第三話 あなたと私の守りたいもの
唐突に現れた「天兵」 が全てを変えた。次に人類の側につく人外の人々が現れ、力を与え、鉄の鎧を人類にもたらした。TVにも映る姿が信じられなかった。
この地域に現れた、 天兵・壊、今までにないパワータイプである。笑顔ではあるが、異常発達した両腕で殴りつけてくる。恐ろしい理不尽、悪意なき侵攻に戦慄するばかりだった。
今朝の占いは私も茜さんも良い結果だった。今までどおり穏やかな一日になるはずだった。大型クラスが各地に現れ、救助が追いつかない状況になった。
リリーソロモンの方々が来られないという絶望的状態になった。一体がこちらに向かいゆっくりと進行してくるのが見える。
かと思うと瞬時に加速し、 逃げてと言葉を発するために息を吸う間もなく、目の前に一気に走り込んできて、タックルの要領で校舎に激突した。
体が宙に浮いた感覚と、鉄筋コンクリートがひしゃげる音、悲鳴。パニック映画さながらの光景が広がっている。このまま死ぬのだと思った。
こんなことになるなら、一目惚れでずっと好きだったことを伝えればよかった。
ただの生徒会長としての正義感でやっていると思っていた行動は、全ては彼女との学校生活のためだったことがやっと分かったのに。
「ふーん、人間って変わってないわねぇ。愚かだけど、やはり愛おしいわ⋯⋯」
気がつくと瓦礫の中にいた。眼前にボロボロになった茜さんがいた。他のクラスメイトを庇って下敷きになっていた。なんとか助け出すことに成功したが、周りの人々を、天兵が「喰らっていた」
瓦礫の中へクラスメイトを集めるしかなかった。
「自分が囮になる」
言っている意味が理解できなかった。
「蒼にはずっと迷惑かけてきたからさ、恩返ししたいんだ」
茜さんがいなくなってしまう。
「いなくなったって、気にする奴もいねぇしな」
天兵がいる場所へ歩き出そうとする。迷惑に感じていたらとっくに追い出してました よ。
「気にする人間はここにいます! 少なくとも私は、貴女が居なくなるのは嫌です!もう会えなくなったら悲しみますよ、勝手に決めつけないで⋯⋯」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、あぁクソっ! 決意が鈍っちまうだろうが」
「お願いです、ここにいて。 他に何か手があるはずです⋯⋯」
「蒼、お願いだ。行かせてくれ」
せっかく名前で呼んでくれたのに、もう二度と呼ばれないなんて嫌だ!私は、茜さんとずっと歩いていくんだ!茜と一緒に、生きるんだッッッッ!
「アタシが手を貸してあげましょうか?」
頭上から凛とした声が響く。二人が顔を上げると瓦礫の頂点に人影があった。炎のように赤い髪を靡かせ、ゆうに一二cmはある高いヒールに革製のボトム、長い尻尾に耳の上に生える角があった。いわゆる「悪魔」であった。 分かりやすい。 距離を離してゆくが、一瞬で背中に回り込まれた。
私は、そうね。面倒だからヒジリでいいわ」
「取って食うってことはないわよ、助けてあげるって言ってるの」
「あいつと戦える力をあげる。 正確には力を発揮できる機体に乗せてあげる」
全くわけがわからないが、答えは決まりきっていた。二人で手を繋ぎ合い彼女へと向き直ると、どうすればいいか指示を求めた。
突如、瓦礫が崩れ祠が現れた。校舎の下にこんな物があったとは誰も知る由もない。 神社らしきもののしめ縄がちぎれていた。
ヒジリさんが手をかざすと中央が開き、純白の人工物があって、さらにそれに触れると蒼い閃光が辺りに走る。 そして扉のように開いた。
「さぁ、あとは入って待っててね?」
そう言い残し光となった。内部は円形の六畳ほどの空間で、スクリーンのような幕が貼られている。 何らかのソ フトウエアが動作しているようだ。
「オペレーションシステム起動」
「パイロットセッティング開始」
「装着!」
「⋯⋯装着」
「搭乗者はパイロットアーマーを着用してください」
ヒジリさんが言っていたキーワードを叫ぶのは必要な手順らしい。よくあるぴっちりスーツではない.確かにああいうものもよく見るが、防御力に不安 があり懸念点だったが、関節部の動かしやすさ、軽さ、防御力を両立した設計らしい。
背中部分のジョイントにアームが接続される。 搭乗者への順応度をあげるためと、 吹っ飛ばされた後に即時復帰するための機構なのだろう。
「ドライブユニット顕現」
「ユニット接続完了」
「ドライブへのための同調を始めます。 誓いのキスを」
「⋯⋯は?」
「ええええ!」
ヒジリさんがポログラムとして現れる。
「こいつはね、想い合う二人の心をエネルギーに変えるの」
「自覚あるんでしょ、だからアタシが見えたってわけ。 あんたたちお互いに一目惚れな んでしょ? 」
