脳と体が男を知ってしまった
(まさか……こんなことになるとは)
目の前で、ソワソワしているメルトさんが突っ立っている。
何が目的なのか、どうやってここに入ったのか、色々と謎は残るし俺だって困惑している……ただ困惑はしていても、目の前にある巨大な二つの双丘に目が向くのは仕方ない――拙者、男子であるが故に。
(やっぱりセレスさんやニアさん以上の代物だ……っ!)
服装に関しても店で見たのと同じ……良いね!
このような意味不明な状況下に置いてテンションマックスなわけだが、この世界で一旗立ててやろうと意気込む俺なので、すぐに冷静にならなければと深呼吸をする。
「メルトさん、一旦そこに座りませんか?」
「あ、あの……えっと……男?」
「それについても説明させてください」
まずは、強制的に落ち着かせようか。
メルトさんに近付くと彼女は半歩足を下げたが、俺は逃がさないと言わんばかりに彼女の手を握りしめた。
ガタガタッと音を立てるくらいに動揺したメルトさんだが、そのまま俺は無理やりに座らせた。
「ま、マジで男なんすね……?」
「正真正銘の男ですよ」
「……セレス様、もしかして人攫いしたんすか? これは国際問題だし各国から爪弾きにされるっすよ……?」
「あ~……まあまあ、取り敢えず説明しますね」
出来るだけゆっくりと、メルトさんが聞き取りやすく伝えた。
伝えた内容は俺が他の男と違うことだったり、自分の意思でセレスさんに保護してもらったこと、そして一番大事なこと――俺が女性に対して酷いこと言ったり嫌悪感を抱いていないこと、逆に女性という存在が大好きなことを伝えた。
「そ、そんな男性が居るわけ……いやでも目の前に……えぇ!?」
俺の事を知ったのはメルトさんで三人目だけど、やっぱりこんな風にこの世界の女性は驚くんだなぁと少し苦笑する。
どうしてメルトさんがここに来たのか……正直分からない。
でも何となく理由はこれじゃないかってのがあったので、それを決め打ちする感覚で言葉を続けた。
「もしかしてなんですけど……俺みたいに顔を隠した客を不審に思ったんですよね? 俺は今日初めて会ったけど、セレスさんがメルトさんを心から信頼していたように、メルトさんもそれはあったと思うんです」
「あ……うん……そっすね」
「それなら安心してほしいって言いたいですけど、俺とメルトさんの間に信頼感はまだないので信じられないのも理解出来ます。ですが、俺はセレスさんに凄く感謝してて……凄く大好きなんです――俺は、そんなあの人を裏切るような真似は絶対にしない!」
「っ!!」
勢いだ、こういうのは勢いが大切なんだ。
「これが俺……カズキって男の全てです。今の状況はちょっと驚いてはいるんですけど、嬉しさも少しあります。昼にメルトさんと会った時、凄く綺麗で素敵だなぁって思いました。だから嬉しいんですよ」
「な、ななななななっ!?!?」
かあっと、既に赤い顔が更に赤くなっていく。
心なしかボサボサの髪の毛が逆立っている気もするけど、メルトさんの反応から悪い感情は感じ取れない……セレスさんやニアさんと同じで嬉しがっているのが伝わってくる。
「じゃ、じゃあ……っ!」
「はい」
「あ、あたしを……お姫様抱っことか出来るんすか!?」
お姫様抱っこ……?
