第42話 身体強化
「さて、ここでやるか」
支部長がそう言って僕の方へと振り向く。
僕がつれてこられたその場所は、今までみたことないような大きさの鍛錬場だった。
「ここは普段は冒険者に貸し出している一つなんだがな。今日は無理を言って貸し切りにしてもらった」
「え、貸し切り……?」
「ライバート、お前はその方が都合がいいだろう?」
「っ!」
そう言って、支部長が僕の方へと向き直る。
そこに浮かぶのは、先程の人の良い笑みが消えた獰猛な笑顔だった。
「戦える召喚士がいないとは言わねぇよ。実際に俺は戦う召喚士をみたこともある。しかし、それはあくまで魔術師の戦い方、後衛だ」
そういいながら、支部長はグローブを指にはめ、上着を脱ぐ。
「お前みたいに前線をはる身体付きをした召喚士なんて初めてだ。しかも、相当戦い慣れしてるように見える。……その秘密、ここで教えてもらうぞ」
そう言いながら、後方へと支部長は上着を投げ捨てる。
それが、勝負の合図だった。
次の瞬間、支部長は僕との距離を一瞬で詰めていた。
僕の何倍あるのかも分からないような重量級の身体を持つ支部長。
しかし、その動きはあまりにも早かった。
不意を打たれた訳でもないのに行動が遅れた僕は、それでも何とか自分の身体を剣で防御しながら、後ろに飛ぶ。
だが、無駄だった。
「……がっ」
その瞬間、内蔵が揺れた。
「ライバート!?」
あまりの衝撃に、サーシャさんの声が遠い。
嘔吐感を必死にこらえながら、僕は歯を食いしばる。
確かに、支部長は身体強化自体は使わないとは言っていない。
しかしそれを考慮しても、異常な威力だった。
僕が戦った中で一番力が強かったオーガと比べてなお、遜色のない程に。
……一体、どんな筋力を持っているのか。
にやにやと笑う支部長と目が合ったのはそんなことを考えていた時だった。
そんなものか、そう暗に問いかけるような目に、僕の頭に血が昇る。
その瞬間、僕は叫んでいた。
「シロ!」
「にゃうぅ!」
突然現れたシロに、支部長の注意が一瞬それる。
しかし、動く様子のないシロに、支部長の警戒は困惑に変わる。
その時に、僕はもう動き出していた。
シロによってもらった身体強化というカードを切った上で。
「うお……!」
加速した動きに対し、支部長が困惑の声を上げる。
それに今度は僕の方が口元を緩めながら、剣を突き出す。
狙う場所はシロに注意が逸れたせいで防御があいた右わき腹ぎりぎりの場所。
しかし、それは当たる直前に支部長の拳によって、狙いをそらされることになった。
「……っ」
「嫌らしい場所をつきやがって……!」
そう告げる支部長からは、先程までの余裕を見ることはなかった。
「どんな手品を使いやがった。序盤からとんでもない手を使いやがって」
その言葉に僕は内心思う。
どの口でそんなことを言っていると。
シロの身体強化は、この試合の切り札の一つだった。
付与による身体強化を知る人間は少ない。
サーシャさんの反応からそれを知っていた僕は、支部長にもこの身体強化は通じると考えていた。
その僕の想像は当たり、ほぼ完璧な形で僕は支部長に身体強化を行った攻撃を与えた。
なのに、僕の攻撃は通じることはなかった。
……やはり、場数が違う。
そう改めて警戒する僕に対し、支部長はゆっくりと僕に告げた。
「どうやらお前の実力を見誤っていたらしいな。今から少しやる気を出す」
「……は?」
「──今から身体強化を使う」
瞬間、支部長の身体が爆発的に加速した。
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