レボリューション☆

 それは、男たちに衝撃を与える光景だった。


「あ……あぁ……っ」


 声にならない小さな悲鳴を上げたのは教皇だ。

 見てはならないと、見ては目が汚れると言わんばかりの様子だが、それでも目の前の光景から視線を逸らせない。


「セレスさん……最高です」

「カズキさんが嬉しそうにしてくれるんだもの。もっと頑張るわ」

「あたしたちだって色んな所を舐めるっすよ」

「はい♪ カズキ様、思う存分堪能してくださいませ♪」


 男であるカズキと、エルフの女たちが体を絡ませている。

 肌の白いエルフたちとは別に、肌の黒いエルフは遠慮がちに外から眺めているが、その瞳は羨ましそうにカズキたちを見ている。


「オリエさん、何してるんですか?」

「わ、妾は……既に楽しんだからな」

「オリエさんにも来てほしいです」

「……行く」


 カズキのお願いにダークエルフもすぐに加わった。


「な、何なんだアレは……」


 目の前の光景は間違いなく嫌悪感を催すものだ。

 それなのに男たちの視線を釘付けにして離さないのは女の裸体……ではなく、幸せそうにしているカズキの様子だった。


“自分たちは、あんな風に心から笑みを浮かべたことがあったのか?”


 カズキを見ているとそう思わずには居られなかった。

 もちろん日常の中で笑うことはあるし、友人たちと日々のことを語らいながら酒を飲むことだって多い……だが、それでもカズキの浮かべる笑顔と比べてしまったのである。


「か、カズキ君……止めるのです……そんなおぞましいことは……」


 教皇が、顔を真っ青にしながらカズキたちへ近付く。


「……あ~♪」


 だがカズキだけでなく、エルフたちも教皇に視線を向けることはない。

 カズキを背後から抱き留めるエルフ、両サイドから色々な場所を舐め回すエルフ、極めつけは正面から奉仕しているエルフの女王。


「っ……くっ」

「あ♪」


 カズキが体を震わせ、エルフが嬉しそうにそれを受け止めた。

 掃除をするかのように、或いはアイスでもしゃぶるかのように丁寧な舌遣いに、カズキはまるで天国に居るかのような表情を浮かべている。

 そして、金髪のエルフと青髪のエルフが入れ替わったところで、カズキは相変わらず奉仕されながら教皇にようやく視線を向けた。


「俺は、女性が……彼女たちが大好きだ!! 確かにこの街に産まれたとはいえ、それでも女性に会いたいからこの街を出たんだよ。見たら分かんだろうが俺の顔を! こんな風にエッチなことをされてあふっ! 心から嬉しそうにしてんのがよ!」

「あ、あなたは騙されているのです! 女共に洗脳されて――」

「されてもねえし、彼女たちもそんな酷い女性でもない! 俺が心から傍に居たいと、そう願う大切な人たちだ!!」


 カズキの啖呵に、エルフたちはその瞳にハートマークを浮かべた。


「愛し合ってる……のか?」

「女性と……異性と……?」

「あり得ない……でも」

「あいつは……あんなに嬉しそうで……」


 眺めている男たちも、相変わらず嫌悪感は抱いている。

 しかしあそこまで心からの叫びと、女性に対する想いを口にするカズキから目が離せない。

 そもそも女に対してあそこまで言える男というのを初めて見たというのもあるが、自分たちにはない熱い想いを胸に抱えるカズキに若干の羨ましさも抱いた。


「教皇さんよ、俺のスキルは確かに大きな恵みなんかを齎すらしい。でもその反面、俺が気分を害せばその力は反転する――あの男の指が朽ち落ちたのはそれだ……もしかしたら、この街を終わらせる死の雨が降る可能性だってゼロじゃねえぞ?」

「っ……」


 それはカズキからの脅しに近いものだった。

 カズキが持つスキルについて他の男たちは詳しくないものの、カズキが嘘を全く言っていない様子なので僅かに恐怖を抱く。


「俺は、女性たちと生きていく……俺を必要だと、愛してると言ってくれる女性たちの元で生きる――だからもう、俺に構うのは止めろ」

「ふ、ふざけるな……ふざけるなああああああああっ!!」


 結局のところ、教皇はカズキを手元に置いておきたいだけだ。

 この世は男を絶対として回っている。教皇を更に絶対的な立場にするためには、神に等しき力を持っているカズキを置いておけば、教皇の権力と発言はこの世界において絶対となるだろうから。


「へへっ、教皇さん……教皇――アンタに見せてやる」

「な、何をですか……?」


 ニヤリと笑ったカズキは、エルフに顔を近付けてこう言った。


「アンタがもっとも恐れるのは男と女の愛し合う姿。これも全然愛し合う姿だとは思うけど、もっと分かりやすいモノさ――セレスさん、キスしましょう」

「えぇ♡」


 そうして、カズキとエルフはキスを交わした。

 びちゃびちゃと下品に音を立てるような深いキスは、それだけカズキとエルフが互いに互いを想っているからこその力強さを備えている。

 見ているだけで心が震える……認めたくないと男たちは思っても視線を逸らせない。


「好きです……好きですセレスさん」

「私もよ……私もカズキさんが大好きだわ」


 そんな愛の言葉を交換し合う二人に、教皇は発狂して倒れた。

 ピクリともせずに動かなくなった教皇に視線を向けた後、カズキはジッと見ている男たちに目掛けて口を開く。


「俺は、女性が好きだ。だから嫌ってくれて結構だし、俺もこの街から居なくなるから誰も困らないだろ。安心してほしい――俺はここに戻らず、ずっと彼女たちと幸せに暮らすからな!」

「それじゃあ、一旦戻る?」

「お願いします!」

「はいきた! では帰るっすよ~」

「……人前というのも悪くないですね」

「ニア……? お主、何か目覚めてしまったのか?」


 こうして、カズキたちは魔法によって姿を消した。

 この日の出来事は男たちの記憶に強く刻まれ、ある意味で革命とされた運命の日だった。

 後にカズキそのものを否定する性懲りもない雑誌が教皇の名の元に発行されるものの、それは世界にカズキがバレた瞬間だった。


 要するに、カズキの終わらないモテ期の到来である。

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