神にも等しき男
「……本当に居ませんね」
男だけが住む街、そこには絶対的な責任者が居る。
教皇と呼ばれるその男は、街に住む男たちから集めた情報に頭を悩ませていた。
「カズキ君……ですか」
その原因は全く音沙汰の無くなったカズキに関してだ。
資料にはカズキの写真も添付されており、黒髪黒目の平凡な顔立ちの少年が写っている。
「人を惹き付けそうな雰囲気を感じますね……ですが、女に会いたいなどと世迷言を口にした異分子」
どうやら異分子と認定されたとしても、カズキの他とは違う雰囲気は写真からでも感じ取れるらしい。
まあ他とは違う部分が女性を受け入れられるという点なのだが、それをこの男は絶対に生きている内に認めることはないだろう。
「まさか……街から出たと言うのですか?」
この男だけが住まう街はそこまで大きくはないため、写真もあるし顔を知っている者も多いことから見つけるのは容易い。
それでも居ないということはこの街に居ないということ……それはつまり、カズキが口にした女性に会いたいという言葉が真実であり、彼は進んで女性に会いに行ったということだ。
「あり得ない……そんな馬鹿なことがあるわけが……」
教皇にとって……否、この街に住む者たちにとってカズキの考えは絶対に受け入れがたいもの……故にこれほどまでに教皇は唖然としている。
女性を受け入れる感覚、それを想像するだけで教皇は意識が朦朧としてしまい、フラフラとしながら立ち上がって街並みを眺めた。
「……否、そんなものは愚かなことです。我ら男のみが居るこの世界、これこそが至上の幸せなのですから!」
教皇の見つめる先には彼が思う幸せが広がっている。
女という異分子は一切存在せず、どこを見ても自分と同じ同性の男たちが優雅に、あくまで平凡という平和を過ごしている。
少し視線を凝らせば男同士の恋愛という素晴らしい世界も見え、この楽園から出ようというカズキの気持ちが本当に教皇は一切理解出来ない。
「カズキ君、あなたは愚かな男です。精々女のおぞましさに恐怖を植え付けられ、嫌悪と苦痛の狭間で死ぬと良い――さて、カズキ君のことはもう打ち切りましょう。我らはこの箱庭の中でこそ幸せを享受し、女を見ないからこそ平穏を保つ……もしもこれでカズキ君が我ら以上に幸せになっていたら……あぁ、そんなことは絶対に許されない。まあそのようなことは確実にあり得ないでしょうがね」
カズキは絶対に幸せになれない……教皇はそのことをほくそ笑む。
さて、そんな風に言われてしまったカズキだが。
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「あぁ……ぅん♪ カズキ様、とても気持ちが良いです」
「よ、良かったです!」
(美女のマッサージ最高ぅ!! 爆乳がはみ出て背中から横乳が見える景色が更に最高だぜぇ!!)
思いっきり、女性と触れ合えて幸せを謳歌していた。
教皇や他の男たちが知る由もないが、カズキの表情は他の男たちよりも遥かに輝いていることだけは確かだろう。
▼▽
セレスさんにしてあげたマッサージはとてつもなく大好評だったのもあって、是非事情を知るニアさんにもやってほしいと言われた。
もし嫌なら断っても構わないと言われはしたものの、俺としては度重なる幸運についガッツポーズをしてしまったくらいだ。
『あ、あの……失礼させていただきます!!』
そして、翌日の夜に緊張した様子のニアさんが部屋に来て今に至る。
「本当に……本当に素晴らしいものでございました」
「セレスさんからお墨付きをもらいましたからね」
背中からのマッサージを終え、ニアさんはとても満足してくれた。
セレスさんの時と同じように俺の魔力が体に練り込まれた証でもある紋様が浮かんでおり、光っては消えてを繰り返している。
「あぁ……カズキ様の魔力が循環している証でございますね。セレス様も仰っていましたが、まるでカズキ様そのものが体の中に入って来たかのような高揚感があります」
「またいつでもしますよ。セレスさんにも定期的にする約束はしたので」
「ほ、本当でございますか!?」
食い付きの良さに苦笑したが、このまま俺のゴッドハンドの虜にしてやるぜとやる気が出てくる。
(もっと濃厚なエッチに興味あるのに……こうやって美女の体に触れられるだけでも満足しちゃうなぁ)
結局はこれなんだ。
でもまさか魔力を流し込むことでこんなにもセレスさんやニアさんに良い影響を及ぼすとは思わなかった。
しかも凄く気持ち良いらしく声も艶めかしくて……それだけでも凄く興奮してしまう。
「本当にありがとうございましたカズキ様」
「いえいえ、ニアさんにマッサージ出来て俺も幸せでしたから」
「……ふふっ♪」
嬉しそうに微笑むニアさんは体を起こした。
セレスさんと同じようなキャミソール姿で、いつまでもジッと見ていたい妖艶さを醸し出している。
ニアさんはもう部屋に戻るはず……だが、俺はもう少し話していたい気分だったので体を起こした彼女の隣に腰を下ろした。
「ニアさん、寂しいのでもう少し話をしても良いですか?」
「っ……もちろんでございます!」
これもまた、好感度を稼ぐためだ!
