神を越える!?
メルトさんが部屋に来たことや、彼女と話をしたことは全てセレスさんとニアさんに伝えた。
二人とも心底驚いていたが、俺が友好的な関係を結ぶことが出来たと伝えるとホッとしたように息を吐いていた。
「それにしても流石はメルト様ですね」
「えぇ……一応この城には結界魔法が張ってあるのだけど、やはり彼女ならすり抜けてこれるわよねぇ」
確かにメルトさん音も無く入ってきたからな。
俺が来たことで更に強固にした結界を越えられるのは、それだけメルトさんが優れたエルフであることを意味するとのことで、今回のことは驚いたものの彼女が味方になったことはかなり頼もしいらしい。
「それじゃあメルトを呼んで……いえ、その必要はなかったわね」
「え?」
それは一体どういうことだ?
そう聞こうとしたところで部屋の壁が一部歪み、昨晩に別れたばかりのメルトさんがヌルッと姿を現した。
「あ、メルトさん!」
「やっほ~っす! 呼ばれる気がしたので先んじて来たっす! でも一番はカズキさんに会いたかったっす!」
相変わらずのボサボサな髪と目の下の隈……でも笑顔で放たれた言葉が凄く嬉しかった。
たゆんたゆんと揺れる胸もやっぱり凄く、この部屋には大きなスイカが六つもあるという素晴らしい空間が形成されている。
「カズキさんに会いたいという気持ちは分かるわ。でもメルト、一応は女王として昨晩のあなたの行動は怒らないといけないわ」
「セレスさん、それは――」
怒る必要は無いと、そう言おうとしたが……俺は言葉を止めた。
俺がメルトさんを気に入っているのはもちろん、友好関係を築けたからこそ怒る必要は無いって言いたい……でも女王としてセレスさんがメルトさんに言葉を届けようとしているのなら、感情で俺が仲裁するというのも違う気がしたのだ。
スッとその場から離れ、ニアさんの隣に並んだ。
「ふふっ、大丈夫ですよカズキ様」
ニアさんはクスッと笑いながら背後に回り、俺の肩に手を置いてそのまま体を押し付けてきた。
背中に感じる圧倒的な弾力に意識を割かれながらも、セレスさんたちのやり取りを見守る。
「……と言っても、反省はしているようね?」
「はい――本当に申し訳ありませんでした」
昨日、俺に謝った時と同じようにメルトさんは頭を下げた。
そのことにセレスさんが息を呑んでいたが、俺に視線を向けて納得したような表情を浮かべた。
「あのメルトが素直に謝罪……しかもちゃんとした敬語を使ってだから驚いたわよ。でもそれだけカズキさんの存在があなたにとって大きかったということかしら?」
「そうですね……あたしはカズキさんに心を落とされましたから」
「そう……なら良いわ。あなたも私やニアと同じように、これからはカズキさんを守ってほしい」
「仰せのままに」
メルトさんは胸元に手を当て、騎士の誓いを立てるかのような動作で再びセレスさんに頭を下げた。
その後、メルトさんは店を空けるわけにはいかないということで帰って行ったが、これからは俺が彼女を呼んでもすぐに来てくれるらしい。
「エルフの人たちって……良い人たちばかりですね」
「全員が全員そうではないけれどね。でも私やニア、そしてメルトのことは心から信頼しても大丈夫よ」
「はい! もう全幅の信頼を寄せてます!」
ハッキリと俺はそう伝えた。
セレスさんとニアさんが照れたように笑ったのを見て、自分の言葉が彼女たちにとって嬉しいものであったことを確信する。
やはりどんなことがあっても好感度稼ぎは止められない……もっともっと彼女たちに好かれてもらいたいぜ!