どうしてここでそんなことを……なんて思いはしたけど、それくらいお安い御用だ。
「出来ますよ。失礼します!」
「えっ!?」
メルトさんの体を持ち上げるように抱きかかえると、可愛い悲鳴と共にメルトさんは落ちないよう首に腕を回す。
正直この体勢をずっと維持するのは無理なのだが、こうして女性に触れられると思えば力が沸いてくる。
「出来ますよ、メルトさん」
「あ……わ、分かったっす……下ろしてもらえると嬉しいっす……」
「分かりました」
顔を伏せたことで髪の毛が垂れ下がり、メルトさんの顔は見えない。
ていうか初めてお姫様抱っこしたなぁ……なんて思いつつも、俯くメルトさんの豊満な胸の谷間をチラチラ見てしまう。
こんな状況とはいえ、それだけ見てしまうくらいにメルトさんのは破壊力がありすぎる。
「ほ、本当にカズキさんは女が大丈夫なんすね……?」
「もちろんですよ。むしろ凄くドキドキしたくらいです……メルトさんは本当に綺麗だし、スタイルも抜群だから」
「っ……~~~!!」
綺麗なのもそうだけど、仕草が一々可愛いのも発見だ。
しばらくメルトさんは下を向き続けていたが、ようやく現実を受け入れたようでふぅっと息を吐き、火照った顔を上げた。
「……あたしはこれでも、魔法はセレス様に次ぐ腕っす。だから相手が変身しているかも、精神を狂わせる魔法を使っているかも分かるっす。だからこそ理解するしかないっす……カズキさんは、本当に男であり嘘を吐いてないことが分かるっすよ」
「なら良かったです……その、俺の事は秘密にしてもらえると」
「もちろんっす! 絶対に……絶対に他言しないっす!」
先ほどまでの照れた表情から一転し、どこまでも真剣な表情に変わったメルトさんはそう言った。
そして彼女は、突然その場に蹲り頭を下げたのだ。
「メルトさん?」
「いくらセレス様のことで気になったとはいえ、失礼なことをしてしまい申し訳なかったっす……本当に、本当にごめんなさいっす!」
「そ、そんなに謝らなくても大丈夫ですって!」
すぐにメルトさんには顔を上げてもらおうとしたものの、謝罪をしないと落ち着かないとのことで俺はすぐにそれを受け入れた。
そうしてようやく顔を上げてくれたメルトさんと再度ソファに座り、さっきよりも落ち着いて会話が出来た。
「こうして男性と喋ってると不思議な気分っすね……男性を求める女性は多いんすけど、あたしは無理っす」
「え?」
「品物を男性が住む街に持って行ったんすよ。その時に偶然顔を見られてしまって……それでこの顔とか胸とか、とにかく気持ち悪いって罵倒されたんすよ。それに本も全部破かれて……ちょいトラウマっすね」
「酷すぎないですかそれ……」
「他の女性たちと同じで鎧を纏ってたんすけど、休憩のために物陰で脱いじゃったあたしが悪かっただけっす」
いやそれは……。
ちなみに魔法で変身出来るなら男になれば良いじゃないかと思うが、そもそもあの街に入った瞬間に魔法は解かれるらしく意味はないんだとか。
それに関しては初めて知ったけど、あそこまであの街が不可侵なのはそういう理由もあったんだと改めて分かった。
「メルトさんは悪くなんてないですよ。俺からすれば、どんな理由があっても相手が傷付くような言葉を言って良いとは思ってない……だから悪いのはそんなことを言った男たちで、メルトさんは悪くないんです」
「カズキさん……」
「俺はそんな奴らと一緒じゃない……俺は女性に対して酷いことを口にするようなことはしません」
「……あはは、分かってるっす。それがカズキさんっすもんね?」
「はい!」
よしよし……何も嘘を言ったりはしてないけど、メルトさんからの反応も中々良いんじゃないか?
「カズキさん……」
「はい?」
「……あたしの胸に触りたいとか思うっすか?」
「そりゃもう!」
そんなこと思うに決まってるじゃないかと俺は頷いた。
するとメルトさんはグッと俺に向かって胸を突き出してこう言ったのだ。
「きょ、今日のお詫びっていうのも変っすけど……触って良いっす」
「……マジっすか?」
「マジっす。大マジっす」
こ、これは……っ!
以前はニアさんと似たようなやり取りで気絶してしまったが、まさかまたこんな最高のタイミングが訪れるなんて!
俺は目の前の誘惑に耐え切れず、ごくっと唾を呑み込んで手を伸ばす。
そして……ゆっくりと触れたその瞬間、俺があまりの柔らかさに感動したのと同時に、メルトさんに変化が起きた。
「……あ、落ちたっすあたし」
「え?」
メルトさんの目がピンクに一瞬輝き、まるで人が変わったような雰囲気を醸し出しながら言葉を続けた。
「あたし……知れたっすね……あぁ……完膚なきまでにカズキさんに心を奪われたっす」
「メルトさん……?」
「改めてセレス様を交えて話をしたいっす。カズキさん……あたし、やっと生きる意味を見つけたっすよ」
見つけた、その言葉には大きな想いが込められていたように感じた。
俺自身がこう言うのも変な話だけど、まるで崇拝する何かを見つけたような……それこそ心の拠り所を見つけた何かに見えたのだ。
ちなみにその間、俺の手はずっと彼女の胸に添えられており……こうして触れているだけで、メルトさんの瞳が更に暗く濁っていく。
「集めた書物にあった女の喜びってこれなのかもしれないっすね……こんなの絶対に手放せないっす」
「あ、はい」
こうして、俺はメルトさんとも親しくなることに成功した。
その後メルトさんは静かに帰って行ったが……俺はずっと手の平に残り続ける感触が素晴らしいなと、彼女の起きてしまった変化を特に考えることなく満足するだけだった。
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