柔らかさはエルフもダークエルフも変わらない

(これは……一体どんなプレイなんだろうか)


 そう思った俺は悪くないはずだ。

 ダークエルフであるオリエさんとの話が纏まってすぐ、転移魔法でオリエさんの居城へと飛んだのだ。

 セレスさんの居城に比べて暗さの目立つ建物だが、ある意味で今までの悪役っぽいダークエルフの居城と考えればそれっぽい気もする。


「あ、あわわ……っ」


 チラッと横を見れば、オリエさんが威厳も何も無くしたかのように顔を赤くしてあわあわしている。


「ぅん……♪ まさか、オリエに見られながらだなんて……でもちょっとクセになるかも♡」

「何を言っとるかこの変態めが!!」


 俺は今、オリエさんの寝室でセレスさんにマッサージをしている。

 オリエさんからすればエターニアに起きた奇跡の全てに関して、俺の力によるものだとは理解してもこういう行為だと言っても信じてくれなかったので、こうして実際にやっているわけだ。


(ほんと……何のプレイだ?)


 ただまあ、セレスさんへのマッサージは好きだしこうしてエッチな姿を見れるのならやらないわけがない。


「信じられないかもしれないですけど、俺って女性が好きで……その感情とか諸々がエッチな気持ちに連動して発動する奇跡なんですよ。自分でも何を言ってんだって話だけど、実際にこれであの雨とか降ったんです」

「……………」


 オリエさんは口をパクパクさせながら唖然としている。

 ちなみにそうしている間にもセレスさんの嬌声は止まず、段々とオリエさんのベッドが濡れていく。


「馬鹿者! 漏らすでないわ!」

「気持ち良かったら女なら出るものよ仕方ないじゃない!」

「我慢しろ!?」

「ふんっ、所詮男性に……カズキさんに触れられたことがないから分からないのよこの気持ち良さが――うああああんっ♪」


 思わずオリエさんが目を背けるほどの大きな声を出し、体をビクビクと震わせたセレスさん。

 その瞬間に今まで見たよりも一際強い紋様が浮かび上がり、セレスさんの体を伝うようにベッドに広がり、そして部屋中に広がってから窓を通って外に向かう。


「こ、これは……っ!」


 このダークエルフが住まう土地は本当に荒れていた。

 それこそエターニアの地も雨が降らなかった影響もあって作物や花の元気がなかったけど、ここはそれ以上だった。というより、中には枯れて既に命を散らしたように見えたものもあった。


「こんなことが……こんな奇跡が本当に……っ」


 唖然とするオリエさんと、はあはあと息を吐いて満足そうに笑みを浮かべるセレスさん。


「もしかしたらこれ、私たち女性側の気持ち良くなる度合いももしかしたら効果に繋がるのかしらね」

「それは分かりませんけど……でもこんなことが」


 枯れて茶色くなっていた葉っぱや、枝の折れた花が蘇った。

 失われていた色を取り戻し、生命力を感じさせるかのように堂々と天に向かって立ち上がったのだ。

 おそらく完全に死んでいたわけではなく、僅かに命が残っていた。

 そうでなければ一度死んだ物を生き返らせることになってしまい、逆にそれは俺の方が怖くなってしまう。


「セレスの国以上に、ここは荒れ果て死に瀕していた……それがこんなにも色を取り戻し、生命の息吹を感じるとは」

「これがカズキさんの力よ。私たちを助けてくれただけでなく、新たな道を歩ませるために憎しみさえ浄化させる神の如く力」


 だから神の力ってのは止めてほしいというか……。

 セレスさんの言葉を聞き、俺の力を完全に理解したらしいオリエさんはその場で跪く。


「ちょ、ちょっとオリエさん!?」


 流石にそこまでする必要は無いと声を掛けようとした直後、外から沢山の歓声が響き渡った。

 エルフの人たちが生命の息吹を感じられたのと同様に、ダークエルフもそれは同じなんだろう。自分の力だと誇示するつもりはないが、こうして多くの人が喜んでくれている声が聴けると頬が緩みそうになる。


「カズキ殿……妾は、あなたに何を返せば良い?」

「え?」

「否、その前に感謝の言葉を伝えねばならんか――カズキ殿、我が国を救っていただき感謝する」


 胸の前に手を置き、頭を下げたままオリエさんはそう言った。


「……えっと」

「カズキさん、改めて思ったけど……おそらく雨が降らないだけでなく、元々私たちの住む地には呪いのようなものがあったのかもしれない。そこに生きる命を弱らせるもの、それは私たちの心に巣食っていた憎しみと同じようなものでしょう――あなたが居なければこうして私たちの問題は解決しなかったし、国は終わりの一途を辿っていた」

