寒気

「う~ん……」

「どうしたっすか?」


 腕を組み、目の前のメルトさんを見つめながら考えていた。

 相変わらずのボサボサした髪と、寝つきは良くなったはずなのに消えない隈とか色々とあるけれど、やっぱりこうしてそんなメルトさんを見ていると思うことがあった。


「その……思ったんですけど」

「はい?」

「俺……メルトさんってどこか、友人みたいだなって思うんですよね」

「あ、あたしが友人っすか!? もちろん仲良く出来ているとは思っていましたっすけど、そんな素晴らしい関係性だと思っていいんすか!?」

「あ、はい」


 セレスさんやニアさんは違うけれど、メルトさんはどこか友人のような軽さを覚えていた。

 おそらくメルトさんの話し方や雰囲気によるものだとは思うけど、この感覚は間違ってないと考えている。


「セレスさんたちは違う感覚というか……ほら、メルトさんの喋り方とかがあるかもですね」

「それは光栄っすね! あたしはカズキさんのことを尊い存在だって思ってるっすけど、そんな風に言われたら調子に乗っちゃいますって!」


 メルトさんはニコニコと微笑みを浮かべ、大型犬のような雰囲気を纏いながら隣に座った。

 むわっと香る甘い匂いもそうだが、目の前で揺れる爆乳に視線を奪われてしまう。けれどそれ以上に俺を見つめてくる彼女の瞳は凄く綺麗だし、飛び抜けた美人でもあるから凄くドキドキする。


「……あの、カズキさん」

「なんですか?」

「あたし……ちょっと悔しいって思ってるっす」

「え?」

「セレス様たちもそうっすけど、サキュバスの所へ行ってリリス様たちともその……色々したんすよね? それがちょっと悔しいというか」

「っ!?」


 顔を赤くしながらも、照れ臭そうにそう言うメルトさんが可愛かった。

 ドキッとしただけでなく、今まで見たことがなかったその姿にこれでもかとときめいてしまった。

 別に女性の扱いに慣れたとかそういうわけじゃないけど、セレスさんたちとのやり取りを通して俺も度胸が付いたのだ。


「メルトさん!」

「……あっ」


 いつもは、メルトさんに抱きしめてもらう側だった。

 でも今度は俺が逆にメルトさんの体を抱きしめ、頭を撫でてみた。


「ふわぁ……♪」


 嬉しそうに声を漏らすメルトさんは、遠慮を無くしたように体を擦り付けてくる。


「メルトさん、めっちゃ可愛いです。かっこいい姿とか、頼りになる姿とか見てきましたけど、やっぱりこういう姿も最高です」

「か、カズキさん……そんな風に言われるとあたし、嬉しくって……」

「ならもっと嬉しくなってくださいよ。俺、メルトさんが嬉しそうにしてくれるの大好きですし!」

「っ……ヤバいっすこれ」


 ビクビクと体を揺らし、はあはあとメルトさんは息を吐く。

 以前にスキルについて話をした時、メルトさんはエルフの持つ発情について話したことがあった――今のメルトさんは、その発情状態になっている。


「メルトさん、俺もこうなってます……良いですか?」


 ちょうど俺も、メルトさんを見て発散しないといけない状態になった。

 俺だけでなくみんなが認識していることの一つとして、こうなってしまうのは仕方なく放っておくことは出来ないんだ。

 メルトさんは俺の問いかけに頷き、瞳にピンクのハートマークを浮かべるようにして相手をしてくれるのだった。


「お、おぉ……凄いっすよこれ!」

「……オーラが凄いなぁやっぱり」


 事が済んだ後、俺の精を取り込んだメルトさんは力強いオーラを体から放ち続けている。

 これに関しては以前のセレスさんと同じで、メルトさんからは大きな生命力と魔力の高まりをこれでもかと感じ取れる。そして更に言えることとすれば、メルトさんから向けられる想いが更に強くなった。ただでさえ強いものがもっと強く。


「女の悦び……なんすねぇ……凄いっすね本当に」

「メルトさん、さっきから凄い凄いしか言ってなくないですか?」

「だって凄いっすもん!」


 テンションがあまりにも高いようで、メルトさんは一つ一つのリアクションが大きく体を揺らしている。

 その度に大きな胸が揺れるものだから、その度にまた発散してもらわないといけない状態になりそうで困ってしまう。


(サキュバスの国を出てからなんか……変わったか?)


 性欲、強くなってる?

 なんてことを考えたけど多分気のせいだ。それから俺はオーラを放ち続けるメルトさんと雑談を続け、セレスさんとニアさんが戻ってきた時に何があったのか察していた。


「凄かったでしょう?」

「最高っす! もう忘れらないっす!」

「こ、今度は私も飲ませていただければ……っ!」


 ニアさんから熱い眼差しを向けられ、俺も顔を真っ赤にしながらその時は是非と大きな声を上げてしまうのだった。

 さて、そんな時だった。

 ふと体が冷たくなった感覚に陥り、ここには居ない誰かに全身を舐め回すように見られたような気がしたのは。


「っ!!」

「カズキさん?」


 急激に怖くなったことを誤魔化すように、セレスさんの胸に飛び込む。

 突然のことに驚いたセレスさんも、俺の様子がおかしいことに気付いたのかギュッと安心させるように抱きしめてくれた。


「どうしたの?」

「分からないです……ただ、なんか寒気がして……」


 この感覚は初めてだった。

 しばらく纏わりついていたその感覚も、気付けばなくなりいつも通りの俺に戻っていた。

 アレは何だったんだろうか。

 調子に乗ってセレスさんとニアさん、メルトさんに思いっきり抱きしめてもらって忘れようとしたあの感覚――まるで、男だけの街に居た時の自分を思い出したような気分だった。


「……けっ、嫌な物を思い出しちまうぜ」


 絶対に戻ることがない街、気にする必要のない街。

 けれど教皇が何やらやろうとしている街……こんなことで悩ませてくれるなよと、俺はセレスさんの谷間の中で愚痴った。

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