第18話 強い後悔 (アズリア視点)

 私の言葉に、しばらくの間誰も口を開かなかった。

 しかし、少ししてヨハネスが顔をゆがめて口を開いた。


「ライハード様はこの屋敷から去られました」


「……え?」


 その瞬間、私はその場にへたり込みそうになる。

 実際、後ろにまで来ていたマークが手を貸してくれていなければ、私は座り込んでいただろう。

 そんな私を見て、父は怒声をあげる。


「ヨハネス! まだアズリアには隠しておけと……」


「で、何日隠せますかな? 数日の間でも稼げればよい方でしょう。そんな時間稼ぎに何の問題がありますか?」


「っ!」


 一歩も引かないヨハネスに、父は押し黙る。

 しかし、ヨハネスはさらに吐き捨てる。


「それとも、こうお伝えしましょうかな? ライハード様は当主様方と、そこの青二才によって追い出された、と」


「……は?」


 その言葉に、私は呆然と父を見つめる。

 しかし、どれだけたっても父がヨハネスの言葉を否定することはなかった。


「どうして、ですか?」


 かすれた声を出しながら、私の胸にあるのは怒りではなかった。

 代わりに胸を支配するのは、どうしようもない後悔。

 父がこういう手段に出ることくらい、私には想像できたはずだった。

 それで苦しんでいた兄をずっと見てきたのだから。


 ……故に、そんな状況下でのんきに眠りこけていた自分を、私は許せなかった。


 思わず唇をかみしめる私に、父が忌々しげに告げる。


「本当に追い出す気などなかったのだ。少し罰を与えるために勘当と言えば、それを拗ねてあいつが出ていったのだ!」


 その言葉に私は思わず絶句する。

 ……それは自分の両親から出たとおもいたくない言い様で。

 しかし、そんな父を援護するように隣に立つ母が口を開く。


「私達への当てつけのつもりよ! 今回の件で許されないことをしたのはあの男の方なのに! アズリアを傷つけておいて……!」


「……私はそんなこと望んでいない!」


 その言葉を聞いた時、私は反射的にそう叫んでいた。

 母をにらみつけ、私は叫ぶ。


「あの人は私を庇って大けがさえおいました。それを感謝することさえあれ、とがめることなんて……」


 しかし、その勢いもすぐにやむ。

 私を見る両親は黙っていた。

 けれど、その顔だけだでなにを思っているのか理解するには十分だった。

 すなわち、私の言葉はひとかけらさえ、両親の心に伝わっていないのだ。


「お前はなにも気にすることはないのだ、アズリア。あの男さえいなければ、お前が傷を負うこともなかったのだぞ?」


 そう告げてくる父に、私はどう言えば自分の内心が伝わるか分からず黙る。

 ヨハネスが淡々と口を開いたのは、そんな中だった。


「話になりませんな。まだなにも理解しておられないとは」


「……なにをいいたいの?」


 忌々しげに睨むお母様の視線を真っ向から見返し、ヨハネスは口を開く。


「ライバート様がいなければ、アズリア様は死んでいましたよ」


 その言葉に、部屋の空気は一瞬で凍りついた。

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