卑しいエルフたち

「あら、何かしら」

「どうしたのじゃ?」


 男だけが住む街にて、セレスは何かを感じ取った。

 全身を覆い隠す頑丈な鎧から美しい声が聞こえてくるのも中々だが、その隣に居る小さい鎧を纏う女性もまた斬新な光景だ。


「何でもないわ」

「ほう? 何やソワソワしておるようじゃが、お主何かあったか?」

「な、何がですか」

「最初は男だけが住む街に来たからこそのソワソワかと思ったのじゃがどうも違う……儂ははしゃいでおるが、どうもお主のは違うと思ったんじゃ」


 少女……鬼族の長の言葉にセレスは下手くそな口笛で誤魔化す。


「……正直、会った時からおかしく思ったんじゃ。お主の纏う魔力、雰囲気が明らかに違うことにの。まるで何か大きな幸福を得たおなごの顔をしておる」

「まあ、私もまだまだ若い女よ」

「そういうことを言っておるのではない。女の儂でさえ、むしゃぶりつきたくなるほどの色香を感じるのじゃ――のう、抱かせてくれんか?」

「生憎とそっちの気はないので。でも敢えて言うなら、今の私は幸せという感情により最強ではあるわね」

「ほほう?」


 セレスは自信満々にそう言い放った。

 もちろんセレスのこの言葉と纏う雰囲気が気になったのは、鬼族の長だけでなく他の同行している女たちも一緒だった。

 一体何があったのだろうか……そんな風に思う彼女たちの前に、男たちを纏め上げる教皇が現れた。


「ようこそおいでくださいました。醜い姿はしっかりと見せないようにしていただけているようで何よりです」


 登場から随分と御挨拶だが、女性でアクションを起こす者は居ない。

 これが普通だからというのもあるが……だが一人だけ、セレスだけは目の前の教皇と、そして周りに集まる男たちを見下していた。


(こんなものを今まで私は……カズキさんと比べたら塵に等しいわね)


 カズキとのことを思い起こせば、以前まではあった興奮も……そして尊さを重んじる気持ちさえ失われていることに気付く。

 もちろんそれを言葉にすることも無ければ態度に出すこともないが、とにかくセレスにとってカズキの存在がそれだけ大きいということ、そして愛が芽生えていることに他ならなかった。



 ▼▽



「今……セレスさんの声が聞こえたような」

「へぇ? もしかしたらこの幸福を感じったかもしれないっすね」


 目の前で、メルトさんが大粒の雨に打たれながらそう呟いた。

 確かにセレスさんの声が聞こえたような気がしたんだが……まあそれはともかくとして、嬉しそうに大雨に打たれている美女という光景も凄いんだが、雨に濡れたらどうなる?

 そう、服が肌にピチッと張り付いて凄いことになる。


「……目の保養だぜ」


 気のせいかもしれないが、街の方から歓声も聞こえるし……もしかしたらメルトさんだけでなく、他のエルフたちが雨に濡れて素晴らしい光景が広がっているのかも……いや確実にそうだ。


