エルフは重い
俺は今、人生の絶頂期に居るのかもしれない。
セレスさんの魔法によってエルフだけが住まうエターニア国へとやってきたのだが、そこはどこを見ても目の保養だった。
街を歩く全ての女性たちは耳が長く、エルフとしての特徴を備えていたので分かりやすかった……だが、それ以上にエルフの女性たちは背が高くスタイルが抜群で、とにかく美人が多いのである。
(おっほ~!!)
これにはもうテンション爆上がりだ。
人間だけでなくどんな種族でも男と女、雄と雌が居てこそ成り立つものだけど、ずっと男しか居ない街に居た俺にとってこの光景はあまりにもご褒美だった。
「ここが私の治める国、エターニアです。まあ国とは言ってもエルフの数はそこまで多くはないため、基本的にこの街そのものが国と捉えていただければ分かりやすいかと」
「なるほど……」
隣をピッタリ歩くセレスさんが説明してくれた。
エルフというのは高貴な種族であると同時に、その数は結構少ないらしいとも教えてもらったが……でも、この眼前に広がる光景はとても賑やかで広大なものだ。
「人間たちに比べてエルフは魔法の才能に溢れているため、外に出れば重宝されたりもしますね。ただ……そんな私たちエルフも、男性に会えば顔を見せるなと怒鳴られてしまうだけの存在ですが」
「はぁ……」
ここに来るまでに、俺は色々なことをセレスさんに聞いた。
その中でこの世界の男が女性に抱く感情としては、確かに嫌悪感のようなものはあるんだろうけど……それ以上にどこか見下している感覚の方が大きいようにも感じる。
セレスさんが男に対して敬うべき尊い存在と言ったように、男からすれば女からの扱いはそれが当然で、女を顎で使うことなんかもむしろ当然って認識なんだろう。
「おかえりなさいませ、セレス様」
「ただいま戻りました。留守はどうでしたか、ニア」
「特に問題はございませんでしたが……そちらの方は?」
ニア……そう呼ばれたのはメイド服を着たエルフだった。
彼女の後ろには何人もの同じ格好をしたエルフが並んでおり、その誰もがやはり凄まじいほどの美人……というかこのニアって人はセレスさんに勝るとも劣らない凶器をぶら下げてやがる……なるほど、これが本当の異世界美女たちってやつか!
「この方は私の個人的な客人になります。顔を隠しているのはそれ相応の理由があるからだと、今ここでは言っておきますね。ニアだけでなく、この場に居る全ての者に言っておきます――もしもこの方に何かしてみなさい、私はあなた方を許しません」
その忽然とした様子に、俺を含めて多くの人が体を震わせた。
それだけの威厳と冷たさを兼ね備えた王の器……それを感じたからこそだろうか。
「さあ、参りましょうか」
優しく肩に手を置かれ、俺は頷いて歩き出す。
そこからセレスさんに連れて行かれた場所は立派な城……どうやらここがセレスさんの居城らしい。
(城なのに……兵士みたいなのは居ないんだなぁ)
そこが少し気になったが、後でセレスさんに聞いてみよう。
「ここです」
「おぉ……!」
そして辿り着いた部屋はあまりにも立派だった。
元々住んでいた所より遥かに大きく、ベッドや他の置かれている家具に関しても凄く値の張りそうなものばかりで逆に眩暈がしそうだ。
「ここがカズキさんの部屋になります」
「……その、良いんですか? こんなに豪華なお部屋を」
「むしろ何か足りないと言われたら更に用意するつもりでした。ご満足いただけたなら幸いです」
「こんな凄い部屋を使わせてもらえるなんて……感動します」
「……ふふっ」
むしろこんなに贅沢をさせてもらって良いのかって感じだが……でも疑ってたわけじゃないけど、セレスさんが何があっても守り匿ってくれると言った言葉は本当みたいだ。
「セレスさん……本当にありがとうございます」
「っ……あの、あまりお礼を言わないでください。調子に乗ってしまいますよ」
心底恥ずかしそうに、けれども大人としての威厳として照れを隠そうとするように下を向く姿が可愛い……けど同時に、この時の俺はちょっと下品なことを考えていた。
だってここは貞操逆転の世界……セレスさんのような美人と親しくなれば、俺にも何かしらチャンスはあるのかと考えてしまう。
(貞操逆転の世界で下半身に正直じゃないのはむしろ不作法……抜く機会があれば抜かねば!)
