過酷な貞操逆転世界で女性に会いに行ったら、何故かヤンデレになって神のように崇められていた件

みょん

この貞操逆転世界で俺は……

 この世界は終わってやがる。


「……終わってやがるマジで」


 本当に、終わってやがる。

 どうして突然そんなことを口にしたのか、それは俺が今生きているこの世界に絶望しているからである。


「転生したと分かった当時は心底ドキドキしたのに、こんなつまんねえことがあってたまるかよ」


 突然だが、俺ことカズキは転生者だ。

 何がどうあって死んだかは覚えてないが、現代日本から異世界へと転生を果たした。

 物心付いた頃から何か引っかかるなと思いながら過ごし、二カ月前に十六歳の誕生日を迎えた瞬間、俺は全てを思い出したのである。


「異世界……魔法が存在するファンタジー世界……エルフとかの人外も存在する世界……!」


 この世界は魔法が存在するだけでなく、人ではないエルフやサキュバスも存在すると言うじゃないか!

 しかし……記憶を思い出したと同時に、俺は絶望した。

 かつての自分を思い出し、価値観そのものが元に戻ったからこそ俺はガッカリしたのである。


「なんで異世界に転生したってのに……俺は異性を一度も見てないんだっての馬鹿野郎がよ!」


 そうなのだ……俺はこの世界で例外を除き女性を見た記憶がない。

 俺が住んでいるこの街は、高い城壁に囲まれた特殊な場所……この中には男しか住んでおらず、基本的に女という存在は居なかった。

 これはあまりにも異常すぎる……だが、この異常を説明出来てしまう理由が存在しており、それが貞操観念の逆転した世界ということだ。


「……はぁ」


 傍に誰も居ない中、俺はため息を吐く。

 前世でも貞操逆転系の創作物は履修済みだが、その作品には絶対に女性というものは登場している。

 というか貞操逆転世界に女性という存在が居るからこそ物語は成り立つわけで、エロ方面にもギャグ方面にも多彩な動かし方があった。


「男は守られる存在……だからこそ、男として産まれた時点でこの街の中に保護される……な~にが保護だよ。俺からすれば監獄だわ」


 この世界の感性をしていたならまだしも、俺はかつての自分を取り戻しているので女性が大好き……というと変態度が途端に増すが、どこを見ても女性が居ないというのは心が死ぬ!

 俺にとって女性は恐れるべき存在でもないし、ましてや気持ち悪い存在でもないんだからよ!


「一応、物資の搬入とかで外に住む女性が街に入ってくるけど……絶対に肌や顔を見せないフルフェイス鎧姿だもんなぁ」


 つまり、それだけ男性は女性に対して嫌な気持ちを抱いているらしい。

 以前に読んだことのある本では、この世界の男は産まれながらにして女性への嫌悪などが本能に刻まれるらしい……マジで終わってるわこのクソみたいな世界。

 ちなみにどうやって子供が産まれるかだが、一応は存続のために子供は作らないといけないので、男は顔も名前も知らない女性に精子を提供し、女性は金がもらえるので魔法でそれを取り込み子供を成す。

 そして男だったら取り上げられ、女だったらそのまま自分の子供にするとのこと……ほんまに終わってるこの世界。


「だからか両親なんて居ないしな」


 まあ、どこかに俺を産んでくれた女性はもちろん子種を提供した男性が居るのかもしれないが、きっと会うことはないんだろう。


「友達とのやり取りは楽しいんだけどなぁ……でもやっぱり、この生活は俺の精神衛生上よろしくない」


 思い出すのは大人の男性から聞かされた言葉だ。


『俺たち男は選ばれた存在であり、女はそんな俺たちのために生きる存在だというのは昔からのモノだ。女共が俺たちのために物資を支給し、街の外の治安を守るのは当然の義務なのだから』


 もちろんお偉いさんの男性ともなれば、色々な面の話し合いのために女性と話をする場面も多いらしいが、その時に女性に対する暴言なんかは止まることがないらしく……かといって女性も男という存在に対し神聖なものだと考えているので基本ショックは受けず、こういうものなんだと受け入れてるんだとか。


「……女性に会いたいや」


 一度も女性を目にすることなく、天寿を全うするのは嫌だぞ俺は。


「……一旦帰るか」


 そう小さく呟き、俺は世話になっている孤児院へと戻るのだった。



▼▽



「女に対してどう思うか? いや、気持ち悪いだろ……噂によれば俺たち男を見たら触りたいだとか、喋りたいとかそんなことを延々考えてるんだろ? 甘い匂いとか、でけえ乳に尻とか……考えるだけで嫌だぜ」

「……そうかよ」


 はっ、これが年頃の少年の言葉だってんだから終わってるわ。

 こう言ったのは良くつるんでた同年代の男子で、中々のイケメンで世界が世界なら女子を侍らす王子様っぽいやつなのに……こいつは生まれる世界を間違えたな可哀そうに。


「そういうお前はどうなんだ?」

「俺、女……女性に会ってみたいけどな」

「……引くわ」


 とまあ、こう言えば軽蔑されるわけで……ちなみに男だけが住む街が平和かと言われたらそうではなく、結構陰口やイジメみたいなものが酷い。

 後、何も役立つ能力を持ってなかったら見込み無しとされて待遇も一気に悪くなる……これもまた当たり前だってんだから嫌だわ。


「女に会ってみたいとか言う奴と付き合ってられるかよ。金輪際話しかけんじゃねえカス」

「……………」


 長年共に居た友達が今、一人減っちった!

 この世界の男が結構ドライなのも分かっており、こうやって一度嫌われたら二度と関係が修復されることもないので、本当の意味で彼との友人関係は終わりを告げたわけだ。


「こんな閉鎖された街に何の面白味があるってんだ――決めた、俺はこの街を出る。少なくとも外の方が息が詰まることもないだろうし、何より女の人にも会える!」


 外に居る女性が男を求めるエロい人だったら?

 はっ! そんなの願ったり叶ったりだろうが!


「幸いに魔法も便利なもんが使える……それで行けるだろうし!」


 ちょうどこの日、数時間後に街の外から物資の搬入が行われる。

 そこで荷物に紛れ、街から脱出するぞ――進んで外に出ようとする男は存在しないし、そういう意味でも必ず成功するはずだ。

 そして――時間は流れて夜になり、俺は……。


「今日のお勤めも終わりか」

「お疲れ様でした先輩」

「君もお疲れ様……ふぅ」


 ガタゴトと揺れる木箱の中で、俺は息を殺していた。

 耳に届くのは仕事を終えた二人の女性の声……そう――あまりにも呆気なく、俺は街の外へと脱出できたのだ。


「ところでその木箱……物を出したにしては重くなかったか?」

「そうですか?」

「っ!?」


 前途多難!

 どうなる俺!?

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