ダウナー系エロフ
エターニア国にやってきてから数日が経ち、今日は特別な日になった。
男である俺はセレスさんに保護してもらってからずっと、外に出ることはなく与えられた部屋で過ごしていたのだが……何が特別になったのかというと、今日やっと外に出ることが許されたのだ。
「……おぉ!」
「カズキさん、あまり声を出さずにね?」
「あ、ごめんなさい……」
城から出て目にする街並みについつい声が出てしまい、隣を歩くセレスさんにやんわりと注意をされた。
「でも気持ちは分かるわ。ずっと城から眺めるだけだったもの」
セレスさんも怒っているわけではなく、はしゃぐ俺の様子にクスクスと笑っているし、背後に控えているニアさんもチラッと見たら口元に手を当てて笑っていた。
(気を付けないといけないのは分かってるけど、こうやって目の前に素晴らしい光景が広がっているとなぁ……興奮して色々見ちまうぜ)
前の街に比べて技術の進化が見られる建物だったりも凄いのだが、やはりそれ以上に色々と見てしまうのが歩き回っているエルフたちだ。
セレスさんとニアさんというエロ過ぎる美人エルフに慣れた今となってはそこまでの興奮はないものの、それでもすれ違うだけで香る甘い匂いだったり、ぷるんぷるんと揺れる胸だったりと視線を動かすのが忙しい。
(いや、匂いはそもそも女性しか居ないからか……揺れる胸に関してはマジでスタイルの良い人しか居ねえ)
このエターニア……なんて素晴らしい場所なんだ。
今は仕方なく顔を隠しているけど、いつかは男であることを隠さずに散歩でも出来たらって思う。
そして道すがらに爆乳エロフに声を掛けられ、暗がりに連れていかれようものなら最高の瞬間が待っているはず……!!
「ふふっ、カズキさんったら夢中になって」
「可愛らしい姿でございます。カズキ様にとって、やはり他のエルフたちも嫌な存在ではないのですね」
それはもちろんだと親指を立てたくなったが、一旦静かにしておこう。
こうしてセレスさんやニアさんと一緒に歩いていると、当然ながら他のエルフたちから沢山の視線を向けられてしまう。
国の女王とメイド長の並びは、それだけ他のエルフたちにとって気になるものなんだろう。
「それで、どこに行くんですか?」
「ずっと城の中に居させたので散歩の意味合いもあるのだけど、カズキさんのマッサージ……あれが何かしらのスキルではないかと思ってね。私はスキルだとほぼ確信を抱いているけれど、カズキさんも自分の力だし知りたいんじゃないかって」
「なるほど……確かに気になってはいました」
セレスさんとニアさんが喜んでくれるし、合法的に体にお触りし放題なのでどうでも良いと言えばどうでも良いんだが気にはなっていた。
「迷うことがないように、手を繋いでいきましょうか」
「カズキ様、お手を拝借いたします」
左手をセレスさんに、右手をニアさんに握りしめられて向かった先は雰囲気のある古本屋みたいな場所だった。
「ここは私の古い友人が勤める店でね。各国の魔法書なんかを取り扱っているの」
「へぇ」
「更に言わせてもらえば、セレス様に勝るとも劣らない魔法の腕前を持つ方が居られるのでございます」
「え? それってめっちゃ凄いんじゃ」
「凄いわよ。私一人でダークエルフの軍勢を抑えられるほどの力を持つとはいえ、私に何かあっても彼女が居れば大丈夫と言えるくらいには強い子なのよ」
どうやらこの店の主人に対する信頼は相当なモノらしい。
果たしてどんな人なのか……期待に胸を膨らませるように、俺は中へと足を踏み入れた。
「……本の匂いが凄いな」
店の中は、書物のモノと思われる独特な香りが充満していた。
こうして異世界の本屋に来たのは初めてだけど、前世の本屋を思い出すくらいには本が沢山あって興味をそそられる。
ニアさんは店の外で待機するとのことで、セレスさんと二人で更に奥へ進んでいくが他に客は居ないらしい。
「あ、居たわね……寝てるみたいだけど」
「……おぉ」
沢山の本が積まれているテーブルに体を突っ伏しているのは女性だ。
どうやらこの人がこの本屋の店主らしいけど……店に入った俺たちに気付くことなくその女性は眠っている。
「すぅ……すぅ……ぅん?」
だが、すぐにその人は起きた。
目を擦りながら顔を上げた女性の目元には濃い隈があり、起き上がった拍子に被っていた帽子が落ちたせいで収められていたボサボサの青い髪が姿を見せる。
「おはようメルト」
「セレス様っすかぁ? おはようございま~……ふわぁ」
大きな欠伸を全く隠そうともしないその女性だが、俺は当然のようにセレスさんたちと出会った時のような興奮を味わっていた。
(ダウナー系美女キタアアアアアアアアアッ!!)
