第39話 翌日のギルド
「お、ライバート! こんな早くギルド職員になるとは思っていなかったが歓迎するぞ!」
「……話し伝わるの早すぎません? 後、まだ決まってませんよ」
翌日、ギルドにたどり着いた僕はナウスさんの言葉に乾いた笑顔を浮かべることになっていた。
内心どこから話が漏れたのだと驚く僕に対し、ナウスさんは声を上げて笑う。
「当たり前だろうに! お前がいつギルド職員になるか、どれだけ俺達が待ち望んでいたと思ってる! それは噂になるさ!」
「っ! あ、ありがとうございます」
そういいながら背中をバンバンとたたくナウスさんに僕はつんのめりながらお礼の言葉を告げる。
そのナウスさんの言葉に、僕は内心喜びを感じる。
こうして自分を評価してくれるナウスさんの言葉は、単純にうれしいものだった。
……ただ、その気持ちだけというには複雑な感情が僕の中には存在していた。
そう思う程には、今までの展開は急なものだったのだから。
「支部長はもう中で待ってるぞ」
「ありがとうございます」
そうお礼を言うと、僕はギルドの中へと入っていく。
その僕の背中へと、興奮を隠さないナウスさんの声が響く。
「頑張ってこいよ! ギルド職員採用試験!」
その声を聞きながら、僕は強く思う。
「……どうしてこんなことになったんだろ」
◇◆◇
「ではこちらに」
「……ありがとうございます」
顔見知りの女性ギルド職員、マリアさんに案内されながら僕は支部長の部屋へと向かう。
その道中、僕の頭に浮かぶのはこの急展開の理由となった昨日の一件だった。
狩人のような目のサーシャさんにギルド職員として勧誘された瞬間は記憶に鮮明に残っている。
むしろ、忘れられる訳がないインパクトがあった。
そしてそんな状況下で、僕にギルド職員の申し出を断るという選択肢はなかった。
……いや正確には、断るのを許されなかったという感じだが。
断ろうとした瞬間に、サーシャさんがいい笑顔で話を変えるのだ。
そしてあれよあれよという間に僕はギルド職員の試験を受けることが決まっていた。
さすがスキル持ちというか、クロの協力をかりても僕程度では相手にもならなかった。
とはいえ、実力不足かもしてないという懸念以外に、別段僕に不満は存在しないのも事実だった。
何せ、ここのギルド職員の人々は本当にいい人達だ。
そして何より、ギルド職員となればサーシャさんの役に立つことができる。
そうなれば、僕に断る積極的な理由はありはしなかった。
とはいえ、今の状況は決して僕の本意ではないのも事実だった。
「……昨日の今日で試験なんて」
僕はサーシャさんに勧誘された形になるが、とはいえ許可した瞬間ギルド職員になれるという訳ではなかった。
というのも、いくら権限が強いとしてもサーシャさんにギルド職員の任命権はないのだ。
特急ギルド職員が有しているのは、ギルド職員の雑用の任命権とギルド職員の推薦する権限程度。
正式なギルド職員任命権をもつのは、あくまでギルド支部長一人。
そのギルド支部長の鶴の一声により、僕の試験は今日行われることに決まった。
「ギルド支部長もライバートに会いたがっていたらしい、か」
今日の朝、軽い調子でサーシャさんから告げられたその言葉を思い出し、僕はため息をつきたくなる。
どうして、もう少し時間をあけてはくれなかったのかと。
「緊張してるの?」
僕の前から声が響いたのはその時だった。
顔を上げると、そこにいたのは心配そうな表情のマリアさんだった。
ショートの金髪から覗く心配げな視線と目が合う。
それに僕は苦笑しながら告げる。
「そうですね、少し」
「確かに、支部長は厳しいからね……。私の時も突発的な試験受けさせられたし」
その言葉に、僕の顔が強ばる。
……サーシャさんはほぼ受かる、というか受からせると豪語していたが、そう現実は簡単に行かないらしい。
けれど緊張する僕と対照的に、マリアさんは笑顔で告げる。
「大丈夫よ。ライバートを支部長が逃すとは思えないし」
そこで、言葉を切ったマリアさんは後ろに手を回し、上目遣いで告げる。
「それにもし、落ちても私が付きっきりで教えて……」
「よけいなお世話よ」
「いったー!」
ぽこん、と音がしてマリアさんの頭に書類の束が振り落とされた。
次の瞬間、頭を押えたマリアさんの後ろから姿を現したのは、半目になったサーシャさんだった。
「そんな痛くないでしょうに。私が居るのにマリアじゃ役不足に決まってるでしょ」
「なによー! サーシャは教えるの下手じゃない! 一般人には一般人が教えるのが一番なんですぅ!」
「悪いけど、ライバートも私側だから」
「……え?」
サーシャさんの言葉にマリアさんが絶句する。
しかしそれを無視し、サーシャさんは僕の手を取った。
「ほら、行こ。支部長はもう待ってるよ」
「待って、もうちょっと説明……」
サーシャさんは説明を求めるマリアさんを置いて、ギルド支部長室へと進んでいく。
そして、その扉を開いた。
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