第二話 鍛錬するは誰が為に

 一週間経った頃だろうか、彼女はびしょ濡れで体育館の裏にいた。尋常ではないことが起きているんだと思い近づいていくと、頬を張られた。

 迷惑だからやめてくれと言われた。あまりのショックで言葉を返すことなど不可能だった。その後はどうしていて、どう家路に着いたか覚えていない。

 帰った後、夕飯までの記憶がすっぽりと抜けていた。泣くことすらなかった。私は、告白するまでもなく振られたんだ。好きになっていたのは自分だけだったことを受け入れられなかった。

 何度話しかけようとしても、全く相手にしてもらえなかった。 

「あなたの顔なんて見たくないの。消えて頂戴」

「待って!美雪、どうして急にそんなこというの⋯⋯理由を教えてよ⋯⋯」

「っ⋯⋯!いいから失せなさいと言っているでしょ!」

 今の美雪には、取り付く島もない。彼女に拒否されたということが信じられなかった。私は、彼女を守るためにとやっていたことは、何の意味もないことを突きつけられた。

 その日から柔道と格闘術、軍隊格闘へ没頭、いや逃げ込んでいったんだ。何をやっても身が入ることはなく、師範からは見学以外何もするなと言われた。

 マスターからは言葉はなく、迷っている私を投げ、関節を引き伸ばされ、重い一撃を持って壁に叩きつけられた。自分の不甲斐なさに泣きたくなった。

「どうしたんだ。大切な人を守るんじゃなかったのか」

「うわああああああ!」 

 もう一度向かっていったが、精細を欠いた今の私など相手になるはずもなかった。

「君は、一体何のために強さを求めた?見返りに愛してもらう為にか?」

「それはっ⋯⋯⋯」

「答えが出ぬ限り、君は、誰も守れんぞ」

 全てマスターの言う通りだった。見返りを求める愛など、ただの独りよがりだ。私にはなんの活力も無くなってしまった。ただの腑抜けになった。 


「マスター、あそこまでやる必要はなかったのでは⋯⋯」

「君の愛弟子は、あの程度の試練すら乗り越えられんとでも?」

「⋯⋯貴女はやり方がいつも強引なんですから」

「はて、何のことかな」


 ついに、美雪は殴られている顔のまま登校してきた。階段から落ちたというが、それなら下腹部にアザなんてできないんだよ美雪。どうすればいいんだよ、ねぇ。 

 「貴女の直感が、何かおかしいと言うならそのセンスの通り動けばいい。状況判断するための技術は授けたつもりです。何故自らを信じないのですか?」

 師匠からの薫陶で目が覚めた。嫌われていたっていい。報われなくたっていい、彼女を守れさえすればそれだけでいい。美雪にふりかかる火の粉は私が払う。

 今までやってきた努力は、まさに、今日という日のためだったんだ。自分の中の迷いを頭から捨て去って、反撃のための行動を開始した。


 真実を見たいなら、やるべきことは徹底的な情報収集だ。


「まるで探偵みたい⋯⋯」

 小型のカメラ、尾行や追跡、SNSでの監視、強引な「交渉術」で子飼いの雑魚を従属させ協力をしていただいた。やっと尻尾を掴み、動きを待った。 

 美雪は無理やり従わされているらしい。その現場を抑える為に彼女に張り付いていたが、勝手位的な証拠は一切残さない。

 薄汚い連中だ。金をせびったり、遅刻も見逃ささせて、やっている事が傍若無人すぎると、学校中でも不満に思う生徒も増えてきた。

 美雪を慕っている生徒会メンバーも力を貸してくれる。恐喝犯グループは親が地元の有力者で、度々事件を起こしてはもみ消してもらっているようだ。

「あー⋯⋯もうあいつら路地裏でぶっ殺そうかな⋯⋯」

「だ、だめですよぉ⋯⋯証拠を集めて、絶対に社会的に抹殺しないと⋯⋯」

 副会長ちゃん、良い子だな。

「副会長、強火のりょうみゆオタクだもんね⋯⋯」

「張り切ってるよね、なんか」

「推しカプを守るのがオタクの誉なんだってさ」

 ん?おっかしいな。なんか頭痛くなってきたかも。

「ははは、面白いね副会長ちゃんて⋯⋯」


 うん、とりあえず聞かなかったことにしよっと!



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