「ほんとに……カズキ様の言葉は私たち女を幸せにしてくれるわね」
「メイドの身であるからか贅沢に思えてしまいますね。そのような言葉を頂けることに」
「何言ってんですか。俺にとってはこれが普通です――セレスさんとニアさんを知れば知るほど、どれだけ素敵なのかを知っていきます。だからこそまだまだ満足出来ない……俺はもっとあなたたちのことを知りたい」
「っ!!」
「~~~~!!」
プルプルと体を震わせる二人が可愛い……でも、照れているのは俺も一緒だ。流石に少し調子に乗って恥ずかしいことを口にしたかと思うと、一気に恥ずかしくなってしまう。
「少し……暑くなってきたわね」
「冷たい飲み物を持ってきますね……私も暑くなりました」
確かに俺もちょっと体が暑いかもしれない。
ニアさんが部屋を出て行き、セレスさんと二人きりに……別にそれを狙っていたわけじゃないが、一国を統治する女王のセレスさんだからこそ良い機会だし言いたかった。
「セレスさん」
「何かしら?」
「……俺、ちょっと考えたんですけど」
そうして俺が語ったのは、現在の子供を作る方法に関してだ。
喋っている間は盛大に恥ずかしかったし、何より下心満載ではあったが力になりたいというものもあったから。
「確かに私たちエルフだけでなく、人間ではない者たちは子供を作るのに大きな負担を体に掛けています。ですがカズキさんが子種を提供してくれるとなれば、沢山の種族が救われます」
そう……俺が提案したのはこれだ。
人間の女性でさえ男たちに頭を下げなくては子供が作れず、人間以外の男が存在しないことで人ではない女性たちは魔法に頼るしかない。
その負担を少しでも軽減出来れば……そう思っての言葉に、セレスさんが涙を流した。
「セレスさん!?」
「あなたは……本当にどうしてそんなに優しいの?」
「……優しいんですかね? 俺はただ、そうしたいから……してあげたいっていう傲慢さもあるかもしれませんが」
「傲慢だなんてそんなことはないわ……あぁやはり、あなたは神に等しき存在……否、私たちに恵みも救いも与えてくれないあれらは神でも何でもないわ」
セレスさんは、宝物を扱うような手で俺の手を取った。
「あなたが……私たちの神」
「あの……神って言うのは止めてもらえると……俺はどこまでも普通の人間ですよ。というか俺なんかが神様だったら失礼ですって! だって神様はセレスさんみたいな美女にうっひょ~って興奮しないですし!」
「……そういうところが私たちの神なのよカズキさん」
いやいや、女体に興奮する神様は最悪でしょ……でも俺がもし神様だったとしても興奮する――だってこんなに美女揃いなんだから。
神というのは一旦忘れてもらい、改めてセレスさんと意見交換だ。
今回の提案は彼女にとっても、そして多くの種族を救う提案ではあったがやはりすぐにというのも難しいようだ。
「私たちがカズキさんの提案に感動したのと同時に、他の種族も間違いなく同じことになる……そして奪い合いにも発展するわね。ダークエルフに知られたらって話をしたけれど、ほんとに難しい話だわ」
「……………」
「それに……果たして他の男たちが黙っているかしら。彼らにとって私たちは居ても居なくても良い存在……私たちが幸せそうに、平凡にしていることすら嫌悪を抱く連中だもの」
……分かってはいたが、やはり障害は山積みだ。
というか既に男性ではなく男って呼んでる……?
「でもありがとうカズキさん。あなたの提案については、ニアやメルトとも相談して考えてみる……ただ、いずれは考えていたことでもあったのよねそれ」
「そうだったんですか?」
「えぇ――いっそのこと、私たちが傍に居ることだし大々的にカズキさんの存在を知らせるのも良いんじゃないかってね。もちろんさっきも言ったように難しい話だから慎重にではあるけれど、カズキさんが女性に対して友好的に接すること、それを知らしめたいのよ」
そんな未来が来るのだろうかと、さっきまでの話を聞いていれば薄い望みのようにも見える……というかそうなると、本当にセレスさんの言う神様みたいな気分になっちゃうんだが。
「……まあでも、俺としては反応が楽しみではありますね。主にあの街に住む男たちの」
「ふふっ、それは私も思うわ」
「あんな狭い街で満足するあいつら……いや、それが普通だとしても俺は見せ付けてやりたい。セレスさんたちに囲まれて幸せに笑う俺を!!」
絶対に分かり合うことのない価値観……それがどうなるのかは本当に少し気にはなるのだ。
握り拳を作る俺を見てセレスさんは笑ったが、その時に俺は彼女が何かをボソッと呟いたことを最後まで知らなかった。
「カズキさんの子種……嫌よ私が欲しいわ……っ! それに、仮にもしそれをすることになったとしたら……私が全部相手をしなくては! それが女王たる私の務めだもの……!!」
ちなみに精子の提供は魔法を介するため、その時点でDNAなどの物質が全く別の物に生まれ変わる性質があり、魔法を介した時点でカズキとの血縁関係はなくなったりするのもこの世界ならではだ。
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