第14話 そして失ったのは

「……僕、は」


 次の瞬間僕の口から出たのは、自分のものだと信じられないようなかすれた声だった。

 その時にはもう、今まであった胸の熱さなど消え去っていた。

 あるのはただ、自分がやってはいけないことをしてしまったという懺悔の念。


「そこまでにしておけ」


 父が、息を荒げる母を制止したのは、そのときだった。

 母よりは幾分ましな、けれど怒りが滲む目を僕に向けて父は告げる。


「これでお前は、自分がどれだけ軽率なことをしたか理解できたか?」


 その言葉に、僕はなにも答えることができなかった。

 ただ、呆然と立ち尽くす心の中浮かぶのは罪悪感だった。

 僕の頭に、アズリアの笑顔の姿が思い浮かぶ。


 ……僕は、あの唯一自分に親身に接してくれたアズリアの未来をつぶしたのだ。

 呆然とうなだれる僕に対し、衛兵だけは止まることはなかった。


「お待ちください、当主様……」


「貴様は黙っておれ! これは家族の問題だぞ」


「いえ、黙りません! どうか聞いてください。ライバート様は……」


 僕が衛兵を制止すべく手を伸ばしたのは、その瞬間だった。

 衛兵は反射的に僕の手を振り払おうとして、その途中で動きが止まった。


「……ライバート、様?」


「ありがとう。……でも、もう大丈夫だから」


 そう何とかほほえんだ僕は、父に向き直る。

 そして、深々と頭を下げた。


「……父上、この度は誠に申し訳ありませんでした」


 その動きだけで、僕の傷ついた身体には痛みが走る。

 しかし、そんな僕の以上に一切気づくそぶりもなく、父はうれしげに笑って告げる。


「そうか、ようやく理解できたか。自分がどれだけ考えなしな行動をしたかを?」


 あの瞬間、僕の決断が間違っていたか。

 そう聞かれても、僕には判断はできない。

 けれど、その言葉に僕が反論することはなかった。

 ただ、頭を下げた状態のまま、父の言葉に僕は頷く。


「……はい。なにを言われても、僕は従います」


 そう言いながら、僕の頭に浮かぶのは笑顔のアズリアの姿だった。

 あのできた妹の貴族としての人生を僕は台無しにした。

 唯一僕を家族として見てくれていた人間までも、僕は守り通すことができなかった。


 ……そんな自分が、僕は誰より許せなかった。


「そうか。ようやく自分の立場を理解したか。……もっと早くに自分の立場を理解できていれば、こんなことにならなかったのにな」


 その僕の言葉を受けて、そう父は見るからに残念そうにそう告げる。

 そして、淡々と僕に向かって吐き捨てた。


「ライバート、貴様は今回の件で穀潰しでさえなくなった。貴様を勘当する。この家から出て行け」


 そしてその日、僕は家族という今まで養ってくれた存在から追放されることになった……。

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