第12話 待っていたのは

 それからできるだけゆっくりと歩く青年が案内してくれたのは、敷地内を区切る門だった。

 そこには、歩いてさったアグネスと衛兵達……そして両親が待っていた。


 その光景に、僕は少し目を見開く。

 僕の想像通り長い間寝ていたのか、もう外は暗くなりはじめていた。

 そんな時間に両親がこんな場所で待っているなど、普段ならば絶対ないことのなのだから。

 地下牢にいたことといい、まるで理解できない異常事態に僕の頭を疑問が支配する。

 しかし、それでも僕は足を止めることはなかった。


 そんな異常事態よりも気になること……アズリアの安否について確かめたかった故に。


「ライバート様!?」


 故に僕は、むしろ前を案内していた衛兵を抜かし、両親の元へと歩いていく。

 ……母が父を押し退けるように前に飛び出したのは、その時だった。


「この、恩知らずが……!」


「っ!」


 次の瞬間、僕の頬に熱が走る。

 自分が母に殴られた、そう理解した瞬間僕は思わず一歩背後に下がっていた。

 貴族として生きてきた母の、平手打ち。

 それは、ずっと鍛えてきた僕にとっては決して痛いものではなかった。

 けれど、あの常に貴族然としていた母に殴られたことが理解できず、僕は呆然とたちつくす。

 そんな僕に母はなお手を振りかぶり、しかしそれが振り下ろされる前に父が母を止めた。


「これ以上はやめておけ」


「でも……!」


「これ以上は損にしかならない」


 それは僕には意味の分からない言葉だった。

 けれど、父の言葉に母は唇をかみしめ、ゆっくりと引き下がる。

 その結果、僕は冷たい目をした父と、自然に二人向き合う形となった。


「……ライバート、お前のはことは確かに穀潰しであるのは知っていたし、そうあることも認めていた。だが、まさか今までの恩を仇として返されるとは思ってなかったぞ」


「え?」


 そう話はじめた父に対し、僕は最初何のことを言っているのかまるで理解できなかった。

 故に衝撃を隠せない僕を睨みつけ、父は吐き捨てる。


「まだ理解できていないのか? お前が余計なことをしなければ、あんな暗殺者風情に逃げられることもなかったんだぞ!」


「……は?」


 その言葉に、僕は今度こそ言葉を完全に失うことになった。

 呆然と父を見ながら、僕は動揺を隠すことができなかった。

 あの暗殺者が逃げたことを僕が知ったのも初めてだったが、それさえかすむ言葉が父の言葉には込められていた。


 余計なこと? 暗殺者風情?


 呆然と僕は父の言葉を胸の中で反復する。

 実際戦い、そして何とか退けることができた僕だからこそ、父の言葉を受け入れることができなかった。

 なぜかあの暗殺者は僕を積極的に殺そうとするそぶりはなかった。

 けれど、本当にぎりぎりの戦いだった故に、僕はあの暗殺者がどれだけ異常な存在だったか理解できていた。

 衛兵が来る時間を僕が稼げなかったら全てが終わっていたことを。


 しかし、そんな僕の内心を知るよしもなく父はさらに告げる。


「……なにを理解できないような顔をしてる? お前さえいなければ、衛兵が全てを片づけていたんだぞ!」

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