第28話 ギルド前
「……本当に来ちゃった」
そう呟く僕の目の前に立っていたのは、強大な年期の入った建物……通称ギルドと呼ばれる場所だった。
昨日、サーシャさんにギルドの雑用に誘われたことは記憶に新しい。
それからあれよあれよと言う間に、翌日にギルドにいくことが決まっていた。
未だ混乱が収まらない僕は、呆然とギルドを見上げることしかできない。
しかし一方で、隣に立つサーシャさんは満面の笑みで口を開く。
「ようこそ、辺境ギルドへ。ここに来てくれることを快く認めてくれて、本当に感謝しかないわ!」
「……僕まだ、やるとも言ってないまま何ですけどね」
「いいからいいから!」
そう言って、僕の背中を強引に押してくるサーシャさんに、僕は思わず嘆息をつきそうになる。
それは、誘った側が言う言葉ではないだろうと。
しかし言っても無駄であることを僕は理解していた。
……了承の言葉さえ聞こうとせず、強引に予定だけを話された昨日だけで、それくらい理解するには十分だった。
昨日のことを想い出し、僕は今度こそため息をもらす。
「はぁ……」
「あら、他にまだ何かしてほしいことあるの?」
しかし、にっこりと笑ってそう話しかけてきたサーシャさんに、僕はすぐにため息を後悔する。
もう遅いが。
「給金支払うこと、私の家のもう少しいて良いこと、その間に住める場所を探すこと」
淡々と条件を告げていくサーシャさん。
それは、この雑用の対価として僕にサーシャさんが与えてくれた条件だった。
正直それは過剰な程の条件で、僕に不満などない。
……僕が後悔している所以はその後の態度だった。
「それ以外にライバートに必要なこと? 私には分からないけど」
「いえ、もう良いです。僕が悪か……」
「もしかして、この私に何かしてほしいてことかしら……?」
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべてそう尋ねてくるサーシャさん。
その言葉に、非を認めるのが遅かったことを理解し、僕は唇をかみしめる。
けれど、後悔先に立たず。
こうなった、からかうモードになったサーシャさんは満足するまで止まらない。
「ええ、そんなこと考えてたんだー」
「……っ。やめ、話して下さい!」
そう言いながら、強引に肩を組んでくるサーシャさんに僕は必死に逃げる。
……その態度が、さらにサーシャさんを面白がらせているとわかりながらも。
「むっつり」
「……なにも文句はないから、早く行きましょう。時間は有限ですよ」
にやにやとこちらを見てくるサーシャさんを無視し、僕はそう言葉見直に告げる。
「ほんとに?」
「はい、本当です! 感謝してますから、仕事に取りかかりましょう!」
半ばやけになって僕が告げると、楽しそうサーシャさんは笑う。
その姿に僕は何か言い返したくなるが、ぐっとその内心を押し込んだ。
何せ、本当に感謝しているのは確かだったのだから。
確かにサーシャさんは強引で、僕をからかって遊んでいる。
とはいえ、この条件に関しては悪くない、どころか破格の物だった。
それに関しては、僕も理解している。
……そしてそれ以前に、僕は一切の報酬がなくてもこの雑用をしたい、と思う程度にはサーシャさんに恩を感じていた。
それに、僕にだって分かっているのだ。
間違いなく、サーシャさんは僕のことを思って、この話をくれたことを。
だから改めてギルドの方へと向き直った僕は、迷いない足取りでその扉をくぐる。
この厚意に応える為に、少なくとも完璧な仕事をして見せようと。
「ではさっさと終わらせましょうか。隣街までの配達を」
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