十三階段百合怪談

一号室 とあるアパートにて

 私には幼なじみがいる。名前は明音あかね。小学校から同じ学校に通っていて親同士も仲がいい。だがもうお互いに大学生にもなった訳で、いつまでも側には居られないから、大学が同じであると言うことは良いとしても、別々の場所に住もうということになった。

 咲希がつい最近アパートに越したらしい。やけに安いので、二人で内見した時に、不動産屋に事故物件じゃないかと聞いたがそうじゃありませんというので、とりあえずそれを信じるしかなかった。

 正直にいうと家賃に対して部屋がかなり大きいのである。抗えきれない魅力があった。階段を登ってすぐの部屋ではあったが、それも気にならないほどだった。

 

 この部屋のことを侮っていた自分の能天気さはある意味で正解だったと思う。


 1日目

 大学で会った明音が気になることを言い出した。今日は珍しく夢を見たのだという。一度眠ったらそのまま朝まで起きないほど眠りが深いので夢をほとんど見ないのを知っていたので、珍しいこともあるもんだと思った。 

 夢の内容はというと、夢の中で自分は背の高い女性になっていたのだという。そして一段階段を上がるだけの夢だという。あまり気にしなくていいと、私とシェアハウスをしている相方が言っていたのでひとまず様子を見ることにした。

 相方の翠は霊感が強く、そう言った現象には詳しいというか見えるので対処しないと危険な時があるので知識がついていて、こうして相談することが多い。

「話聞いた感じだと、碧ちゃんがいうほどに警戒しなくても大丈夫だと思うな」

「本当に? ならいいんだけどさ、まぁ、明音って変な奴だから余計なことしないかの方が心配なくらいだけど。じゃ、休憩時間終わりそうだから切るわ」

「はいはーい。今日は晩御飯カレーだから早く帰ってきてね」

「了解、終わったらリイン(メッセージアプリのこと)しますんで」

「うんうん。碧ちゃん、授業中に寝ちゃダメだよ」

「うっせー学費分ちゃんとするもん」

 通話を終え肩を撫で下ろした。明音にもそう伝えると、早速契約を進めるという。もう決めちゃうなんてずいぶん気が早いけどどうしたんだろう。

「なんか買うものあったっけ」

「あ、コーヒーの粉買ってきて欲しいな」

「うん分かった。じゃあ後で」

「はーい、頑張ってね」

 翠のおかげで今日も寝ずに済んだ。


 6日目

 明音がアホなことを言い始めた。階段を登ってくる夢は見続けていて、さらに段数が上がってきているのだそうで、その時点で頭痛がしてくる。

 さらにコイツは「その人はさ、めっちゃ好みの顔してるんだよ。なんていうのかな、綺麗だけど押しの強くない控えめな感じがすごいグッときたんだよ」とまでいうようになっていた。

 いつもそういうのには注意しろと言ってるのにこれだ。

「まぁまぁ、そんなに怒らなくても大丈夫だって。私が言うんだから大丈夫⋯⋯」

 翠がベットから這い出ながら掠れ声で言う。昨日は流石に鳴かせすぎちゃったかな。

「朝から騒がしくしちゃってごめん」

 翠の頬に目覚めのキスをする。起きたらすぐに愛する人がいる幸福を噛み締めている時が一番の宝物のような時間だと思う。今日と明日は二人とも休日なのでゆったりと朝食をとった。彼女が平気だというならばそうなんだろう。明音に対して過保護になりすぎていたのかもしれない。久しぶりの休日なんだし、一旦忘れて目一杯楽しもうと思う。

「⋯⋯蒼ちゃん」

「どしたの」

「もう一回しよ」

「せっかくだし、ラブホでも行ってみようか」

 結局休日はずっとラブホとか家で翠といちゃついて終わった。


12日目


 水35ℓは大変だから1リットル、炭素20kgも1kgでいいわね、アンモニア4ℓは⋯⋯用意するのは難しいでしょうし目星はこっちでつけるとして、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g。 イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素用意して待っててね♡

 

