思い出す。

 俺はこれをあの街で大人の男相手に何度かやっていたのだが、今となってはその時に向けられていた視線の正体も分かった。

 それを考えると寒気どころではない気持ち悪さに背筋が冷え、ブルッと体を震わせてしまう。


「男だとかそういうのを抜きにして、働かないと生きていけないならこれを利用してマッサージ店でも開くつもりでした」

「確実に騒動になるしどこかに連れ去られるだろうけれど、これはお金を取れるレベルよ? というか……あれ?」

「セレスさん?」


 その時、セレスさんの体に変化が起きた。

 真っ白な肌に薄く紋様が浮かび上がり、それはセレスさんの呼吸に連動するように光っては消えを繰り返している。


「もしかしてカズキさんの魔力が体に順応したのかしら……」

「それは悪いことですかね……?」

「そんなことはないと思うわ。凄く温かくて安心する……全身そのものをカズキさんに包まれているような感覚ね」

「へぇ……」


 記憶の中にはこんな現象はなかったはず……なんでセレスさんの体にこんな変化が起きたんだ?

 それからもマッサージを続けていくが、時間が経てば経つほどセレスさんの表情は蕩けてゆき喘ぎ声もそこそこ大きくなる……控えめに言ってエロ過ぎる……エロが渋滞を起こすくらいにエロ過ぎる!


「凄いわ……体の疲れはおろか、全身に流れる私自身の魔力量が増えている……カズキさんのマッサージは私の体にとてつもないほどの良い影響を齎してくれているわ」

「そんな力が俺に……?」

「詳しくは分からないけれど、でもこの変化はカズキさんのマッサージによって齎されたことよ。それは間違いないわ」


 汗の滲む火照った顔をこちらに向け、セレスさんは微笑んだ。

 俺自身、目の前の美女にマッサージをしていることと合わせ、嬉しくなる言葉を言われたせいで調子に乗りこんなことを口走る。


「俺、セレスさんに対する色んな気持ちを込めてマッサージしてました。保護してくれてありがとうって気持ちや、頑張っていることへのお疲れ様って気持ち……そして、そんなセレスさんが大好きだって気持ちを沢山込めました」

「っ!?」


 ビクビクッとセレスさんの体が震え、俺の言葉が彼女に大きな一撃を齎したことの証明だ。

 心の中でニヤリと笑い、まだまだ好感度を稼ぐぞという意味を込めて俺は更に言葉を続ける。


「もしかしたら俺の魔法は、そんな気持ちを相手に伝えて喜ばせる力なのかもしれません――セレスさん、俺が居ますよ。男である俺がセレスさんのことを肯定し、必要な時には褒めたり慰めたりします。セレスさんが男に罵倒されたり、傷付ける言葉を言われても俺が塗り替えてみせます」

「カズキ……さん」


 頬を真っ赤に染めながらも俺から視線を逸らさないセレスさん。

 決まったなと心の中でガッツボーズをした俺だが、その時にふと手元が滑ってしまった。

 綺麗なツルツルな肌を滑るように、俺の手は背中から彼女の胸……横乳へと到達した。


「す、すみません……っ!!」

「続けて」

「……え?」

「ほら……胸も凝るものだから。だから横からだけでも軽くマッサージしてほしいの」

「………………」


 き、きたこれえええええええええっ!!

 俺の顔はきっと興奮を隠せていなかっただろうが、既に顔を伏せているセレスさんには見られることは無かった。

 手元はおぼつか無かったが、そのままマッサージを続けるのだった。



 ▼▽



(私は……天国に居るのかしらね)


 セレスはカズキのマッサージを受けながらそう思った。

 カズキのマッサージはとても優しく、本当に体の疲れが取れただけでなく魔力を増幅させ、セレスの体をほぼ完璧……否、完璧以上の状態に回復させている。


(そ、それに……おっぱいまで触ってもらえたわ! くぅ!! 最高最高最高最高最&高ってやつだわあああああああっ!!)


 カズキが胸を触ってくれた……それがとにかく嬉しかった。

 この世界の女性は男性に体を触れてもらうことなんて絶対にないし、ましてや胸なんて触ってもらえることさえも確実にない。

 初めての経験、初めての感覚、初めての快楽、初めての幸福……そんな初めてばかりをカズキから与えてもらえる中、やはりセレスが考えるのはこれだった。


(この人は……この方は本当に私にとっての全てなのね。ただの男性という括りではなく、神に等しきお方……あぁカズキさん――私は絶対にあなたを守り抜くわ……だって逃がしたくないんだもの)


 カズキが来てから一瞬たりとも彼のことを考えない瞬間はない。

 彼に対する欲望は日に日に強くなるが、それ以上にセレスはカズキに向ける神への信仰心にも似た感情が抑えられない。


(私は、あなたに会うために……尽くすために生きていたのよ)


 そう強く、昏く冷たい心の声が響くのだった。


(とはいえ……このマッサージは本当に不思議だわ。エッチな気持ちは抑えられないし色々とグショグショだし……でもそれ以上に、カズキさんに包まれているような感覚は多分魔法よね? メルトの所に行ってスキル鑑定をしてもらおうかしら)


 カズキの不思議なマッサージについて、彼の許可があれば調べてみようと考えたセレスだった。



【あとがき】


今回で1週間連続!

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