「……………」

「元々カズキさんは、ただマッサージをしてくれたつもりだった。でもあなたの力は奇跡を起こし、こんな風に大袈裟になってしまったけれど、確かなのは私たちを救ってくれたのはあなただということよ」


 俺は、その言葉にどう返事をすれば良いのか分からない。

 確かにセレスさんが言うようにただのマッサージが、ただただ女性に触れたいという邪な感情がここまでの大袈裟な出来事を引き起こし、まるでギャグマンガのような有様になってしまった。

 誰かを救いたいという崇高な想いだけではなく、邪な感情が大いに絡んでいるから中々反応に困るのだ。


「色々と考えたいことがあるかもしれないけれど、良かったらオリエにもやってあげてくれない?」

「わ、妾にもか!?」


 オリエさんがサッと顔を上げた。

 先ほどのことを思い出すように顔を真っ赤にしながらも、どこか期待するような眼差しなのは気付いた。

 セレスさんやニアさん、メルトさんと接したことでその辺りの観察眼もかなり養われたらしい。


(そう……だな。一旦難しいことを考えるのは止めよう――取り敢えず欲望を優先してみる!)


 そうと決まれば、俺がオリエさんに伝えるのはこれだ。


「オリエさん――お返しなんですけど、マッサージをさせてください。あなたの体に触れさせてください!!」

「っ!?!?!?!?」

「……ある意味で殺し文句よねぇ」


 いや、殺し文句じゃなくて欲望の叫びです。

 既に大地に生命力が満ちたとはいえ、おそらくあの雨のような奇跡はそこに住む人じゃないと発動しないのかもしれないし、それもあっての提案だ。


「わ、分かった……っ!」

「ありがとうございます!」


 オリエさんは決意を込めた返事をした後、服をパージするかのように脱ぎ捨てた。

 そうしてセレスさんが先ほどまで使っていたベッドに横になり、背中を向けてチラッと俺を見る。そこにはダークエルフの威厳はなく、どこか初心な少女のようにも見えてドキッとした。


「た、頼む……」


 ニコニコと笑うセレスさんに背中を押され、俺もベッドに上がりオリエさんの背中に手を当てた。


「あ……♡」


 そこからの時間は、こう言ってはなんだが凄まじかった。

 横でセレスさんが常時教えてくれたことなのだが、ダークエルフは普通のエルフよりも性欲が強く、更には快楽神経も異様に発達しているとのことらしい。


「あ……あぅ……あへ……」


 それを知らなかった俺は、見るも無残なオリエさんの顔を見ることに。

 まるで俺が死ぬ直前に流行っていた僅かに白目を剥きながら舌を出して気絶するというアレな表情だ。

 だが、オリエさんの体に紋様が浮かび上がったかと思いきや、大きな音を立てて大粒の雨が降り始めた。


「改めて見ると凄いわねこれ」


 窓からセレスさんが手を出して雨に触れれば、薄い緑色の粒子がセレスさんの体に溶け込んでいく。


「触れるだけで体を元気にするだけでなく、耐性さえも持つ……これを瓶に詰めたら最上級ポーションなんて目じゃないわね」

「そういうのもあるんですね」

「えぇ……ただ、それは無理かしらね。この雨の雫は、こうやって時間が経てば消えてしまうから」


 じゃあ瓶に詰めて商売とかは無理なのか。

 ちょっとだけ残念に思ったその瞬間、俺の体は力を失ってそのまま倒れてしまう。だが俺の顔が誘われたのは、いつの間にかこちらに体の正面を向けていたオリエさんだった。


「か、カズキ殿……? 大丈夫か?」

「あ、はい……実はメルトさんと一緒の時にもこうなったんです。ほんの少し動けないので申し訳――」

「……構わぬ。妾の胸で良ければ、いくらでも枕にして良い。むしろ包んであげたら喜ぶか?」


 オリエさんは、まるで大切な宝物を見つめるように微笑み、その豊満な胸元に顔を埋める許可をくれるのだった。


(……やわらけぇ)


 取り敢えず、ダークエルフの問題はこれで解決で良いのかな?

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