頬が緩んでニヤニヤしてしまうのを我慢していると、セレスさんは更にこんな言葉を続けた。
「あなたを守り続けると約束しましたので、それが比較的容易な部屋でもあるのですよ。隣が私の部屋なのと、そこの扉でいつでも行き来出来るようになっています」
「おぉ……なるほど」
「……よろしかったですか?」
不安そうに聞いてきたセレスさんに、俺は強く頷いた。
「もちろんです! そこまで考えてくれてありがとうございます!!」
セレスさんみたいな爆乳エロフ美人と部屋が繋がってるぅ!?
俺のテンションはこの日、一番の最高潮に達した……だが俺は、興奮するばかりで深く考えてはいなかったのだ。
ここは貞操逆転の世界……そして女性にとって男性は崇めるべき存在でもあり決して手の届かない存在であることをもっと深く考えるべきだったのかもしれない。
▼▽
セレスはずっと、部屋を楽しそうに物色するカズキを眺めていた。
(……マズいわこれ……さっきから体が熱くてグショグショなんだけどどうしよう!?)
絶賛、男が同じ部屋に居ることに大興奮していた。
彼女の表情はどこまでも澄ましたもので、エルフの女王に申し分ない威厳を醸し出しているが体の方は正直であり、更に彼女の脳内は完全にピンク色の様相を呈している。
(私の国に! 城に! 隣の部屋に! 男が居るぅ!? しかも十六歳のピッチピチ! 礼儀正しくて優しい男の子が居るぅ!?!?!?!?)
こんな風に内心で叫び散らしても、決して表情には出ていない。
かつて魔法だけで迫りくるダークエルフの軍勢を一人で蹴散らしただけではなく、他の女王候補を力で捻じ伏せた最強は伊達ではないようだ。
「ふへ……うへへっ」
「セレスさん?」
「何ですか?」
涎が出ていた表情は、カズキがこちらを見たことで瞬時に切り替わる。
彼の瞳に見つめられただけで体に快感を迸る変態エルフは、今すぐ部屋にこもって色々と慰めたい欲求に駆られるが、それ以上に彼の匂いが広がるこの部屋に居たかった……もう完全に変態の領域だ。
(しかし……このような男性が居るのですね)
とはいえ、カズキのことを考えれば幾分か冷静にもなれる。
それだけ女性に対して嫌悪感を示さず、逆に好意的に接してくれる男性はあまりにも珍しい……否、長い時を生きるエルフでも一生会えないであろうレベルだ。
だからこそこの機会を逃せないと考え、自分の立場を全て使って彼を守ることを約束した。
しかしながら、セレスはまだカズキの……この世界の感覚と異なる感覚を持った彼の本当の怖さを知らなかった。
「俺……セレスさんのような女性と会えて本当に良かった。この世界に生まれてきて一番嬉しいです!」
「あ……」
その瞬間、セレスは自分の心が落ちる音を聞いた。
どこまでも嵌っていくが如く、足首だけかと思ったら頭のてっぺんまで沼に落ちていく音を聞いたのだ。
(好き……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!!!!!)
セレスの心はその言葉だけで埋め尽くされた。
エルフは魔法に長けているだけでなく、相手の嘘を見抜く力も脅威と思われるほどに高い。
だからこそカズキの言葉が本心であることも分かったのだ。
ちなみに、こういう世界だからこそ知られていないものがある。
それはエルフがどこまでも一途であり、異性を愛したならば病的なまでにその人しか見えなくなるというもの……この世界では、異性を愛したエルフは存在しない……だってこういう世界だから。
そして更に言えば、セレスの中で男は敬うべき尊き存在であると考えている――さて、そんな存在である男性のカズキがセレスを虜にした場合どうなるか。
(カズキさんは……神に等しき尊い存在。私の愛すべき、尊いお方)
カズキ、セレスの中で神の立場に昇格した。
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