第43話 目が合う

「シロ! ヒナ!」


 その時僕が反射的にそう叫べたのは、ほとんど奇跡に近いものだった。


「にゃう!」


「ぴい!」


 シロと、僕の声に反応して現れたヒナが、同時に魔法を発動する。


「おっと」


 もちろん、その稲妻と炎が支部長に当たることはなかった。

 しかし避けたことにより、攻撃の勢いが一瞬止まる。

 それを確認しながら、僕は身体強化を全力で使って後ろへととぶ。


 次の瞬間、僕の身体をとんでもない衝撃が襲った。


「……がっ」


 気づけば、僕の身体は壁に当たっていた。

 肺の中から空気が押し出される。


「ライバート!?」


 僕の名前を呼ぶサーシャさんの声が遠く感じる。

 衝撃にきしむ中、こちらを笑いながら見る支部長の姿が見える。

 反則だろ、声にならない叫びが頭によぎる。

 今更ながら僕は理解する。

 オーガ並だと考えていた支部長の力、それは想像を遙かに超える物だったことを。

 オーガなど、目の前の支部長と比べればあまりにも非力でしかない。


 ……正しく、目の前の人間は別格だった。


「どうしたのか、もう終わりか?」


「っ!」


 そう笑いながら告げる支部長に、僕は痛みをこらえ強く手に持った木剣を握りしめ走り出す。


「シロ、ヒナ!」


 瞬間、雷撃と炎が支部長にたたき込まれる。


「うお、本当に低級精霊の魔力かよ!」


 その攻撃を全て、支部長は笑いながらあしらっていく。

 シロもヒナも全力で打っているのに関わらず、一つの攻撃さえ支部長には通っていない。

 だが、僕の目的は攻撃が当たることで支部長の動きが鈍ることを狙った訳ではなかった。

 激しい魔法に、爆音と閃光が辺りを支配する。

 そして僕は、その爆音に紛れるように、姿勢を低くし、一気に支部長の後ろへと回り込んだ。


 そう、僕の目的はこの陽動だった。

 このまま戦っても僕に勝機はない。

 何せ、こっちは支部長の一撃をしのぐのでやっとなのだから。

 僕が支部長と渡りあう方法は一つ。


 攻撃し続け、支部長に攻撃の機会を与えないことだけ。

 もちろん、そんなことをすれば僕もシロやヒナ達もすぐに息切れする。

 けれど、何度も言うが、あくまで僕の勝利条件はこの剣で支部長にふれること。

 大きなダメージも何も必要ではなく、ただ不意さえつければいいのだ。

 そして、今度こそ。


「……え?」


 ──僕の目が、支部長とあったのはそのときだった。


 背筋が凍り付く。

 思考が追いつくその前に、僕の頭は大声で叫んでいた。


 このままでは危ない、と。


 そう僕は支部長の裏をかけたのではない。

 ……支部長に誘い込まれたのだ。


「あ」


 次の瞬間、僕へと丸太のような支部長の拳が叩き込まれた。

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