幸福な魔女の婚姻

第一頁 舞い込んだ依頼

 現在の日本や世界中に、人知れず魔女は暮らしている。魔術を行使できない人々に見られてはいけないというルールを課している。迫害から逃れるという意味合いは薄れ、魔術の外部の人間の悪用を防ぐという目的で行われている。

 そして、とある偉大なアーレア・フェーリと呼ばれる素晴らしい魔女が、魔女同士を強く結びつける「白き結び」という術式を生み出し、多くの魔女たちを結びつけた。

 厳格なルールを生み出したのは、魔法省である。魔法省は各国にあり、政府と密かに繋がっており棲み分けのための交流を行っている。


 魔女は、密かに、だが確実に「この世界」に住んでいるのである。

 

 ────これは、とある二人へのインタビュー記録である。


 ワタシは今、信じられないほど幸せだ。


 良い酒を飲み、子供の時のように飢える事もなく、快適で温かみのある家に住み、さらに、美しく聡明な妻が隣にいてくれている。毎日感謝の心が湧いてくる。

 妻は、透き通った白い肌に、黒い髪が視界の邪魔だからと、出会った日からすぐに、前髪が目に入りにくいショートカットボブで切り揃えた。

 赤いアンダーリムの眼鏡がチャームポイントの愛しき妻だ。

 ワタシは美沙から言うと、焼けてはいないが健康的な小麦色の肌、髪はアッシュグリーンで長さは肩ほど、そして癖っ毛だそうだ。実は、髪を彼女に毎回切ってもらっている。

 やるのだからにはきちんとクオリティの高いパフォーマンスをと勉強したらしく、腕前はプロ並みになっている。凄いだろう我が妻は……

 自分の職業は社長業と言ったら良いのだろうか。

 魔法の技術を利用し、工業、福祉、医療、食品加工、美容など様々なテクノロジーの分野を複合的に開発するパラテック企業で、人間らの技術に造詣の深い魔女の積極的な採用を行なっている。

 最近の大きな実績は、魔術的アプローチによる量子コンピューターの開発と、魔法省の基幹システムの構築だろう。一般的な回線では無いので魔術行使者以外から侵入されることは不可能で、ハッキングされる時の防衛がしやすい。

 

 今日も仕事が終わり、妻と晩酌を楽しんでいたところに手紙が届いた。


 ほう、ペーパークラフトの鳩電話とは古風で良い。

 白い鳩からややハスキーな声が聞こえてくる。

 

 白き結びの溢れる頃、いかがお過ごしでしょうか。

 私は偉大な偉大な魔女であるアーレア様、美しきフェーリ様にお作りいただいたホムンクルス、フューラでございます。

 さて、今回不躾ながら筆を取ったのかと申しますと、結ばれた方々であるアルフリーダ様、美彩様お二人に結婚に至った経緯や現在の生活をお聞きし、主人にお伝えし記録させていただきたいと考えたからでございます。

 もし快諾いただける場合は廃棄せずまた魔力を注いでいただきますと、主人の元へ向かって参ります。ご検討のほどよろしくお願い致します。

 

 敬具


「ワタシは受けようと思うんだが、美彩はどう思う?」

「そうですね。ええと、私は、少し不安です」

「というと?」

「魔力ビジネスのために、貴女が私と結婚した、と邪推されてしまうのではと思ってしまって……」

「ワタシが、違うとはっきり言おう。君の不安がなくなるまで」

「そうですか……あの、わがままを言ってしまって申し訳⋯⋯」

 手を出して制する。

「謝らないでくれ、美彩は悪くないよ。ほら、膝の上においで」

「私、アルが悪く言われるのが嫌なの……」

 妻は、感情が昂ると、アル、と呼んでくれる。

「そこは安心してくれ。アーレアとは大学の同期でね。良く言うことはあっても、その逆はないと思うんだ、ワタシを信じてくれるかい」

 我ながらずるい言い方だと思う。

「ええ。アルを信じるわ」

 彼女と並び立って、二人の魔力を込めると、ペーパークラフトが力強く飛んだ。


 翌日、ドアがノックされ、ホムンクルスがやってきた。


「フューラと申します。本日はお会いくださってありがとうございます」


 腰を過ぎるほど長くラピスラズリのような輝きを放つ青い髪に、ヒョウを思わせる美しい褐色の肌、目鼻立ちも良く、歳は高校生ほどだろうか。そして燕尾服を纏っている。

 姉妹の中では、面倒見の良いお姉さんであるらしい。

 フューラは美しい所作でお辞儀をする。表情に固さがあった。

「緊張させているね、大丈夫だよ、落ち着いて」

「高圧的に見えたのでしたら申し訳ない⋯⋯」

「いえ⋯⋯は、はい⋯⋯お心遣い感謝いたします⋯⋯」

 言われた通りにしているあたり素直で良い子だな。


「ごほん、では早速……はい。では馴れ初めの方からお聞きします」


 記憶を辿る。魔術の流れを辿るように。



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