TOKYOロケットパンチ
第一話 あなたと私の出会い
天兵が最初に姿を現したのは、ちょうど一年前のことだった。突然、人類の前に現れた。何の意思疎通も取れず苦境に立たされた人類に「防衛隊 リリーソロモン」が現れた。
その柱たちは、カノンミタマと呼ばれる人型決戦兵器を人類に与えたという。どんな理不尽な運命にも抗い立ちあがる事こそ、人が持つ最も大きな力であると柱の彼女らだという。
人型兵器に選ばれるのは、強い意志と思いを持つ者である。
────ここ聖が原にも、素質ある、二人の少女がいた。
私の名前は五十嵐 蒼。
最初に私が人を殴ったのは中一の時だった。その対象は母親の再婚相手だった。父が急死したため、娘のために再婚を焦っていたせいで縁切りに手間取った。
母さんはいつも私のためと言って頑張ってくれていた。だが、あいつは結婚詐欺師だった。いいカモだと笑っていた。こんな理不尽があっていいのかと思った。
祖母はいつも言っていた。 人を殴っていいのは、殴られる覚悟を持つものだけだと。 その覚悟を持っての右ストレート。幸いにも罪は軽く、家に帰った時、母さんは泣いてくれた。私は、この拳を、人を守るために生かそうと思った。
そして私は、学区域にある天空院高校へ入学した。有名校への進学率は高く良い学校だが、家庭状況が千差万別で荒れた生徒も多く、先生方も苦労しているらしい。ならばやはり自分が生徒会長になるしかないと思った。やる気は十分だった。
⋯⋯と息巻いたが、立候補したのはなんと私だけで、無事に生徒会長に当選し、初めての就任挨拶をしていた。話も中盤になった頃、金髪の生徒が後方のドアを開けて体育館に入ってきた。彼女は確か、ええと鬼崎 茜さんだったかしら。
とても綺麗な人だな。最初に抱いた印象はその一つだけだった。何故か、強烈に興味を惹かれてしまった。この胸にあるこの感情を私は知らない。彼女は最後列に座った。
私は挨拶を続けた。
「⋯⋯以上です。ありがとうございました」
集会の後、生徒会室に呼び出すことにする。
「鬼崎さんは後で生徒会室に来てください」
ただお話がしたかっただけだったのかもしれない。なぜか彼女が大きな悲しみを抱えているのではないか。だから遅れてきた可能性がある。。
理由もなく何かを行うことなんてない。私が母を思って拳を握ったように、必ず理由
と背景があるのだと、よく祖母が言っていた。
「鬼崎さんはバイトなどなさってますか?」
「あぁ」
「⋯⋯そうですか」
「一人暮らしだから学費稼がないといけないだろ」」
「えっ、ご両親は?」
「中学生の時、蒸発して二人とも消えた」
言葉が出なかった。そんな中で生きていくと言うことがどういうことなのかは分かる。
ホームレスの時期もあったらしい。
施設に保護され、何とか高校には入った。環境と過去で馬鹿にされるとカッとなってしまうらしい。
中学では喧嘩に明け暮れていたようだ。
高校には入ったけれど、折り合いがつかず寝てばかりいるらしい。そして、屋上でよくサボりを行っているそうだ。事情の複雑さを知らされて、責める気にはならなかった。
放っておけないと思った。
思いつきで「なら私の家に来ませんか」と口走ってしまった。どうしてそう言ってしまったのかは分からない。だが、今この人に手を差し伸べてあげなければ一生後悔することになると思った。
「そうしたら、バイトの日数も減らせますし」
「いや、お前お人好しすぎだろ。さっきの話、嘘かもしんねぇぞ」
「いいえ。貴女はそんな人じゃありませんから」
「どっから湧いてくるんだよその自信⋯⋯」
馬鹿じゃねぇのお前、と言ったが口元がほんの少しだけ緩んでいたように見えた。見間違いだったのかもしれないが少しでも関心を持ってくれて嬉しかった。
説得とも言えないお話で交渉し、放課後、家の中へと招き入れた。母は珍しく残業で遅かったため、出会ったばかりの二人で食卓を囲み夕食を食べた。
「あったけぇ⋯⋯」
唯一茜さんから、相槌以外で発せられた言葉だった。
夜になり押入れを確認すると、客用の敷布団が無かった。まずい⋯⋯せ、洗濯していたことをすっかり忘れていた。うわああああ!
「意外とポンコツなんだな」
「ポッ⋯⋯!ポンコツじゃないですよ何言ってんですか!」
「生徒会長に立候補したのあんただけだったしな。気づくだろ先に⋯⋯」
仕方ないので一つのベットで眠った。後ろから見つめる背中がまた何故か寂しそうに見えててしまってしかたなく何気なく出した手を彼女は握ってくれた。
苦労を知っているゴツゴツした指に触れていると切なくなった。どれくらいの涙を拭い、傷付いてきたのだろうと思いを馳せるだけで、胸が痛んだ。
その日から奇妙な生活が始まった。
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