第52話 保証

「……え?」


 その言葉の意味が僕には理解できなかった。

 故に口から自然に漏れた僕の声に、サーシャさんは悲しげに笑った。


「あら、そんな反応取られると私も困るんだけど」


「へ?」


 想像もしないサーシャさんの反応に僕はあわてる。

 そんな僕にサーシャさんはさも悲しそうな顔をしながら告げる。


「殺し文句のつもりだったのに」


「臭いせりふだったもんな! がはは!」


「黙ってください。呼びますよ」


「俺支部長なのに……」


 二言で支部長が撃沈し、言われた通りに口をつぐむ。

 それは気を抜くのに十分なやりとりだったが、僕の胸にあったのは焦りだった。


「そ、その僕は別にサーシャさんを冷たくするつもりはなくて……」


「うん」


 言葉のまとまらない僕に対し、サーシャさんはせかすような事はなかった。

 ただにっこりと笑いながら僕の言葉を待ってくれる。


「……ただ、分からなくて。どうして僕を助けたいなんて分からなくて」


 そう、役に立つように必死にがんばってきても僕は穀潰しだった。

 だから僕にはサーシャさんの言ってる事が理解できなくて。


「それは多分、ライバートが私に抱いてくれている気持ちと一緒よ」


「え?」


「あら、分からない訳がないじゃない。こんなにもライバートは私を助けてくれてきたんだから」


「……っ」


 そう言われてようやく僕は理解する。

 サーシャさんの気持ちを。


 ……サーシャさんもまた、僕と同じ気持ちを抱いてくれている事を。


 そう理解した瞬間、僕は何も言えなくなる。

 一体、どうすればいいのかも分からなくなる。


 僕の鼓動を早めるこの気持ちが何かも理解できなくて。


「ああ、もうかわいいわね……!」


「さ、サーシャさん!?」


 いつもの様にサーシャさんが抱きついてきたのはその時だった。

 いつもの事であるはずなのに、今の僕はなぜか反応に困り必死に抜け出そうとする。

 そんな僕をサーシャさんはいつもの様に抱え込もうとして。


「……そろそろ俺を思い出してもらっていいか? 正直寂しいんだが」


 きちんと寂しさがこもった支部長の声が響いたのはその時だった。


「珍しく、本気で支部長のこと忘れていました……。ごめんなさい」


「おう、俺も珍しいなて思いながら見てた。お前、本当にライバートにいれ込んでるな」


「何でも色恋に変換するのやめてくれませんか」


「してないが?」


 心から不思議そうな支部長のその態度に、一瞬サーシャさんの顔に気まずそうな表情が浮かぶ。

 しかし、それを一切気にすることなく支部長は僕の方へとやってきた。


「だが、それも分かる人間だよ。ライバート、本当にナイスガッツだったぞ」


 そう言って、次の瞬間支部長は僕の方へとその大きな手のひらを差し出した。

 それに僕は思わず固まってしまう。

 ……あの頑強なるバルクが僕に握手を求めている、その事が信じられなくて。


「言っておくが、俺の言った言葉は嘘じゃないからな」


「……え?」


「あそこで俺立ち向かえる人間なんてほとんどいない。その上で、俺との勝負にも勝ってみせた。頑強なるバルクが保証してやる。──ライバート、お前はとんでもねえやつで頼りになる仲間だ」



 ◇◇◇


 次回、最終回になります!

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