 おねーさんより愛を込めて


 なにこの怪文書。妙に浮き足立っているのでコイツ何かやったなと直感で思い問い詰めたら、ちょっと前にポストにこの手紙が投函されていたのだという。

「あ、みてみてコレ。おねーさんがくれたリストバンド。髪の毛でできてるんだってさ!」

 ゾッとした。ああこりゃダメだ。

「それ捨てる気ある?」

「捨てちゃったらあの人に会えなくなるからなぁ⋯⋯ちょっと嫌かも⋯⋯」

 それ以上理由を聞かずにこのアホの家に直行することにした。途中で翠を拾って私の家で一式の除霊グッズを装備する。これでよし。

「要らないと思うんだけどなぁ⋯⋯」

「いいから持っていくよ」

 なぜか道が混みだし、到着したのは7時過ぎになってしまった。そのせいでコンビニ弁当が夕食になってしまった。翠の作った手料理が食べたかったのに。

「明音ちゃんのおうち初めてきたかも。いつもうちの碧ちゃんがいつもお世話になってます」

「いや今日は世話になってるのコイツだからね⋯⋯?」

「人が多いと賑やかでいいね、あいたぁ!」

 ついゲンコツで殴ってしまった。明音が能天気すぎるのが悪い。

「碧ちゃーん⋯⋯ダメだよぉ、確かに明音ちゃんの危機意識のなさと、自分がモテないからって見えないおねーさんに下心満載で会おうとしてワンチャンを狙ってる非常識さと、巻き込まれ損なところに思うところがあるからって、殴っちゃダメだよ?」

「翠さん!?」

「怒ってないよ〜? とっても怒ってるだけ♡」

 あ、これあとで私もやばいやつだ。

「あははは⋯⋯」


 とにかくやるしかないと翠を必死に説得した。何故か私が。


「もう、碧ちゃんが言うから許してあげるんだからね!」

 どんどん強くなっていく雨。気がついたら明音はいなくなっていた。

 そして、ブレーカーが落ちた。スマホのライトで照らし配電盤を戻しても反応なし。さらに探してもアイツがいなくなってるし、本音を言えばかなり焦っている。

 リビングまでつながるドアを開けてみると見覚えがある背中が見えた。

 何か物を置いているように思えた。

「あんた何やって⋯⋯え?」

 あの怪文書にあった素材達が、明音自身の手で置いてあった。

 急に浮かんだ一つの記憶、これで作ることができるものといえば「人体」だということを思い出してしまった。

「明音、それから手を離し──」

 トントントン、一段づつ誰かが上がってくる音が聞こえる。

 ドアは鍵を閉め切ってテレビまでついているのにはっきりと。背中に嫌な汗をかいてしまう。

 足音を数えると、13回で止まった。

 間違いない、このドアのすぐ向こうに誰かがいる。

 外は嵐のような雨が吹き、突風が轟々と鳴っている状態だ。人が立ち歩いているはずがない。この気配はやはり尋常ではないし人間のものではないのは明白だった。

「私の後ろから絶対に動かないで」

 私は無言で頷くしかなかった。

 今までは運が良かっただけなんだと思った。

 言う通りに失礼にあたるから心霊スポットも行ってないし、連れてくることがあるから事故現場には故意に訪れてない。

 言われたことは守っていたら大丈夫だと思ってた。そうじゃなかったんだ。

 扉がゆっくりと開いた。突然、雨音と風の音が消える。緩慢な速さで黒い何か、人の形はしているが関節の向きはめちゃくちゃでどう直立しているかが分からない。

「あ゛かね゛ちゃん゛きた゛わ゛よ〜♡」


 その影は明音の名前を知っていた。


「繧後>縺さん、素材揃えるの時間かかっちゃいましたけど、この通り揃いました!」

「ありがとう。じゃあ、始めちゃうわね♡」

 ブレスレットに触れた瞬間に風と雨があの異形のものへと集まってゆく。あの素材たちもより集まって行く。あれの後方から白い粒子と黒い粒子がこちらに向かってくる。それすらも取り込んでいっているのが分かる。最後にブレスレットが飛んでいった。そして、辺りは眩い光に包まれた。

 


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