第51話 助けたい気持ち

 想像もしないそのサーシャさんの様子に、僕は呆然とたち尽くすことしかできない。

 しかし、僕にも少し理解できていた。


 ……自分のやり方がよくなかったかもしれない、ということに。


 気づいたものの、僕は どうすればよいか分からなかった。

 僕は別にサーシャさんに泣いて欲しくてがんばった訳ではないのだ。

 むしろその逆、サーシャさんに誇るそのために僕は必死にがんばっていたのだから。


「ごめんね、ライバート。私の為にがんばってくれたんでしょう? でも、もう無理はやめて欲しいの」


 だから、泣きながらそういうサーシャさんに、僕は何をすればいいのかわからなかった。

 涙は、僕にとって挫折の証だった。

 そして僕はサーシャさんが泣くなんて思っていなくて、それ故にうろたえることしかできない。


 ……星空が、僕の無力をありありと突きつけてきたあの光景が頭によぎる。


 そう、僕は知っているのだ。

 涙がでるときのつらさを、その無力感を。

 なのに今の僕は、目の前の人の涙をどうとめればいいのか分からなかった。


「優しいのね、ライバート」


 ──けれど、その必要などなかった。


「……っ!」


 涙を流しなら、それでもほほえむサーシャさん。

 僕が自分の思い違いに気づいたのは、その表情を見たときだった。


 そう、サーシャさんの涙は僕と違っていた。

 確かにそこには、自分の無力感と後悔、どうしようもない環境に対するつらさがあった。

 けれどサーシャさんはそのすべてから目をそらしていなかった。


 サーシャさんの涙には、理不尽や悲しみ異常に、それと向き合う強さがあった。


「ライバート、約束して」


「約束……?」


 何よりの慈しみをその顔に浮かべ、サーシャさんは告げる。


「次に何かあったら避けること。無理だったとしても、きちんと助けを求めること」


「……っ」


 その言葉に、僕は即答できなかった。

 逃げること、それだけであれば僕は頷くことに躊躇はなかっただろう。

 ……けれど、助けを求めるその言葉が僕が首を縦に振るのを妨げる。

 分かっている。

 ここでは頷いておく場面だと。

 しかし、それでも僕は考えてしまうのだ。


 助けを求めた瞬間、僕は拒絶されるのではないか、と。

 僕はこうしてサーシャさんやほかのギルド職員に優しくしてもらえるのは少しでも役に立つからだ。

 しかし、それがなくなってしまえば僕の価値なんてなくなる。


 ──穀潰しと呼ばれた過去から、僕はその事を知っていた。


 それを知るが故に僕はうなずけなくて。


「……貴方は本当に馬鹿ね、ライバート」


「っ! サーシャさん……?」


 そんな僕をゆっくりとサーシャさんが抱きしめたのはその時だった。


「また貴方、変に自分に厳しくなっているでしょう?」


「僕は……」


「ね、ライバート」


 サーシャさんが僕の顔を真っ正面からのぞき込んだのはその時だった。


「私が貴方にお願いしているのよ。──私が貴方を助けたいの」

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