「これはチャンスよ、いい加減素直になる時。いつか言えばいいやなんて甘いわ」
「後悔するくらいなら、して後悔しなさい?」
彼女の目は潤んでいた。あれは、大きな後悔と喪失を知る目だった。 ただならぬ関係の方がいて、失ったのがすぐに分かる。そんな姿に私は覚悟を決めた。
「茜、聞いて。私は、最初から貴女に惹かれてた。だから強引に家に連れてきて、ずっと一緒にいた。どんどん好きになって、今じゃいてくれないなんて考えられないの。 私は、茜のことが好き」
真っ直ぐ見つめている。 言葉を噛み締めるように。そして返ってくる。
「蒼、聞いてくれ。俺は入学式でお前に惚れてたんだ。名前なんて聞けなくてさ、そし たら生徒会長になっててさ、そしたらとんとん拍子で、サボってたのは気を引くため だったしさ。だから俺が断るはずねぇんだ。だから、俺も蒼が好きだ」
起動音が大きくなっている。
「蒼、愛してるよ」
「茜、来て⋯⋯」
茜が私の腰へ手を回す。 私は目を瞑り口を少し開ける。二人の唇が重なった。
「エネルギー充填、 一〇〇%」
「パイロットのシンクロ深度、虚数域へ」
「メインシステムオールグリーン、格闘拳機シラユリ、起動」
「それでは、いってらっしゃい」
その言葉が聞こえた刹那、私と茜は一つになった。
俺は蒼の全てを感じているし、私は茜の考えていることを完全に理解できる。 茜は蒼であり、蒼は茜であった。床が競り上がり、校舎が崩れることなく左右に分かれ膝をついたシラユリが現れる。
校庭側にいた通常タイプが槍を投げてきた。私達は意に介さず、片手で弾き商店街にいる一体に突き刺さり溶けた。
腰を引くことなく真っ直ぐ立ち上がり、蒼の学んだ武術を生かす。 鋼鉄の身体が自分 のものであるような感覚がある。向かってきた相手をいなし、ガラ空きの顎をアッパー で撃ち抜く。
そのまま倒れて消滅した。
そして、あいつの突き刺さる視線を感じた。天兵・壊。額にもう一つ目玉がある。こちらに向くと、恐ろしい速さで腕を振りながら走り込んできた。当然、迎え撃つ。
「腕試しには丁度いいよな」
「油断せずに行きましょうね」
タックルを受け止めると、膝打ちで腹部を打ち上げて動きを止める。 よろけた所に追 い討ちの上段蹴り、さらに茜の回し蹴りを叩き込む。
左腕を捻り上げながら頭上へ跳躍し、背後に回って肩ごと引き抜くと消滅した。焦ったのか私たちを振り切って死にかけの兵士を捕食しようと動き出して後方へ投げ飛ばす。
「正々堂々勝負です!」
「いいぜ、かかってこい」
残った右腕が隆起、ついに全力なようだ。大きく振りかぶって拳を突き出してくる。私たちも全力で応えます!腕が変形し、バーニアが展開、うねりを上げるエンジン音。
「必殺技が解放されました」
「「ロケッッッッッットオオオオ!!パンチイイイイイイイイイッッッ!!」」
ぶつかる鉄拳、衝撃波、腕を弾き飛ばし頬骨へ炸裂。 きりもみ回転で吹っ飛び天兵が消えていく。最後の瞬間まで笑顔が張り付いていた。 学校の皆が集まってきている間、私達は溢れる気持ちのまま口づけを交わし続けてい た。この人とずっと生きていきたいと思いながら。
そして彼女らは新しき「守護者」となった。
「ユカリ、貴女と私の愛の結晶が、やっと産声を上げたわ。見ていてくれてる?」
クラスメイトたちを大人に引き合わせ、やっと帰路についた。お母さんは何も言わず抱きしめてくれた。夕食後、二人で同じベットに入り抱きしめあった。
「ヒジリさん、見てるんでしょう」
「覗きとは感心しないなぁ」
暗闇から現れる一柱。
「あら、ごめんなさいね。 一応礼をと思って」
「二人のおかげで、あの人の念願が叶ったということよ」
「あんたらみたいな子の役に立てて嬉しい」
「だから、これからもよろしく」
そう言い残すと闇夜へ消えていった。
翌朝登校すると、蒼と茜は学校公認カップルになっていた。
二人は、この聖が原の守護者となり天兵と戦うこととなった。また一体、天兵が現れた。
「しゃあ、いっちょぶちかまそうぜ、蒼」
「えぇ、私達なら楽勝です!」
「「蒸着ッッッ!!」」
後にこの二人は、天兵撃破率ナンバーワンパイロットとなり、最終決戦では他の多くのパイロットとともに地球を救い、その後、婦妻となり守護者をつづけている。
完
────
設定
・ヒジリ
格闘拳機シラユリ。(かくとうけんき)
ユカリ(人間)、ヒジリ (自称悪魔、日本の妖怪らしい)が作り出した兵器。
開発したが、使いこなせる人間の女性カップルが現れるまで封印されていた。 カップ ルの思いの力を動力にしているため、信じられない運動性能を持つ。今回はパイロット の運動能力により一二〇パーセントの覚醒を見た。
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