第38話 デジャブ

 それから僕、ライバートは驚愕するサーシャさんへと懇切丁寧に自分の知る全てを説明した。

 今まで僕の周りで一人しか知らない能力。


 付与、について。


 それは、僕が召喚士という立場でありながらオーガを倒し、アズリアを襲った暗殺者を撃退できた理由だった。

 我ながら中々汎用性の高いと思う能力。


 いや、正確には僕の家族である精霊達の能力べきか。


 僕は戦闘の際、精霊達には魔法を使うことで援護してもらっている。

 かつて暗殺者を驚かせたシロの魔法のように、それもまた使い道が多く強力なものだ。

 だが、精霊達が協力してくれるのは援護だけではない。

 実は精霊達は、他にもとある方法で僕に協力してくれている。


 それこそ付与──身体機能の強化だった。


 精霊達には、それぞれ得意な能力がある。


 ヒナは回復力。

 シロは圧倒的な身体能力。

 クロは、圧倒的な知力。

 あともう一人の精霊にもまた。


 そのそれぞれの強みを、僕は付与されることで精霊から分けてもらっていた。

 戦闘系のスキルを持たない僕が、前衛としてバリバリに戦えていた理由こそがその能力だった。

 その付与の存在こそが、僕がこうして様々なことができる理由だった。


 暗殺者と戦ったときのシロの身体強化。

 ぼろぼろの状態でもラズベリアまでこれたヒナの治癒。

 そして、書類仕事をする時に必要不可欠なクロの知覚強化。


 その全てが、付与によるもの。

 そう、付与という力は僕の切り札のような存在だった。

 だからか、僕は今まで家族にもその力について話したことはなかった。


「つまり、これはクロの付与による能力ですね。これで思考能力を強化してる感じです」


 ……故に、サーシャさんへと話しながら、僕の心にあるのは不思議な感覚だった。


 説明が膨大なこともあり、僕が話したのはクロの能力だけ。

 それでも、まだサーシャさんと僕のつきあいは短い。

 そんな状況下で付与について話す自分を、僕は他人事のようにおかしく思う。

 ただ、自分の口が軽くなる理由について僕には思い辺りがない訳ではなかった。


 ──尊敬に値する素敵な精霊達なのね。


 気づけば、僕の口元に軽く笑みが浮かんでいた。

 その言葉を言われた時、僕は気づいてしまったのだ。

 それは僕が言ってもらいたい、そう願っていた言葉だと。

 あの時から、サーシャさんは僕にとってただの恩人ではなくなったのだ。

 あまりにも簡単な自分に、僕は苦笑しながら顔を上げる。


「っ!」


 ……僕が悪寒と共に、狩人が獲物を見つけたようなサーシャさんの視線に気づいたのはその時だった。

 ふと、僕の頭にデジャブがよぎる。

 それは僕の召喚士のスキルを知った時のサーシャさんの様子。


 しかし今、その時の比にならない必死さがサーシャさんの目に浮かんでいた。


「ねえ、ライバート。君はギルド職員になる気はない?」


「……へ?」

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