隣に座るニアさんとの距離は近く、それこそ肩が触れ合うくらいの距離だ……って、話をしても良いですかって言ったものの、少しばかり話題には困ったが、こういう時は相手を褒めることが一番だ。
「俺……自分のマッサージが相手に良い影響を齎しているって知ったのはセレスさんを通してです」
「みたいですね。それもお聞きしました」
「セレスさんにした時と同じように、ニアさんにも多くの感情が届くようにと願いながらしたんです。お世話をしてくれてありがとうって気持ち、普段のお仕事お疲れ様って気持ち……ニアさんっていう素敵な人に出会えた奇跡にありがとうって」
「カズキ様……」
次から次へと伝えたい言葉が出てくる。
俺自身ここまで口が上手いと思ったことはないが、それでも伝えたい言葉なのは間違いないので黙る必要もない。
ついでと言わんばかりにニアさんの手を取りながら、俺は目をしっかりと見つめて言葉を続けた。
「ニアさんはメイドとして、縁の下の力持ちなんだと思っています。セレスさんと話をする中でもニアさんの存在は大きそうですし、それはここに来たばかりの俺も同じ……こうしてほんの少し荒れてしまっている手はニアさんの頑張りと献身の証明だと思うんです。俺……この手が凄く大好きです」
「あ……」
「なのでニアさん……これからも支えてもらって良いですか? 俺はもうニアさんが居ない生活って考えられないので」
そう伝えた瞬間、一滴の涙がニアさんの瞳から零れ落ちた。
ニアさんはすぐにハッとするように目元を抑え、必死に我慢するように涙を押し留める。
「もちろんでございます。私の忠誠はセレス様と、そしてカズキ様に捧げさせていただいているつもりですから」
その言葉には、強い想いが込められているのを感じた。
こうして見つめ合う中、視界の下に見えてしまう大きすぎる胸が気になって集中出来なかったけれど、それでも今回のことはニアさんが喜んでくれて本当に良かったぜ。
▼▽
「ニア、どうだったかしら?」
「天にも昇る気分でした――私、心はもうカズキ様に囚われてしまったようです……メイドとしてはしたないと分かっていても、体はもうカズキ様を求めてどうしようもないほどに火照ってしまって」
「何を言っているのよ。男性から……いえ、私たちにとって神にも等しき尊いカズキさんが体に触れてくれただけでなく、喜ばせてくれる言葉をくれるのよ? そうなるのは当然だわ」
マッサージの後、セレスとニアは二人で話し込んでいた。
魔法によって覗くカズキの部屋……そこでは満足したように手の平を閉じては開いてを繰り返すカズキが居る。
『セレスさんとニアさんが喜んでくれるのなら俺としても最高だ。というか……二人とも肌がスベスベだし、反応がエッチでやりがいがあるな!』
もはや、カズキが囁く言葉の全てがセレスとニアに刺さる。
嘘偽りのない本心からの言葉だと分かるからこそ、カズキの言葉一つ一つに体が火照って反応するだけでなく、心さえもより一層カズキへと心酔し崇拝するかのように深みに嵌っていく。
「カズキさん……♡」
「カズキ様……♡」
エルフは、愛おしいと思った男性しか見えなくなる……もう二人にとって男性とはカズキであり、それ以外の男はもはやどうでも良くはないがその程度の存在へと成り下がっている。
「そういえばセレス様」
しかし、直後にニアは表情を引き締めた。
相変わらず視線はチラチラとカズキの姿を見ているものの、声音は非常に真剣なモノへと変化した。
「最近、ダークエルフの方々はどうですか?」
「どうもしないわ。ただ、あちらの女王は私の変化に気付いているかもしれないわね――基本的にどんなことでも私が幸せな気持ちになることを良しとしない彼女だから」
「……カズキ様のことを知られたらどうなるのでしょうか」
「間違いなく奪いに来るでしょう」
無論、そうはならないとセレスは笑った。
手の平に生み出す魔力の奔流は、心優しいセレスとは思えないほどに荒れ狂っている。
「カズキさんを奪おうとする者は何者であろうとも許さない……いえ、カズキ様に心労を与えようとする者は全て消す……それだけよ」
「心得ました――私も同じ気持ちでございます」
カズキの知らないところで、事態は動き出そうというのか。
それはまだ何も分からないことだ。
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