「くぅ……見に行けないのが残念で仕方ないぜ!」


 地団駄を踏むように悔しがる俺だが……でも、こんなに雨が降ったことで喜ぶくらいに今まで大変だったということが伝わってくる。

 そんな風にメルトさんを見ていたら、ニアさんも部屋にやってきた。


「カズキ様!」

「ニアさん?」


 全身ずぶ濡れのニアさんだが、瞬時に魔法で体を乾かす。

 そのまま近付いてきたニアさんは外で喜ぶメルトさんを見た後、俺に視線を向けてきた。


「もしかしてと思ったのでございます……この雨は、カズキ様のお力によるものでは?」

「そ、そうみたいです」


 隠すことでもないので俺は素直に頷いた。

 ニアさんはその瞬間、目の色を変えるようにして片膝を突く……ぷるんと揺れた胸が服からはみ出そうになったが、惜しくもポロリはない。


「ありがとうございますカズキ様……あなたはどこまで私たちに奇跡を齎してくださるのですか……っ!」

「えっと……」

「ニアさんの実家はかなり大きな果樹園をやってるっす。それもあるんじゃないっすかね」

「そうだったんですね……あぁもう! 何が何だか分からないけど、みんなが喜んでくれてるなら最高です!」


 そうだな、もうこれが真理だ。

 こういう現象を引き起こしているのが自分だという実感はないけど、それでも確かにこの国の人が喜んでくれているのなら俺は嬉しい。


「……およ?」


 だが、そこで俺の体に異変が起きた。

 突然足元がふらついてしまい、そのまま倒れそうになったのだ……だが地面に顔を打ち付けたりすることはなく、ちょうど正面に居たニアさんがおっぱいで受け止めてくれた。


「カズキ様!?」

「どうしたっすか!?」


 ニアさんがまず俺の額に手を置き、メルトさんがいつの間にか背後に居て背中に手を当ててきた。


「熱ではないですね」

「これ……たぶん突然に大規模な力が発動したからじゃないっすか? 魔力がそこを尽きたわけではなく、一気に減ったせいで体が疲れちゃったんすよ」

「そうですか……その、足が動かせそうになくて……頭は全然ボーッとしたりしてない不思議な感覚ではあるんですけど」


 頭の働きは正常なのに、足が……下半身がとにかく動かない。

 なるほど、これが一気に魔力を消費した結果か……まあでも俺が普段から魔法を使ってないのもあるし、多量の魔力量を消費するってのに慣れてなかった故だ。


「でも……天候を変えてようやくこんなですか。もしかして俺ってかなり凄かったりします?」

「凄すぎますよカズキ様」

「凄すぎっすよカズキさん」

「……あはは、美女に囲まれて褒められるのは気分良いですね!」


 でも俺……本当に力になれて良かったって満足してる。

 俺の中にあるエロが呼応して力になっているのもむしろ誇りに思うくらいに、俺は自分の持つ力に感謝した。


「その……ご褒美とかもらえたりしますか?」

「え?」

「ご、ご褒美っすか?」


 俺がボソッと呟くと、ニアさんとメルトさんが顔を見合わせた。

 自分が調子に乗っていることを自覚しつつも、俺はこんな提案を二人にしたのだ――メルトさんは言わずもがな、ニアさんも仕事がひと段落したから言えること……少しで良いからベッドで俺を挟みながら添い寝をしてほしいと。

 そして、その願いは叶えられた。


「あぁ……俺、幸せだ」

「わ、私たちも幸せでございますが……っ!」

「男性と同衾出来るなんて……しかもカズキさんと!」


 俺を挟むように、ニアさんとメルトさんが横になっている。

 ……俺は今、ある意味で男の夢を一つ叶えたと言って良いだろう――一つのベッドで、爆乳美女に挟まれて横になるという最高の夢を!!


「このようなことで良いのですか?」

「もっと何かしたいっすか?」

「いえ……今はこれで良いです。ニアさんとメルトさんの温もりをもっと感じさせていただければ」


 もっとしたいこと? あるに決まってんだろ!

 でも……今は本当にただこうしているだけで良いんだ。俺の言葉を聞いた二人は、更に体をこちらに近付ける……そうして柔らかな弾力が両サイドから与えられる天国の中で、俺は興奮を露にするのだった。


「……っ!?」


 その時、さわさわと下半身を撫でる二人の手に気付いた。

 咄嗟に二人に視線を向けたが、二人とも俺を見つめるだけで特に意識しているわけではない……まさか、無意識にやっているだと!? だとしたらなんてエッチなエルフたちなんだ!!

 これは……行けるんじゃないか!?

 そう思って更なる欲望を口にしようとしたが……口を閉じた。


(……セレスさんが良いって……思っちまった)


 こういうことをするなら最初はセレスさんが……そう思うかのように脳裏に彼女の顔が浮かんだのである。

 セレスさん……早く帰ってこないだろうかと、ここに居ない彼女を思い浮かべたその時だ。


「っ!?」

「これは!?」


 ドカーンと、まるで何かが爆発したような音が響いた。

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