第3話 自己嫌悪
「ライバート様、本当に助かりました!」
そう僕が家宰のヨハネスに笑顔でお礼を言われていたのは、数時間後のことだった。
心底ありがたそうな笑顔でヨハネスは告げる。
「ライバート様が協力してくれなかったら、一体どれだけの時間がかかったことか……。本当にライバート様は優秀な方で助かります!」
そう頭を下げるヨハネス。
それは本来であれば、嫡男へのお世辞であると分かっていても僕に自信を与えてくれる言葉だった。
そのおかげで、僕がある程度スキと自分を認められているのには、ヨハネスやその他の使用人の言葉が大きい。
……けれど、今日はその言葉にいたたまれなくてしかたなかった。
それでも、必死に心配をかけないよう、僕はいつも通り口を開く。
「気にしないで。これくらいしか僕にできることがないだけだから」
「……いえ、ライバート様は十分努力もされて、頑張られておられますよ?」
その言葉に、僕はぎこちなく笑顔を浮かべる。
いつもなら嬉しいそのほめ言葉も、今の僕には苦しくてたまらなかった。
なぜなら僕は知ってしまっているのだ。
僕は所詮変わっていないことを。
……父にとっては、ただの穀潰し以外の何者でもないことを。
その気持ちが出てしまっていたのか、ヨハネスの表情が変わったのはその時だった。
「ライバート様……? 私は少しはライバート様の自信を持たれても大丈夫だと思っておりますよ。先日単身でオーガを討伐したことといい、間違いなくライバート様は……」
「父上の言葉は、穀潰しで変わらなかったよ?」
「……っ」
僕が自分がなにを言ったのか理解したのは、呆然としたヨハネスの顔を見たときだった。
……こんなこと言うつもりなど、僕にはなかった。
にもかかわらず出た言葉に僕は一瞬思考が止まり、しかし次の瞬間僕はぎこちなく笑顔を浮かべた。
「……ごめん、終わったなら僕はまだ鍛錬の途中なんだ。それに、ヨハネスも今日は他家に出かける用事があるんだろう? ちょっとはずしていい?」
「は、はい。わざわざお手数をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
その声を聞きながら、僕はヨハネスに背を向ける。
僕は早足でその場を去りながら、小さく呟く。
「……こんなんだから、誰にも認められないんだろうが」
誰も聞くことのない自己嫌悪の言葉。
それを呟きながら唇をかんだ僕は、早足でその場を去ることしかできなかった。
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