最終話 涙
……その言葉に、僕は不覚にも涙腺が緩むのを感じていた。
実家だけじゃない。
僕だって、数日前までは信じなかっただろう。
こんなすごい冒険者にそんな事を言ってもらえるなんて。
けれど、こんなところで泣くのはあまりにも情けない。
その思いから僕は必死に泣くのをこらえる。
そんな思いを知らずに、支部長はくしゃりと笑った。
「それと、やりすぎて悪かったな。つい、お前が強くて加減を見失っちまった。お前は本当に優秀な男だよ」
そう言って、心底嬉しそうに支部長は続ける。
「お前みたいなギルド職員が入ってくれて本当に嬉しいぜ。これから頼りにしているぞ」
ああ、ずるい。
そう思いながら、僕は何とか涙をこらえて支部長と握手を交わす。
「……僕の方こそ、ありがとうございます。僕もここに来れて良かったです」
それは月並みな言葉でありながら、僕の本心だった。
ここにこなければ、僕はずっと自分を穀潰しだと思いこんだままだっただろう。
だから、心からのお礼を込めて告げる。
「これからギルド職員として全力でがんばります」
「あ、やべ言い忘れていた」
支部長が気の抜ける声を上げたのはその時だった。
「ライバート、お前はギルド職員じゃないわ」
「……え?」
その言葉に僕の全身から血の気が引く。
何か僕はとんでもないことをしてしまったのだろうか。
そんな恐怖が胸に宿り。
「さっきした試験は一級ギルド職員の試験だったの言い忘れてたな!」
「え、え?」
「がはは、そうだったそうだった。ライバート、お前は今日から一級ギルド職員だ。もちろんまだ見習いになるがな!」
その言葉に、僕は何の反応もできなかった。
それもそうだろう。
だって、僕は必死にこらえていたのだから。
……だが、もう限界だった。
「ら、ライバート!?」
次の瞬間、堰を切ったように溢れ出した涙に、支部長が驚きの声をあげる。
しかし、もう無理だった。
それはあまりにもずるすぎる、僕は声にならない代わりに胸の中でつぶやく。
……恥ずかしい、と思いながら耐えてきた涙はしばらく止まりそうになくて。
「いい加減入りますからね、支部長! ……って、ライバート!」
「え、何でこんなに泣いてるの!?」
部屋の扉が開く音、聞きなじみのギルド職員、ナウスさん、マリアさんの声が聞こえたのはその時だった。
「支部長、ことと次第によってはあんたを殴ります」
「手のひらが折れるだけだからやめなさい、脳筋。急いで奥さんよんでくるわよ」
入った瞬間、怒りを露にするナウスさんとマリアさん。
その二人に、支部長が慌てる。
「待って、誤解だ! な、なあ、サーシャ……?」
「うーん、どうしよ」
「……サーシャ?」
「奥さん呼んできて、マリア」
「サーシャ!?」
とたんに騒がしくなる部屋の中。
そんな中、僕は子供のように涙を流していた……。
◇◇◇
次回エピローグでこの作品は完結となります。
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