俺を保護してください!
「……………」
「……………」
空気が重い……というか死んでる。
背後から女性に取り押さえられ、エルフの女王とされるセレスさんに顔を見られた後のことだ。
特に騒ぎにならなかったのは俺の顔を見たのがセレスさんだけであり、すぐに彼女に連れられて建物の中へ連れて行かれた。
『ここには私たちだけで構いません――他に誰も入ってこないように』
そう強く言い放ったセレスさんは格好良かった。
見た目はあまりにもエロいエルフ……正しくエロフって感じだけど、やはりこうして正面から見たら更にこの人の美しさが際立つ。
そうしてしばらく無言のまま見つめ合った後、ようやくセレスさんが口を開いた。
「……突然、このような場所に連れてきて申し訳ありませんでした。男であるあなたがあそこで顔を出したとなれば、大騒ぎになると思いこうしてここに連れてきたのです……その、誤解が無いように言うなら決して無礼を働くつもりはありません! 私はただ、事情が聴きたかっただけなのです! それだけは信じてください!」
「あ、はい……」
エルフの女王というには、あまりにも慌てすぎな印象を抱かせる。
でも彼女の立場になって考えればそれも尤もか……だってあの街の外で男と会う、そんなことはほぼ確実にあり得ないことだから。
あたふたするたびに揺れる大きな胸に目が向きそうになるのを堪え、俺は誤魔化すように頭を下げた。
「その……俺は男なので、あの場で騒がれたら大事になっていました。だから逆に感謝しています――ありがとうございました」
「……………」
ま、まあちゃんとお礼の意味もあったんだ!
別に恥ずかしさというか、申し訳なさを我慢するだけじゃなくてちゃんとした理由がな!
さて……そんな風に頭を下げたわけだが、何やら様子がおかしい。
顔を上げるとポカンと口を半開きにしてセレスさんが俺を見つめていたため、どうしたのかと声を掛けた。
「い、いえ……男性の方にお礼を言われるとは思っていなかったのです。男性とは敬うべき尊き存在ですから……そのような方が私のような醜い女にお礼を言ったことが信じられなくて」
醜い……?
この世界はあくまで極端に貞操逆転が起きてるだけで、美醜の価値観は変わってないはず……でもこれはあれか? あまりに男から文句というか酷いことを言われ過ぎてそんな風に思い込んでいるとか?
「……………」
どっちにしろ、これは好都合かもしれない。
セレスさんを利用するようで申し訳ないが、ここまで男である俺の事を敬ってくれるのであれば、上手く取り入れば保護してくれるのでは?
そう思った俺は、素直に自分のことを話してみた。
「あの……ってその前に自己紹介しましょう。さっきあなたの名前を聞きましたけど俺は名乗ってないので」
「あ、はい……はい!」
「カズキと言います。今年十六歳になった男です」
「じゅ、十六歳……ごくり」
あの~セレスさん、思いっきりごくりって言っちゃってますがな。
確かに十六歳は食べ頃……というかまあ、こんな美女に食われるなら男として名誉みたいなもんだけど、一旦それは置いておくとして。
さあここからが勝負どころだ!
