飲み干す生命の神秘

「……むぅ」


 ムズムズする。どこがって? アソコしかないだろ馬鹿タレが。


「はぁ……俺ってば何と話してんだか」


 ふぅっとため息を吐き、俺は元気な我が一部を見つめた。

 ダークエルフの国でのやり取りから数日が過ぎ、俺の体はほぼほぼ万全の状態まで回復した。そのおかげで体も自由に動くようになったのだが、だからこそ今までも悩んでいた問題にぶち当たった。


「……そりゃこうなるよ」


 男の生理現象に関しては、俺の意志でどうこう出来るものじゃない。

 セレスさんたちと接する中でバレないように大きくしてたけど、こうして彼女たちが居なくても感触だったり匂いとか、マッサージする時の嬌声とか思い出すとやっぱりこうなる。

 しかもちょっと痛いくらいに張り切ってやがる。


「……あれ? そういや前の街だとどうしてたっけ?」


 正直、自分で処理した記憶は一切ない。

 だからと言って誰かにしてもらった記憶も当然なく、あったら確実に死にたくなるだろうが、とにかくそういう記憶は無かった。

 つまるところ俺は記憶を取り戻す前と合わせて、一度もしていない。


「……定期的に抜かないと体に悪いらしいし、ここはやっとくか!」


 そもそも傍にずっと爆乳エロフたちが居るんだし、こうならない方が失礼だし抜かないのは不作法というもの。


「でもこの世界……おかずがねえんだよな」


 そう、この世界にはおかずがない!

 あるにはあるがそれは女性向けのモノしか存在せず、中身は結局のところ男の恥ずかしい恰好ばかりを描いたものばかりだ。

 この世界の人が前世にあったAVとかエロ本見たらどんな反応するんだろうと気にはなるけど、たぶんギャグマンガみたいに鼻血吹き出して倒れそうだが。


「さてと、それじゃあ――」


 気合を入れて一発行くか。

 よくよく考えればこれは俺の異世界初めての一発であり、記念すべき一撃なのだ――さあ行くぞ!

 ズボンに手を掛け、下げようとした時だった。


「カズキさん、失礼するわね」

「っ!?」


 隣に繋がる扉から現れたのは、もちろんセレスさんだ。

 今日も今日とて歩幅を進める度にたゆんたゆんと揺れる爆乳が目の保養だが、これさえも俺にはもはやダメージとなってしまう。


(あっぶな……)


 そうだったと、セレスさんが来る可能性さえも考慮出来ないくらいに発散したくてたまらなくなってしまっていたことを恥じる。

 既に地面に金具を打ち付けた状態のテントではあるが、少なくとも俺の息子はそんなに巨大ではないので隠すことは容易だ。


「あら、どうしたの?」

「い、いえ……何でもないです」


 マズイ。

 全体的に体が元気すぎるというか、数日間とはいえ一切自分で動けなかった反動なのかムラムラが凄い溢れそうになる。

 そんな俺に気付いた様子もないセレスさんだが、部屋に入った瞬間に顔を赤くし、スンスンと匂いを嗅いだ。


「どうしたんです?」

「気のせい……だと思ったのだけど、随分と良い匂いが……いえ、良い匂いというより頭をピリピリと痺れさせるような刺激的な香りがするなって思ったの」

「っ!?」

「何かしらこの匂い……今までに何度か香った匂い……カズキさんが傍に居ると漂った良い匂いだわ」


 セレスさんは、熱に浮かされたような様子で近付いてくる。

 はぁはぁと肩を揺らすように息が荒くなり、頬を赤くするだけに留まらず、彼女の瞳は濡れて熱っぽく見つめられる。


「これは……何かの魔法?」

「えっと……」

「間違いなくカズキさんからよね? この香り……本当に何なの? 頭がおかしくなるとは言わないわ。でも体が熱くなって……でも全然不快じゃなくて甘い刺激が体に走り続けるの。ねえこれは……なあに?」


 こんなことあるのかどうか分からないが、もしかしたらセレスさんは反応しているのかもしれない――俺のアレに。

 目の前に立つセレスさんは、いつも以上にエロいと感じられる。

 こんなセレスさんをいつまでも眺めていたい衝動に駆られるが、こういう時は素直に話してしまうのが一番だ。


「その……何となくこれかってのがあるんですけど、俺の話を聞いてくれますか?」

「もちろんよ。カズキさんの話なら何でも聞くわ」

「ちょっと恥ずかしいことなんですけど……」

「大丈夫、むしろそこまで言われたら話を聞くまで帰らないわ♪」


 それならと、俺はセレスさんをソファに招いた。

 いつもよりお色気ムンムン甘い香りもムンムンのセレスさんだが、ふとメルトさんから聞いたことがあった――エルフには発情という機能が備わっており、長年男と接していないからこそ体が忘れている機能だと。


