第48話 決着

 ふざけるな、そんな言葉が僕の脳裏をよぎる。

 確かに一瞬しか作戦を練る時間はなかった。

 けれど、クロの思考加速を使い僕はできる限り作戦を練った。

 そしてこの瞬間は、一か八かの賭に勝ち、ようやく支部長に致命的な隙を作った瞬間だった。


 ……なのになぜ、こんな対処できている?


 クロによる付与ではなく焦りによって加速した思考がそう叫ぶ。

 改めて僕は理解する。

 自分と支部長の実力差、それをあまりにも理解できていなかったことを。


 もう、すべてが手遅れだった。

 僕の身体は空中にある。

 なおかつ、身体強化はもう行えていない。

 それはもう絶対絶命としか言えない状況で。


「にゅう…!」


 ──その状況を変えたのは、支部長の顔に炸裂した雷撃だった。


 それは僕の意図してシロに指示した訳でも、シロが計算した訳ではない、ただの偶然だった。

 思考加速を仕えるクロと、その付与を受けた僕と違ってシロの思考は何時もと同じ。

 そんなシロがクロの土の壁に遅れて発動した援護の雷撃が、今発動したというだけの偶然。


 そしてその偶然が僕の最後の勝機だった。


 突然の攻撃に、支部長の攻撃の手が緩む。

 それはほんの一瞬、僅かな猶予だった。

 そしてその猶予にねじ込むように、僕は木剣を振り下ろしていた。


 振り下ろされた木剣はまっすぐに支部長の頭部に吸い込まれていく。


 ……それが僕の最後の記憶だった。



 ◇◆◇



「…………ト!」


 誰かの声が聞こえる。

 聞き心地のよいその声を聞きながら、僕は微睡みの中にいた。

 一体なにをそんな風に必死に言っているのだろうか、微睡みの中にいながら僕は思う。

 ただ、それが不意に身体に走った痛みに、僕の意識は覚醒する。


「……ライバート!」


 目をあけたその瞬間、僕をのぞき込んでいたのはサーシャさんだった。

 それを理解した瞬間、僕は自身の身体を起こしていた。


「僕は」


 そういいながら周りを見渡し、すぐに僕は思い出す。

 今までの記憶を。


「勝負は……!」


 反射的に振り向いた僕は、そうサーシャさんに告げかけ、しかしその途中で口をつぐむ。


「……そうだ。僕は負けたんですね」


 そういいながら僕の頭によみがえるのは気を失う直前の記憶。

 あの時、僕の木剣は支部長に届くことはなかった。

 僕が衝撃を感じたのは、その寸前だった。

 それを思いだし、僕は唇をかみしめる。


「僕はギルド職員になれなかった……」


「いや、お前はギルド職員だぞ」


「……え?」


 その声に僕が反射的に目を向けると、そこにいるのは何故か正座した支部長だった。


「何故正座なんですか……?」


「ライバートが意識を失った瞬間に私が支部長の奥さんに連絡したからね」


「……お前、こういう時本当に容赦ないよな」


「反省してないてお伝えしましょうか?」


 にっこりと笑いながら圧をかけるサーシャさんに支部長が口をつぐむ。

 それに支部長の家庭における力関係を目にした気がして、僕はただ目をそらす。

 しかし、すぐに見逃す訳には行かない異常を思い出した僕は口を開く。


「そうじゃなくて、僕がギルド職員になったてどういうことですか?」


「ん?」


 心底意味が分からないと言いたげな支部長に、僕の方が混乱しながら僕は口を開く。


「だって、僕は試験に落ちたじゃないですか! なのにどうして僕がギルド職員になれているんですか……?」


「あー」


 その僕の言葉に、支部長が困ったようにサーシャさんに目を向ける。

 その視線に、サーシャさんは笑顔で告げる。


「自分で説明してください」


「はあ、わかったよ。えー、どれから説明すればいいんだ?」


 そういって頭を乱雑に掻きながら支部長は告げた。


「まあ、何だ。簡潔に言えば最初言っていた通りだ。ライバート、お前はサーシャの推薦と言うことで、試験の結果なくギルド職員になることは決まっていた」


「……え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る