全てが輝いて見えるセレスさんとも、凛としたニアさんとも違う文字通りのダウナー系美女!
エルフ共通の尖った耳や整いすぎている顔立ちは言わずもがな。
ボサボサの髪や目元の隈、女性にしては低いハスキーボイスやゆったりとした動きの全てがダウナー系って感じがする。
「うん? その人は誰っすか~?」
「この方は私の大切なお客様になるわ。実は、今日ここに来たのはこの方絡みなのよ」
「ほほ~う?」
「スキル鑑定をしてほしいの」
「あぁなる~! 了解しました~」
女性……メルトさんは一切疑ったりせずに頷いた。
そうして立ち上がったメルトさんだが、彼女の服装は魔女が着るような漆黒のローブ……胸元をガバッと開いており、セレスさんやニアさん以上の膨らみを持つ乳に俺はこれ以上ないほどの衝撃を受ける。
「でっ……!!」
思わず声を出しそうになり、咄嗟に口元を手で覆った。
幸いにメルトさんは首を傾げるだけに留まったので、俺が男であるとバレてはなさそうなので一安心だ。
「スキル鑑定ですねぇ。ま、ちゃちゃっと調べちゃいましょっか~」
「やはりあなたの手に掛かれば簡単ね」
「あたしを誰だと思ってんです~? メルト様ですよ~?」
この人……女王のセレスさんに対してこの態度はやっぱり大物なのか。
その後、俺は一枚の紙を受け取った――どうやらこの紙に手を翳すことで、現状使うことの出来る魔法というかスキルが判明するらしい。
セレスさんと共に店の端っこに向かい、紙に手を翳す……すると説明された通りにスキルの詳細が書き写された。
“魔性のマッサージ”
相手の体に魔力を流し込み、心身共にリラックスさせる。
使用者の相手に対する想いが強く、好意も宿れば更に効力は強くなり魔力を増幅させたりと良い結果を齎す。
マッサージを受けた相手に良い効果が表れるのは、使用者が心から相手のことを考えている証である。
「……おぉ」
「魔性のマッサージ……」
どうやら本当に、あのマッサージには魔法が……スキルが備わっていたみたいだ。
魔性のマッサージ……魔性なんて俺には一切似合わない言葉だけど、ある意味では確かに今の俺を色濃く表しているのかもしれない。
「セレスさん」
「な、なに?」
「スキルが宿っていたのはともかく、俺がセレスさんたちに対して良い感情を持っているからこそというのは合ってましたね!」
「カズキさん……っ!」
これもまた好感度稼ぎの一環だ!
その後、ニアさんにもスキルのことを伝えたがセレスさんと似たような反応だった。本当に嬉しそうにしてくれたし、二人から向けられる視線がどこか熱っぽいものにも感じた……まあそれが本当かは分からないけど、好感度稼ぎはバッチリだと確信を持てる。
(セレスさんやニアさんだけでなく、ダウナー系爆乳エロフのメルトさんかぁ……この国マジで最高かよ!!)
出来れば……メルトさんともお近付きになりたいけど、彼女と出会うには外に出ないといけないししばらくは無理そうだ。
……なんて、そう思っていたのに。
メルトさんとの再会は、あまりにも早かった。
「……ねえ、あなたは誰っすか?」
「っ……」
その日の夜、音も無くメルトさんが部屋に現れた。
窓ガラスをすり抜けるように現れた彼女は、俺を怪しい者でも見るかのように冷たい視線で見下ろす。
突然のことだったのに声を発せなかったのは、それだけいきなりすぎたということ。
「だんまりっすか……ふ~ん? ……うん?」
しかし、段々とメルトさんの様子がおかしくなっていく。
彼女は俺の顔を真剣に見つめ始め、出会った時と同じように目元をゴシゴシと擦り……そしてポカンと口を開けた。
「どうもメルトさん、セレスさんに保護してもらっている男です」
そう言ってすぐ、メルトさんは顔を真っ赤にした。
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