『あたしも発情したことなんて一度もないっすけど、残されている資料では動物のようにヤラないと落ち着かないなんてことはないみたいで、ただムラムラってするだけみたいっすね。まあでも、あたしも生きてる内に一度はそれを経験してみたいっすねぇ♪』


 その時にメルトさんは、期待する眼差しを俺に向けていた。

 体の関係とか何となく発展しない気がしていたとしても、それでも期待してしまうのが男ってやつであり、それが俺という人間だ。

 セレスさんに、俺は今の体のことを話した。

 他の男はともかく、今の俺はとてもムラムラしており、一人で発散したくてたまらなかったことを。そしてこうなっている状況がセレスさんを刺激し、発情状態にさせているのではないかと。


「そうだったの……それで、それが?」

「はい」


 何だろう、話をしたことで俺も落ち着いていた。

 それとなく手と毛布で隠していたそれを堂々と思い切って見せると、セレスさんの目の色が変わった。


「こ、これが……っ」

「こうなっちゃったわけなんです」


 セレスさんは見たことがないだろうし、これが男の大事なモノだって説明するのも変な気分だ。


「知識としては頭に入ってるわ……でもこうして間近で見たのはもちろん初めてだわ。猛々しいのね……あぁ本当だわ……ここから香りが漂ってくる……あら? あらあら?」

「セレスさん?」

「っ……ぅん♪」


 体を震わせたセレスさんは、悩ましい声を上げた。

 いきなりどうしたんだと思った俺だが、セレスさんの体に起きた変化に視線が釘付けになる。


「凄い……今までにないほどにぷくっと膨らんでる……それに触ってもないのにこんなになっちゃって」


 分かりやすく言えば、セレスさんの体における上と下で変化が起きた。


「……あぁそういうこと。これはそういうことなのね――カズキさん」

「はい」

「どうやら私の本能はそれをどうするか分かっているみたいね……恐れ多いことだとは分かっているけれど、どうか私に鎮めさせてくれない?」


 その提案に、限界だった俺はよろしくお願いしますと大きな返事で応えるのだった。



 ▼▽



「……………」


 部屋に戻ったセレスは、ずっと夢見心地の状態が続いていた。


「……………」


 口を開いて喉を揺らし、声を発することさえ忘れてしまう。

 初めて見て触れたソレは、想像していたよりも熱くそして力強いものだった。

 セレスの本能には、女としてのするべきことが刻まれていた。

 だがその本能に従いながらもカズキのしてほしいこと、喜んでほしいことを優先させた結果――セレスは天国に飛んだ。


「温かい……体に魔力が、カズキさんが満ちているわ」


 恐れ多いと思いながらも、カズキのモノを口から取り込んだ。

 その瞬間の満たされた感覚は言葉にしようがなく、一瞬にしてセレスは意識を飛ばしそうになったほど。それでもカズキを心配させまいと必死に意識を繋ぎ止め、幸せな時間を最後まで経験した。


「あぁ……こんな凄いの……?」


 体にカズキの魔力が満ちるこの感覚は、マッサージの比を越えていた。

 エルフとしての発情さえも押し流し、ただただ満足感を抱かせるこの感覚は手を出してはならない神秘に触れたような快楽だった。


「ふふっ……あはははははっ」


 普段は絶対にしないような笑いが漏れ出る。

 幸せに満ちているのはもちろんのこと、カズキに対して更なる強い想いと愛を抱いたのもそうだが、それ以上に自分という女が他の女よりも遥か高みに到達した優越感も凄まじかった。

 だがそれは自慢しようなどという愚かで浅はかな感情に変換されるのではなく、どこまでもカズキという男に尽くしたいという隷属感情へと変換されていく。


「魔力が膨れ上がり、体の耐性……それに少し肌が若返ってる? 幸せな感覚に流されていたけれど、やはりその部分もカズキさんは特別なのね」


 これに関してはセレスの悩みとなるが、カズキのことを知れば知るほど間違いなく彼を巡って争いとなることは容易に想像出来る。

 だからこそ慎重に慎重を期さねばならない。

 しかし、そんなカズキのことを独占することに若干の罪悪感を抱いているのも事実。


「難しいわねぇ……」


 とはいえ、いくら悩んでも絶対にカズキを離しはしない。

 それだけは確かだった。

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