主になるようです

 ミューズさんの提案に乗り、精の提供をすることになった。

 これとは少し事情が変わるものの、セレスさんに一度は提案をしたことがあったので是非もないことだ。

 ただ、やっぱり少しだけ信じられない部分はある。

 だってそうだろう? サキュバスという種族に精が特効薬になるとはいえ、本当に望まれて提供する側になれるとは思わないじゃないか。


「それじゃあカズキさん」

「は、はい!」


 もう少し量があれば良いかなと思い、せっかく大きくなっていたのでセレスさんが相手をしてくれた。

 ニアさんに対抗するように胸を使ったやり方で採取され、その時についセレスさんに対する好きという感情が溢れ、思いっきり好きですと口にしてセレスさんが顔を真っ赤にした。


「よ、よしっ!」


 そうした状態で採取され、魔法を掛けて保存し切り分けていく。

 精のことに関しては誰よりも知識と本能で理解しているミューズさんの言葉だと、もしかしたらかなりの長い時間に渡って若さを保てるだけでなく、サキュバスとしての能力の持続が出来る可能性があるとのこと。


「本当に凄いでありますよ! こんなに特濃なのは、おそらくあの街の男性たちでも無理だと思うであります!」

「当たり前でしょう。カズキさんは特別なんだから」


 グッとセレスさんが抱き寄せてそう言ってくれた。

 ニアさんもうんうんと頷いており、少し反応に困るというか照れてしまうけれど、目の前に立つミューズさんは穏やかな表情で言葉を続けた。


「正直なことを言えば、私は男性を前にした時に理性が吹き飛ぶと思ったのであります。たとえ老人の姿だとしても、サキュバスとしての能力が劣化していたとしても、きっと襲い掛かってしまうのではと……ですが、カズキ様を前にしているからなのかそんな気持ちよりも、圧倒的に尊き存在だという認識が強いのであります」

「つまり?」

「襲おうだなんて絶対に思えないのであります。サキュバスとしての本能をあなた様のために捨てても後悔はないと、ただあなた様が生きるこの世界で私も生きられればそれで良いと……そう思うのであります」


 ジッと見つめてミューズさんはそう言った。

 その瞳に力強く見つめられることにドキッとしたが、同時に若干の恐怖を感じたのは何故だろうか。

 恐怖というと強い言葉かもしれないが、ミューズさんが言葉にしたように全てを捧げられてしまうような、どこまでも強い忠誠のようなものを感じたのである。


「ねえミューズ」

「なんでありますか?」

「もしかしてなんだけれど、カズキさんに対して隷属していない?」

「隷属?」


 なんだそれ、ちょっと物騒な言葉が飛び出たぞ。


「……あ! そうでありますね! これ、完全に体と魂がカズキ様に隷属しているであります!」

「っ!?!?」


 あまりにも軽い言葉とは裏腹に、俺はえっと困惑だ。

 隷属とはつまり、俺に従う存在になったということか? それはそれでエッチな響きすぎてドキドキするけど、流石にそこまでになってくれとは思っていないぞ。

 俺の困惑した顔に気付いたミューズさんは、下っ腹でいつの間にか浮かび上がっていたピンクの模様に指を当てて言葉を続けた。


「これもまた私の本能からの言葉でありますが、おそらくカズキ様の精を取り込んだことで変化が起こったのであります。本来歩むはずだった運命を変えてくれたこと、女としての喜びを思い出させてくれた奇跡を齎してくれたこと……何よりサキュバスとしての誇りを思い出させてくれたカズキ様に対し、この方に魂を捧げなければ誰に捧げるんだと体が作り替えられたのであります!」

