第二話 変身、魔法少女?
忘れ物をして校庭を歩いていると、何故か白百合さんがいた。
とても巨大な竜と、戦っていた。彼女は一人で戦っていたが竜の尻尾による刺突を防ぎきれず腹部を貫かれ、そのまま地面に叩きつけられた。
「白百合さんッ⋯⋯!」
気がついたら駆け出していた。考えるより先に行動していた。
「ゴホッ⋯⋯人払いの魔法葉かけてた、のに、何で⋯⋯諸刃さんがここに⋯⋯」
彼女の肩を抱いて校内の方に移動する。
「ごめん、忘れ物を取りに来ただけなんだ。余計なことしてるよね」
何とか校内に退避することができた。
「⋯⋯ひまちゃんみたい」
意識が混濁している。すでにかなりの傷を負っていて、ダメージが大きいようだ。腹部からの出血が酷い。リリィフォンで優子さんに電話をかける。
「すみません、緊急事態で⋯⋯」
「あぁ、分かっている。君のことは二十四時間、衛星で監視しているからね。すまん」
「⋯⋯過保護ですよ」
「だから言っただろう、すまんと」
優子さんは、魔法少女の研究者だったこと、この学園は魔法少女のサポート組織だと言うことを矢継ぎ早に説明された。
「そこを動くんじゃないぞ。何とか手を打つ」
とにかく時間を稼ぐ為に移動を繰り返す。魔竜はこちらを探しているようだった。そして何と女性の人型に変化し、校内を破壊しながら突き進んでくる。
「うぅ⋯⋯魔力使いすぎちゃった⋯⋯私のことは、置いて早く逃げて⋯⋯」
今逃げたら一生後悔する。母さんだったらそんなことはしない。
私は、母さんみたいになりたかったんだ。目の前の一人を守れるような、本物のヒーローに。
「白百合さんには助けてもらってばかりだからさ、今度はこっちの番だよ」
だが、すぐに魔竜に追いつかれ、火球の爆発に巻き込まれ校庭に投げ出された。
「うわああああああああ!」
「きゃああああ!」
激しい耳鳴りとともに意識を取り戻す。
魔竜は、白百合さんを狙っていたのだと瞬時に理解した。大口を開けてこちらに向かってくる。両者の間に、飛び込むしかなかった。
「させるかぁぁぁぁぁぁッッッ!」
バイクに乗った優子さんが、魔竜にタックルを仕掛け、壁に激突させた。そして、何かのベルトを投げてきた。何とか両手で受け取った。
「⋯⋯どうすればいいかは、分かるね?」
中心の動力部を腰に当てると、バックルが一周し巻き付く。
「リリィドライバー!!!」
凛とした、背中を押してくれるような、母さんの声だった。
「母さん、力を借りるよ⋯⋯変身」
「マジックドラゴン!マジックガール!」
「カップリング!」
「竜心統一!仮面リリー、ヤイバ!」
全身にアーマーを纏い、ヘルメットには竜の意匠が細部に渡り現れて、首からはマフラーがたなびく。白い体に鈍く光るは真紅の強化外骨格、まさに、仮面の戦士そのものだった。
「何だテメェェェェェ!魔法少女か?」
魔竜が吠え立ててくる。
「これは魔法少女じゃない。魔竜、魔法少女、二つの知見を合わせて作られた、対竜魔法用人造決戦兵器、仮面リリーだ」
優子さんの声が響く。ゆっくりと息を吸いこみ精神統一する。恐れも迷いもなかった。近くに母さんを感じたからだ。
魔竜が人型に姿を変え、低空飛行で突撃してくるのを背中で感じ取る。バックルの左右を押し込む。右足に魔力を纏う。
「リリーキック⋯⋯ッ!」
そして、振り向きざまに右足を振り抜く。私の後ろでその体は吹き飛び爆発した。
そのまま白百合さんに駆け寄る。
「大丈夫じゃない、よね⋯⋯」
何故か、私の方を見て微笑んでいる。
「カッコよかったよ、諸刃ちゃん」
「や、やめてよ、そんなことないって」
彼女を両手で抱き上げる。
「あ、そうだ、次から八雲って呼んでね。助けてもらったしさ」
ウインクをされた。昭和のライダーシリーズでもやらないよ、そんなベタなやつ。
「分かった。や、八雲⋯⋯さん?」
でも、私の中で、何かが始まる音がした。
「待てよぉ⋯⋯お前、おかしいと思わねぇか⋯⋯」
生きていた魔竜が、消えかけの体で立ち上がる。
「おい、竜もどき⋯⋯お前の認識阻害をこいつは突破したんだぜ?」
「へへ⋯⋯何も素質のないくせに、そんな芸当できるかよ⋯⋯もどきにだって、理由の見当はついてるんだろ?」
息を呑むのが聞こえる。
「俺様には分かるぞ、何故変身できたのか、何故阻害を突破出来たのか⋯⋯」
八雲さんが耳を塞ごうとする。
「聞いちゃダメ!耳を貸さないで!」
魔竜は止めることはない。
「その訳は一つだろうが⋯⋯」
優子さんが見たこともない形相で、魔竜を睨みつけている。
「お前が」
「⋯⋯」
「ただの人間、いや、人ですらない」
「⋯⋯」
「魔竜の心臓を核に作られたホム⋯⋯」
そう言い放った魔竜の頭部を、優子さんが小型銃で撃ち抜いた。
「一体どう言うことですか⋯⋯?」
八雲さんの治療のために地下の「潜水艦」でさっきの事実をもう一度問いただす。
苦い顔で俯いている。長い沈黙の後に重い口を開いた。
私は、母さんの遺伝子情報と、優子さんの「一度限りの奇跡」の魔力を魔竜の心臓に注いで生み出した存在だった。それは二人の間の子供だと言って良い。
「すまなかった。仮面リリー計画のために生み出したことを隠していて。この研究は真剣との念願だったんだ。利用してすまなかった。ただ一つ言わせてくれ、彼女は、真剣は心から君を愛していた」
そう言うと深く頭を下げた。
「もちろん、私もだ。この後どうするかは君が決めてくれ⋯⋯」
踵を変えて部屋を出ようとする。どうしたいかなんて聞かれるまでもなく明らかだ。
「戦います。母さんがそう願って私を産んでくれたんですから」
今度は優子さんのことを後ろから抱きしめた。彼女は泣いていた。真剣、こんな情けない私を許してくれと言いながら。
いつの間にか起き上がっていた八雲さんが手を握ってくれた。
「私は、諸刃ちゃんがどんな存在だったとしても、大事な友達であることは、この先も絶対に変わらないからね⋯⋯」
「ありがとう、白百合さん」
「許してくれてありがとう、諸刃⋯⋯」
こうして私は、いわゆる魔法少女になった。向日葵さん、朔夜さんとも合流し、この街には多くの魔法少女がいると言うことを知らされることになる。そして、恋を知るのである。
真っ白な空間に、女性が十字架に縛られている。彼女は諸刃の母、真剣であった。
「⋯⋯ニノマエちゃん、まさかシンケンちゃんとの間にホムンクルスの娘ちゃんがいるなんて。あとで方法教えてね。クロっちと育てるから。ああ、どうにかできそうかって、というか今助け出すよ」
「あぁ、数少ない友人だからね。真剣ちゃんを迎え入れる準備をしておいた方がいいよ。さ、親子の感動の再会と行きますか⋯⋯」
通話を切断し、侵入を阻む壁に向かい走り、二人揃ってキックを叩き込む。さながらダブルライダーキックのようだった。
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