御神体行き二番口
雰囲気作りの為の深夜、丑三つ時。
鳥居を抜けると異様な社が中央に鎮座しているのが見えた。神社の真後ろから社を呑み込むように離れの建物がせり出している。社の真横に離れの入り口が伸びてきていて、口のように開いている。
長い廊下になっており、壁には落書きがされている。。いよいよ入ろうとした時だった。
「え、女の子だけじゃん。こんなとこいたら危ないっしょ!」
明らかにやばい風貌だった。腕に刺青がびっしりと入っていた。ある意味では、半端な幽霊よりも恐ろしい存在。逃げようとして私だけが転んだ。
みんな逃げてと言い放った。私の必死さが伝わったのか、蜘蛛の子散らすように振り返ることなく車へと走っていった。誰かに髪を掴まれた。顔を覗き込まれる。
「あ!お前、サンドバックちゃんだった女じゃん。一目で分かったわヒャハハ!」
見上げると、みたくもない顔があった。私と美月を陥れた張本人、それがコイツだった。楽しいなんて思ったのがいけなかったのかな。今回だって、初めて何か決めて行動に移したのに。
「うるさくするから他の女に逃げられたじゃねぇか!」
鳩尾の辺りを思い切り殴られた。倒れた後、取り巻きにも蹴られしばらく息ができなくなった。
「じゃあ罰ゲーム受けてもらおっかな」
当然のように一人で社に入れと言われ、中へ蹴り入れられた。
「なんか持って帰ってくるまで帰ってくじゃねぇぞ!」
恐怖の命令に逆らえるはずもなかった。まるで何かの生き物の体内のように生ぬるい風が吹く真っ暗な廊下を中を進んでいく。頼りになるのはスマホの灯りだけだった。範囲から外れた場所は闇そのものが廊下の奥に広がっている。
位置特定アプリで監視されているせいで逃げられない。空気が重苦しくて生き物の体内のような「生っぽさ」がある。
だんだん奥に進んでいくにつれて冷えていくのを感じる。ついに突き当たりが見えてきた。この建物が存在していること自体が信じられないのに、内部まで行って来なければならない。ここまで入ってきて気がついたが、ある地点を過ぎてから「人が立ち入った痕跡が一切ない」異様な空間だった。
落書きどころか傷ひとつ付いておらず、埃がうっすらと積もっていたのである。事実が私を追い詰めてゆく。勇気を出して突き当たりを曲がった。すると、玄関があった。
開いた玄関扉の敷居を跨ぐと、また空気が変わった。全く生気の感じられない冷たさだった。一段上がった位置に横に引くタイプのドアが両開きで設置されている。この場に似つかわしくないモダンで洗練されたデザインだった。
和風の玄関に別の画像を貼り付けてあるかのような強烈な違和感が漂っていた。異様さを引き立てるのは、夥しい数のお札が貼り付けてあったことだった。
これ以上は進んではいけないと言われているような気がした。体全体が危険信号を発している。これは本当に引き返した方がいいと思った。
そんな私の意思とは無関係に呼び出し音がする。震えるスマホを手に取ってゆっくりと耳元へ。
「とっとと奥行けよ。なぁ、いつまでかかってんだよ!遅えんだよ早くしろ!」
通話が一方的に切られた。渡されていた壊れかけているカッターナイフで、引き戸が開かないように外から貼り付けてあったお札を一つ一つ謝りながら切っていく。
最後のお札を切り裂いた瞬間、凄まじい勢いで戸が開いた。喉から甲高い空気が漏れた。涙が止まらない。吐きそうになりながらも奥に進んでいく。
敷居を跨ぐと、私の背中が向いている入り口が、一人でに閉まった。言葉を発せられなかった。現象を認識してしまったら、正気でいられないと思ったからだ。
玄関があり、一段上がると正面には閉まった障子があって、やけに高い天井にシャンデリアがぶら下がっており、そこに沿って左側には階段がある。
障子には内側からだろうか、物理的に不可能なほどありえない数の真っ黒な手形が全面にべったりと付いていた。
障子に手をかけるが開かない。ホッとして手を離したのも束の間、ぬっと障子にシルエットが現れた。そして、緩慢な動きで腕が取手へと伸びてゆくのが見えた。目だけでその動きを追う。
そして障子が、ゆっくりと開いていく。あまりの恐怖に目を開けられなかった。すっーと戸を引く音が耳に入ってくる。とん、と開き切った音がした。
光源はもう自分が持っているものしかない。目を開けた。誰もいない筈なのに、空間の暗闇の中に何かいるのが分かった。
私はここで死ぬんだと思った。さらに敷居を跨いぐとそこは広い洋室のリビングだった。スマホで中を照らすと、中心には血まみれ御神体があった。御神体に貼り付けてある遺書らしき物を見つけた。
それに触れた瞬間、私の頭に映像が慣れ込んできた。
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