「そ、それは……いやいや、良いんですか? そもそも隷属って響きがあまり良くはないというか、まるで奴隷みたいな気がして」


 そう、隷属というと奴隷みたいな感覚がする。

 前世で奴隷モノの作品を良いなと思うことはあったが、だからと言って実際に奴隷を持ちたいかと言われたら答えに窮する。


「カズキ様は、やっぱり優しいであります」

「ミューズさん?」

「もし良かったら手を握らせていただいても良いでありますか?」

「それは別に構いませんが」

「ありがとうであります!」


 ギュッと、ミューズさんは俺の手を握った。

 その拍子にミューズさんは顔を赤くし、プシュッと何か水が噴き出すような音が聞こえたが、ミューズさんの言葉に耳を傾ける。


「サキュバスにとって、これはとても幸せなことなのであります。この男性に体を、魂を捧げる……それはサキュバスとしての喜びであり、幸せの形なのであります。男性の精気がなければ満足に生きていけないはずの私たちが、男性に仕えることが出来る……だからこれは、私たちサキュバスにとって最高の栄誉なのでありますよ」


 それがこの世界のサキュバスの在り方なのだと、この在り方に変化させることこそがサキュバスの幸せだとミューズさんは言った。


「……俺は、別に主になりたいなんてものはないですよ。ただ俺は、セレスさんたちのような……あなたたちのような綺麗でエッチな女性が好きなだけの男です。それこそ猿と言われたら受け入れるくらいに、おっぱいが大きな女性とかが大好きなだけの男ですよそれでも良いんですか!?」

「カズキさん……っ!」

「カズキ様……っ!」

「素敵……いぐっ」


 感情に任せて捲し立てるように言ったが、結局はそれなんだ。

 俺の言葉に合わせて抱き着いてきたセレスさんとニアさん、そして今気付いたけどミューズさんが凄いことになってる。何とは言わないけどとてつもないことになってる!?

 色々と起きすぎたが、一旦落ち着く時間を作った。

 そして、俺も頭を冷やして答えを出した。


「俺は助けられる者を助けたいって思いました……俺にはそれを実現出来るスキルがあるから。サキュバスの主になるつもりはないですけど、どうか元気になってください」

「ありがとうであります!」

「ちなみに……何がどう変わるんですか?」

「えっと~。まず私のように、老人の姿をしているサキュバスたちがみんな若さを取り戻すであります! おっぱいも元の大きさになりますし、性欲も取り戻すであります! そしてサキュバスみんなが、私のようにカズキ様を絶対の存在だと認識するであります! ただ極端にそれを行動として見せることはなく、どこまでもカズキ様の気持ちを優先はするので本当に安心してほしいであります!」


 そこまで言ってくれるなら大丈夫そうだなと、俺は息を吐いた。


「カズキ様という男性の存在について、匂わせないようにするという感覚も生まれているであります。なのでこの状態になった私たちが、カズキ様のことはたとえ興奮した状態であっても口を滑らせることはないと約束するであります。まあ、私を含めて他のサキュバスが男がどうこうともはや騒ぐこともなくなるでありましょうが」


 それは助かるな。

 その後、ミューズさんは俺の精を持ってサキュバスたちの国へと戻って行った。


「……ふぅ」

「素敵だったわよカズキさん」

「そうですかね? その……俺からすればエロサキュバス見放題かようおおおおって感情も強いんですけど」

「そうやって女を求めてくれる姿が素晴らしいのよ。あぁ本当に、カズキさんと居ると良い感情が絶えないわね!」

「ふふっ、それは私も一緒でございます。カズキ様と居ると、幸福で旨がいっぱいでございます」


 あ、だからいつもそんなに大きいんだとは言わないぞ。

 さて、今回サキュバスに関してこういうことがあったわけだが、それから二日が経った後、セレスさんと共にサキュバスの国へと招かれた。


「あなたを待っていました」

「……………」


 壮麗な城の玉座に座る凄まじいまでの色気を放つ女性。

 ミューズさんと同じ立派な角や羽、そして尻尾を持っていることから当然サキュバスだ。

 背もかなり高く二メートルは越えているかもしれない。

 そして何より、俺がこの世界で出会った最高バストを持つメルトさんよりも更に大きな乳をぶら下げている。


「カズキ様! この方が私たちの王であるリリス様であります!」


 なるほど、これは確かにエロを司るサキュバスの親玉だ。

 納得しかねえ。

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