第17話 目覚め (アズリア視点)

「ん、んん……」


 まばゆい日光が部屋に流れ込む。

 その光に反応し、私アズリアは目を覚ます。

 まず、目に入ってきたのは自分が伸びをした腕。

 そこには治癒で治したのにも関わらず、残るやけどの跡が残っている。


「……っ!」


 瞬間私の記憶に蘇ってきたのは、寝る前の記憶だった。


 襲ってきた謎の男と、その男と交戦するおにいの姿。

 そして、私を庇うために大けがを負った姿。


 それらを想い出したその瞬間、私はベッドから跳ね上がっていた。

 しかし、私の身体が思うように動いてくれることはなく、私は地面に転んでしまう。

 ……暗殺者の一件から私は寝ずに夕方頃までおにいの看病をしていたのだ。

 日差しを見るにまだ早朝で、昨日の私は丸一日近く寝ていない。

 まだ身体の疲れがとれていないのだ。


 けれど、私がもう一度布団に戻る気はなかった。

 なぜなら私は命に危険はないとはいえ、おにいはまだ大けがであることを知っている。

 そして何より、両親は私の怪我をおにいの責任だと思いこんでいることを知っていたから。


 ……本当はずっと起きているつもりだったのに。

 耐えきれず眠ってしまった自分を恥じながら、私はふらつく身体を引きずり、自室の扉を開ける。


「あ、アズリア様!?」


 ちょうどよく、衛兵の一人が自室の前を通りかかったのはその時だった。


「少しお待ちください、当主様に目覚めたことを……」


「待って!」


 ぎこちない表情に、嫌な予感を覚えながら私は口を開く。


「……兄は、ライハードは無事なの?」


 その言葉に、一瞬衛兵は言葉に詰まる。

 しかし、すぐに笑顔で口を開く。


「私の拝見した際には、動く分には問題ない程度に回復されていました!」


「……そう」


 その言葉に私はまず安堵する。

 少なくとも、命に関わる状態にはなっていないようだと。

 けれど、完全に安心することはできなかった。


 何事もなかったと安心するには、目の前の衛兵の様子はあまりにも挙動不審だった故に。


「ありがとう。それなら貴方、えっとマークだったかしら? 兄の部屋に私を……」


 その時だった。


「傷の処置も最低限!? ライハード様に何かがあればどうするのですか!」


 ……向こうの部屋、父の書斎があるあたりから怒声が響いてきたのは。


 その声は普段滅多に叫ぶことのない、家宰のヨハネスの怒声。

 それだけでも異常なのに、その内容は私にとって聞き流すことのできないものだった。


「……っ」


「アズリア様! お待ちください!」


 猛烈な嫌な予感を感じた私は、マークの制止を無視して部屋から飛び出す。

 すぐにマークも追いついてくるが、私が目的の部屋の扉に手をかける方が早かった。

 ばん、と普段たてたことのない音と共に扉を開ける。

 あけ開かれた扉から露わとなったのは、こちらを呆然と見る両親とヨハネス、そしてアグネスと言う執事の姿。


「……アズ、リア?」


 呆然と私の名前を呼んだ父は、私を信じられないような物を見る目で見ていた。

 それも当然だろう。

 何せ、私がこうしてノックもせずに扉を開くような不作法を働いたのは初めてのことだったのだから。

 だが、そんなことでさえ今の私にはどうでもよかった。

 父に半ば睨むような目つきを送りながら、口を開く。


「……教えてください。ライハードは、兄はどうしたんですか?」

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