第三話 魔法少女とヒーロー

 二人で家に帰ると、その日は二人で抱き合って眠った。このまま優子さんを放っておけば、私の前から消えてしまうかもしれないと思ったからだ。

「君をずっと騙していたんだ、諸刃くんは私のことを信じていてくれたのに、その信用を裏切り続けていたんだ。もっと早く言うべきだった。本当にごめんよ⋯⋯」

 ボロボロと大粒の涙を流す。優子さんも、母さんを亡くしてずっと苦しんでいたんだと思う。だから私を生み出したのだと思う。自分が人造人間、フラスコの中の小人だったと聞かされて、驚いたし少し動揺したけど、怒りなんて全く湧いてこなかった。

「泣かないで、私は大丈夫ですから。優子さんがいなかったら私は産まれすらしなかったんですから」

 理由はただ一つ、私は、優子さんを愛しているからだ。

 ずっとそばにいてくれて、私の事を鍛え、ここまで育ててくれた優子さんに、家族愛を超えた想いがあるということをやっと自覚した。。

 今になって考えてみると、私は子供の頃に、優子さんに施設で初めて会ったその時から、あの謎めいた魅力のある人柄に惹かれていたのだと思う。

「優子さん、こっちに来てください。ほら、こっちです」

「いや、君の方が辛いだろうし、そんな⋯⋯」 

 それでも来てくれないので、少し強引にこちらに引き寄せる。子供の時は、優子さんの方がはるかに身長が高かったが、今はだいぶ追いついてきた。抵抗しているんだろうけど、私に気を遣ってか力は全く入ってはいない。あぁ、子供扱いされてるんだな⋯⋯

「嫌だったらもっと抵抗しないとダメですよ?」

「嫌なわけがないだろう、嬉しいよ⋯⋯」

 躊躇いながらも、優子さんは抱き返してくれた。

 とてもいい匂いがした。私の大好きな人の匂いだ。本当はハグ以上のことがしたいと言う気持ちがある事を悟られないように、優しく体を包み込んだ。

 

「優子、諸刃、ただいま」


 ノックされたドアを開けると、お母さんがいた。


「やあ、おかえり。遅かったね」

「ただいま、また会えて嬉しいぞ」

 二人は力強く抱き合った。間にある、計り知れぬほど深い愛を感じた。私も、母との再会を噛み締めて再会を喜び合った。三人で食べた初めての朝食のことを今でも忘れられない。

「諸刃、出生について話すのが遅れて本当に申し訳なかった」

「うん。優子さんから聞いた。でも、母さんが母さんで、私が娘なのは変わらないから」

 そう、私は私だ。

 また家族となって、三人で進んでいく。

 母さんと優子さん、そして私で仮面リリーとしてさまざまな魔竜たちを倒していった。


 信じられないことだが、八雲さんが、私が彼女の記憶を覗いた時に名前を知っていた、同じく「ひまちゃん」を愛する朔夜さんと共に「祖龍」となった。魔法少女と魔竜を生み出した存在。


 二人は、犠牲になろうとしていた。


「私、行ってきます。向日葵さんの時間稼ぎのために、活性化した人間が変化してしまった魔竜たちを倒さず無力化してこようと思います」

 正直に言ってかなり厳しい戦いになる。生きて帰れるか分からない。それは優子さんも理解していたことだった。ドライバーに付ける最終フォームの強化パーツの「セイヴァー・リリィ・ブースター」を託してくれた。リリィドライバーを装着する。

「諸刃くん、ちょっとこっちにおいで」

 優子さんに部屋の隅に連れて行かれる。

「君、私のことが好きなんだろ。恋愛という意味で」

「えっ⋯⋯あっ、その、いや今はそんなことより⋯⋯」

 大きくため息をつく。

「⋯⋯ヘタレ」

 バレてないつもりだったのにな。

「⋯⋯いつ気が付いたんですか」

 優子さんの目が細められる。

「私は感情のエネルギー研究者だぞ。舐めてもらっちゃ困る」

 隠し切るつもりだったのに、まだまだ修行が足りないね。

「ははは、それもそうですね⋯⋯」

 気まずい沈黙が辛い。

 かと思うと、優子さんに抱きしめられた。

「悪い気はしていないんだ。いや、正直に言って、嬉しいと思ったんだ」

「だから、必ず生きて帰ってきてくれ」

「諸刃くんが頑張れるように、プレゼントをあげよう⋯⋯」 


 唇が重ねられた。戯れではない、愛の口づけだった。


「これは大人のキスだよ。帰ったら、この次のステップに進もう」


 柔らかくて、甘いキスだった。

 

 仮面リリー・セイヴァーフォームに変身し、必死に戦った。愛する優子さんのいるこの世界を守るため、目の前の一人を助けるために。

 向日葵さんが祖竜の元に辿り着いた。


 そして、奇跡が起きた。


 事の顛末はこうだ。

 一人の魔法少女の一度限りの願いにより、魔法少女も魔竜も存在しない世界が生まれた。誰の犠牲も出さずにそんな奇跡を成し遂げたのだ。

 諸刃くんは真剣の娘となり、私は叔母となった。

「優子さん、今日、お家に行ってもいいですか?」

「⋯⋯ふふ、なら、今日は行為まで進んでみようか」

「はっ、はい!じゃあ学校行ってきます!」

「いってらっしゃーい」

 

 ただ、私と諸刃くんは、すでにもう、ただの仲のいい二人ではない。女と女の関係となっているのだった。これからの人生は、どんなものになるだろうか。

 どう転んでも、諸刃くんと真剣がいれば大丈夫だろう。



 なんてったって、二人は私のヒーローだからね!



 終


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