沢山出して元気も出た
それは、翌日の俺を驚かせた。
「……え? セレスさん?」
「あら、おはようカズキさん」
朝になってすぐ、セレスさんと顔を合わせるのはいつも通りだ。
(……あれぇ?)
声に出したら間抜けな声音になってしまいそうなほどに、俺は目を点にしてしまった。というのもセレスさんの様子がおかしいというか、目を凝らすと黄金のオーラを纏っているようにも見える。
「……いや、そんなことないだろ絶対」
「どうしたの?」
ついつい言葉に出してしまったが、取り敢えず聞いてみよう。
「セレスさん……なんか雰囲気が違いません?」
「気付いたの? 実は今日、起きた時から随分と体の調子が良いのよ。これもおそらく、カズキさんの子種を頂いた結果かしら?」
「っ!?」
その言葉は、第三者が聞いたら間違いなく誤解を受けるものだ。
だがその言葉は昨晩の記憶を鮮明に思い出させただけでなく、昨日と同じように俺の体に興奮として現れた。
ただ昨日セレスさんが相手してくれたのもあって、今すぐに処理しないといけないってことにはならなかった。
「ちょっと語弊があったかもしれないけれど、別に間違ったことは言ってないわ――でもこれ、本当に凄いのよ。マッサージも雨も、全てを置いてけぼりにしてしまうほどの奇跡を目の当たりにしているわ」
「……ちょい恥ずかしいですけど」
「私だって同じだわ……恥ずかしさはあるけれど、それ以上に心を包み込む幸福感が凄まじいの――今の私ならなんだってやれそうよ」
俺が言うのもどうかとは思うけど、俺が持つスキルとかその他諸々がこの世界の女性に対して特攻すぎやしないか?
良い意味でも悪い意味でも、とにかく影響を及ぼすこの規模はセレスさんたちが時々口にする神の力だとさえ思えてしまう。もちろん相変わらず調子に乗るような気にはならないが、一旦調べてみても良いかもな。
「カズキさん」
「はい……っ」
「この現象は、あまりにも凄まじすぎるわ。昨日はその……流れというか先走り過ぎて私も幸せな瞬間を味わえたけれど、誰もが一目見て不自然に思うほどに超越的なこの変化がもしも、止めどないものだったら隠せなくなってしまう」
それはつまり、ああいうことをしたら良いことなのに悪いことを呼び込んでしまうということ――女性とエッチなことをしたら、与える影響が良すぎて逆に悪いことを呼ぶとか欠陥すぎるだろ。
でも、確かに昨日俺はセレスさんと一歩先へ進んだ。
そのことを忘れることは絶対にないし、むしろあれこそが本来俺が望んでいたことの一部なんだから。
「でも、だからこそ調べるのよ――カズキさんがまたあんな風になったら楽にしてあげたいし、そもそも私だって……私だってもっともっと沢山のことをしてみたいの! 本当はカズキさんがあまりに凄すぎるし普通の男性と違い過ぎて神様みたいに思っちゃってて、それで最初は触れるのはともかく女の本能が示す行方を求めるのはどうかと考えて実行する気は無かったと言えば嘘になるけど夢物語でしかないと思っていたの。でも実際に私はカズキさんとああいうことをしたわ……あんな幸せなことが他にあるのかってほどだし、あれより更に向こう側の景色があるのも分かってるから絶対に生きてる内に経験はしたいと思っちゃったのよ! 昨晩のやり取りに希望を見出しちゃってもう我慢とか色々難しい領域になって、カズキさんを神のように崇めているのはもちろんだし永遠に傍に居て奉仕したいって思うのもそうなんだけど、カズキさんだからこそ私も女としてもっと幸せになりたいって思っちゃったの!!」
な、長すぎる……っ!!
