第11話 地下牢

「……つ」


 それから僕が身体の痛みにうめきながら身体を起こしたのは、暗闇の中だった。


「ここは……?」


 なんとか身体を起こした僕は、痛むからだとぼんやりと動かない体で自身の置かれた状況を把握しようとする。

 ヒナのおかげで思ったよりも傷の具合は悪くない。

 けれど、その反動故に僕は空腹を感じずにはいられなかった。


 その空腹を抱えながら、僕はぼんやりと考える。

 おそらく感覚的に、僕は長時間寝ていたのだろう。

 もしかしたら、一日近く寝ていたかもしれない。

 つまり、今は夕方近くである可能性があって……それでもこの暗さは異常だった。

 一体どこにいるのかと僕は腕を伸ばすと、石のざらざらとした感触が腕に伝わる。


「……は?」


 僕が自分の現在地を理解したのはその瞬間だった。


「なんで、ここに……!」


 そう、ここは屋敷にある地下牢だと。

 何度か入れられたことのあるが故に、僕は反射的に自分がいる場所がどこであるかを悟る。

 しかし、現在地が分かってもそれは何ら僕に安らぎを与えはしなかった。

 なにがおきたのかという不信感が僕の胸に膨れ上がる。


 僕の頭上、突然扉が開いたのはそのときだった。

 思わずまぶしさに目を覆った僕に、遠慮がちな声がかけられる。


「……ライバート様、もう起きてられたのですか!?」


「君は……?」


 何とかなれた目で見ると、そこにいたのは僕の顔見知りでもある衛兵の青年だった。

 彼は、少しあわてたような表情で口を開く。


「怪我をされているところ申し訳ありません! けれど連絡が届くまで、まだ眠っていることに……」


「何だ起きているではないか」


「……っ!」


 一人の執事が現れたのは、その青年の言葉がまだ続いている時だった。

 その執事の名は、アグネス。

 執事でありながら家宰のヨハネスとは仲が悪く、代わりに父とよく話している執事だった。

 普段アグネスは僕のことを毛嫌いしていて、それ故に僕は疑問を抱く。


 ……どうしてこいつが、わざわざ僕のところにきたのか。


 その僕の疑問が分からないはずないのに、アグネスが何か僕に説明することはなかった。

 代わりに、青年の方を見て吐き捨てる。


「起きているならもう待つ理由もあるまい。早くつれてこい」


 そういって、さっさとアグネスは去っていく。

 その背中を青年は少しの間睨みつけていたが、少しして絞り出すような声で告げる。


「……申し訳ありません。ライバート様。少しついて来てもらってよろしいでしょうか?」


「うん。ちょうど状況を知りたかったところだ。案内を頼むよ」


 そんな青年に、僕はできる限り明るい声でそう告げる。

 けれど、その実僕はきちんと理解していた。


 ──今の自分は、明らかにまずい状態にあるということを。

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