「せ、セレスと申します! ここより北に位置するエルフの国を治めている者で、一応女王という立場にあります」
「女王……それも聞いてましたけど、凄いんですね」
「まあ、他のエルフたちから信頼されていると思えば嬉しいですね」
「……………」
「……………」
そしてまた、俺とセレスさんの間に沈黙が訪れたが……俺は勇気を振り絞って言葉を続けた。
「セレスさん! どうか俺を保護してもらえないでしょうか!」
「ほ、保護ですか!?」
「俺、女性に対して嫌な気持ちとか一切なくて……それであなたたちの言う男しか居ない街が息苦しくて抜け出してきたんです!」
「え、えぇ……!? 嫌じゃない……!?」
「はい! 俺、女性が大好きです!」
「大好きぃ!?!?」
さっきからセレスさんはオドオドしっぱなしだ。
「あの街では、俺にも友達は居ました。でも女性についてどう思うかって質問に、俺は別に否定的じゃないって伝えただけで縁を切られたくらいなんです」
「それは……」
「あの街から出ようとする男は居なくて、そもそも女性を良い意味で受け入れようとする男も居ません……なので俺は異端みたいなものなんです。たぶんそいつを通じて俺の事は伝わっているはず……なのでもう、あの街に戻ったところで居場所がないんです」
「……………」
そこまで伝えれば、セレスさんは深刻だと受け取ってくれたらしい。
あと一押しで行ける……そう思いセレスさんの手を握った――スベスベな手触りに、これが女性の手なんだと感動する。
エルフというのが特別人間に比べて美しいのかはともかく、間違いなくしっかりと手入れされている肌だ。
「っ!?」
「こうして俺をここに連れてきて事情を聞いてくれた……だからあなたが凄く優しい方だというのは分かります。俺にはもう、あなたしか頼る相手が居ないんです」
「私しか……」
「身勝手なお願いだとは思っています……ですがどうか、俺を助けてはくれないでしょうか……っ!」
演技染みているように思えるが、どこまでもれっきとした本心だ。
俺の言葉を聞いたセレスさんは特に考えたりする間もなく、ガシッと握っていた俺の手を包み込んだ。
「分かりました。エルフの女王たるこのセレスが、あなたを保護させていただきます」
「本当ですか!?」
「はい……ですが、本当によろしいんですね?」
「よろしいです!」
よし……よしっ!
これでセレスさんに保護してもらえることが決まった!
「本当に……全く嫌がらないんですね。まさかこのような男性が居るなんて思いもしませんでした」
「居るんですよ現実に……はぁ」
「ど、どうしました!?」
ホッとしてついしゃがみ込んでしまった。
心配したように焦った声を上げたセレスさんを安心させたくて、俺はどうにか笑みを浮かべるように心掛けてこう言った。
「俺……やっと頼れる人に会えたんだなって嬉しくなっちゃって」
これは、あの街にはなかったものだ……俺の事情を知ってくれて、それでこうして受け入れてくれる人は絶対に居なかったはずだ。
だからセレスさんを利用するとか、取り入ろうとした打算は抜きにしてとにかく嬉しかった。
「……カズキさん」
「はい?」
「お任せください。エルフの女王の名において約束しましょう――あなたは必ず、守り続けると」
……なんかちょっと重たい何かを感じたぞ?
だがこれで、この世界において女性と触れい合いたいという願いに一歩どころか、何十歩も一気に近付くのだった。
▼▽
男だとか、女だとか、そういうものを抜きにしてもコミュニティの中で異端だと判断されたものは除け者にされる。
それは、この男だけが住む街でも例外ではなかった。
「教皇様!」
「どうしたのです?」
「実は……俺の友達……いや、あんな奴はもう友達じゃない。カズキってクソ野郎が女に会いたいって言ったんです」
「なんですって!? その者をすぐに連れてきなさい!」
カズキの元友人によって、カズキの女に会いたいという言葉が告発されたことにより、一瞬にしてカズキは異端審問に掛けられるかのように探されることになった。
カズキは転生者であるが故に、彼らを異常と思っているが……この世界の常識を持つ彼らからすれば、カズキの方があまりにも異質な存在でしかないのである。
「カズキという少年がどこにも居ない?」
「外に出たのでは……?」
「何を馬鹿なことを。如何に女に会いたいなどという愚かな考えを持っていたとしても、この街の外に出ようなどとは思えないはずです。早く探し出しなさい!」
カズキが女に会いたいと口にしたとしても、女に対する嫌悪感などは決して無くなりはしないと思っているが故に、必ず街の中に潜んでいるという思考から抜け出せない。
そんな彼らがもしも、カズキの頭の中を覗けるようなことがあるとしたら……果たしてどうなるだろうか――きっと、彼が抱く妄想を目にした瞬間泡を吹いて気絶すること間違いなしである。
かくして、カズキは男だけの街から完全に居なくなることに成功した。
【あとがき】
頑張りますので、どうかよろしくお願いします。
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