最初から最後まで息継ぎをしなかったセレスさんは、ここに来てようやく肩を大きく揺らして深呼吸をした。
「と、とにかく! 調べることは調べるとして、色々と考える必要があるということよ。誤解しないでほしいのは、カズキさんと過ごした時間は本当に幸せだったということ……それは確かなんだから!」
「お、俺もです! 俺も最高だったし、もっともっとセレスさんと色んなことをしたいと思いました! というか、最初の相手がセレスさんで本当に嬉しかったです!」
セレスさんが勢いに任せて色々言うのなら、俺もまた隠すつもりはないので全部言ってしまおう!
「っ……~~~~~~~っ!!」
ぶるるッと体を震わせたセレスさんに反応するように、漏れ出ているように見えたオーラが更に濃くなっていき、そして弾けるように四散した。
しかもそのオーラはただ散って行っただけでなく、しっかりと大地に吸われるようにして消えて行き、ただの人間である俺でも分かるほどにその場所には力強い命の鼓動が感じられる。
それを一緒に見ていたセレスさんはこう言葉を続けた。
「以前、子種を提供してくれるって話をしたわよね? 私でさえこんなにも影響してしまうのだから、他の人だとどうなるか分からないわ。それに本番でなくてこれなのよ? カズキさんが意識しなくても変化と影響がこれでもかと現れてしまう……本当に不本意ではあるのだけど、ちゃんとその辺りのことを考えないといけないわ」
「……俺って、なんなんすかね」
俺ってなんなんだ、ついそう呟いてしまう。
今回はセレスさんに飲んでもらってこれなのだから、もしも本番をしてしまったらどんなことが起こってしまうんだ……?
「その……セレスさんに出会わずに居たらと思うと怖いですね」
「そうね……カズキさんの力を求めて争いが起こるのはもちろんでしょうけど、カズキさんと交わる女性が代わる代わる奇跡を起こすとなると混乱ばかりだろうし」
「……マジで俺ってなんなんすかね~」
「やってることは神の所業よ? もしかしたらカズキさんと本番をしてしまったら更に力が溢れて、私たちも神様みたいになってしまうのかしら」
「もし……もしもそういう瞬間が来たら言ってやります――あなたも神にならないかって」
そうだ、みんな俺と同じになってしまえば良いんだ。
少しだけツボにハマったのかクスクスと笑うセレスさんだったが、そろそろ公務があるとのことで部屋を出て行く。
「まだ力は残り続けているけれど、これくらいなら誤魔化せるわ。それじゃあニアを寄こすからまた後程ね」
「はい……あっ! セレスさんちょっと待ってください」
「?」
部屋を出ようとしたセレスさんに近付き、ギュッと強めのハグをした。
「お仕事、頑張ってください」
「っ……えぇ!! 頑張ってくるわ!!」
同じようにセレスさんも俺を抱きしめてくれた後、いつも以上に輝く笑みを浮かべて部屋を出て行くのだった。
そして、入れ替わるようにニアさんがやってきた。
続いて予定を立てていたわけじゃないがメルトさんもやってきたので、驚きつつもまたスキルの鑑定をしてもらう約束をした。
「今日のセレス様、随分と機嫌が良いというか……凄かったっすね」
「確かにそう感じましたね……つい私も、声を掛けられた時にドキッとしたくらいでございます。セレス様が目の前に居るのに、何故かカズキ様と接しているような感覚でしたが」
「っ!?」
ニアさんの言葉にドキッとしたが、本当に俺に宿る力ってどうなってんだよと割と本気で確かめたい気分だ。
(でも……セレスさんとエッチなことがやれたんだよな……ニアさんとかメルトさんともやりてえええええええっ!!)
まあ、大変なことが待っていたとしても下半身に正直な俺だった。
そんなこんなで、この世界における俺の力は多くの影響を齎したものの幸せな日々を送れていることは確かなのだが、やはり順風満帆とは行きそうになかった。
何故なら数日後に、特別な男性がどこかの国に囚われているのではないかと――男だけが住む街を統括する教皇の名において、全ての国に報じられたからだ。
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