電波通信
第一回 前世からの縁
自分たちが前世からずっと恋人同士だと気が付いたのは、大学のオカルト研究会でとある教会を調べた時だった。踏み入った瞬間にフラッシュバックしてきた。
何度も運命によって無惨にも引き裂かれ、転生を繰り返している。最後はいつも互いに呪いによる狂気に飲まれ殺し合うことになる。
心の内には、憎悪、後悔、快楽と暖かい愛情、希望があった。二人で顔を見つめ合う。まさか小学生の頃からの幼馴染が、運命の相手だとは思わなかった。
探索を終え、ルームシェアをしているリノベーションアパートに戻ると、時間を取り戻すように違いを求め合った。肌を寄せ合って、互いの熱を感じ合う。
生きている。再び逢えた。日が沈む頃、ベッドに倒れ込み脱力する。
聖はぽつりという。
「殺しあうって嫌だな。私は、来世でも類のこと傷つけたくないよ⋯⋯」
震え、涙ぐむ聖をぎゅっと抱きしめる。
「俺だってそうだよ。だから、次の俺らが呪いをなんとかできるような選択肢を取れるように、情報を集めて次に託そうぜ。絶対に聖と幸せになりたいからさ」
類の顔には、強い決意が見えた。
二人は、何度も生まれ変わっている。生まれ変わった回数は数えきれないほどである。その度に手紙と身に付けるものが受け継がれる。
私の前の「私達」は子供だった。彼女らもどうなったかは分からない。
その他にも何組かの私達がいて、関係性も年齢も異なる。だが、惹かれ合い、出会うことが出来るのは運命で結びつけられているからだ。
服を着て、講義に間に合うように出発した。
幸いなことに、大学の図書室には多くの文献、論文、資料がある。
奇跡論、神学、仏教の学術書、神と言う存在についての考察、呪いの起源、果ては都市伝説までを見つけたときはテンションが上がったよな。
オカ研のメンバーにも手伝ってもらうことになった。メンバーに事情を説明すると、みんなは信じてくれた。口々に交際を讃えてくれた。
「なんと美しい愛情だろうか⋯⋯これは必ず護らねば!」といってくれたオカ研の会長。
「素敵ね、運命の人なんて。私もできることはなんでもするわね」と副会長。
「なんていうか分かんないっすけど、すっごいロマンチックでいいと思いますっ!!!!」と鼻息荒く握手してくれた後輩ちゃん。
「図書室の本探しはお任せを」と図書室ちゃん
「僕も協力する」と言ってくれた学園の成績トップの才女さん。
「あたしも加わってあげるわ!」とそのライバルも続く。
同性パートナーのいる私的顧問の先生もサムズアップ。
ホッとして、二人で泣いた。まさかこんな話を信じてもらえるとは思っていなかったので、本当に嬉しかった。
オカルト同好会として、解呪のための会議を始める。
まず検討したのは、呪いが「誰かから」もたらされているという場合。
術者を無力化すれば、解呪へと至れるのではないだろうかと考えた。だが大きな問題は、今までの「私たち」の情報を統合してもそいつの正体が人間を超えた存在なのか、概念的な物なのか、いずれにしろこちらから全く手が出せないことにある。
もし術者を取り逃した場合、呪いの効力がより強化され、自分に返ってくる可能性がある。そもそも他次元への干渉は理論物理学でも発表されていない。
「敵を知らない相手に挑むのは、リスクが大きすぎるかも⋯⋯」
「そうだな、聖のいうことも一理あるな」
「うむ⋯⋯ならば神的実体を呼び出して、こちらがそれの権能を奪い取って、人の上位者に近づけば良いのではないか?」
コズミックゴシックホラーの世界観で「獣狩りの夜」を走り抜けるゲームばりの高次元理論を展開する会長に置いていかれそうになる。
だが降ろすという仕掛けは世界中に存在する。
アメリカ先住民の伝統の教え、プードゥーが行う降霊術、日本にいると言われるイタコの口寄せの技術、救世主と言われた聖人たちにあった神託、実例は多い。
続いて、副会長のアイデアはこうだ。
「ちょっと回り道だからやめた方がいいわね。手元にあるもので行動を起こしたいって言うなら、前世の双子ちゃんのペンダントなら呼び水になるかもしれないわ」
会長は不服そうだ。
「ふむ、良い考えだと思ったのだがな」
「私はそのアイディア好きよ♡」
「ふふふ。ありがとうな副会長殿」
いちゃつくんじゃねぇ。青少女の後輩の目を覆った。
「ええええ!見えないっすよおおおおお!」
「見るな、18禁だ。そのニックネームやめろ」
⋯⋯とにかく儀式や降霊の手立てを収集してみて、有用なものを探すこととなった。
日を分けて次の会議の日。
呪いのルールを書き換えるという方法論を下に考えてみる。。
「あの魔法少女みたいに、でっかくなるとかどうっすか。こっちが世界のルールを書き換えてやれば好き放題できそうだし」
大自然の物理法則のような、万物が従っているものを超越した概念存在に成り代わってみる。そんな途方もないことを、今の私たちにはできないかもしれないけれど、いつかの「私たち」がやってくれるだろうか。
課せられた呪いをインターネットのソースコードのように書き換えて改竄する。
分からない、こんなこと許されるかな。
「あぁぁぁそんなに落ち込まないでぇ⋯⋯方法は見つけるっすから、ね!」
後輩ちゃんの明るさがありがたかった。そうだ。可能性はゼロじゃない。
こちらも捜索を続行する。
検討事項3つ目、悪魔実体を利用するという方法。
「しばしば洋画のホラージャンルにおいて、悪魔崇拝をしている人々が願望を叶えるために、いわゆる黒魔術を使って悪魔と契約するというパターンが散見されます」
スクリーンに映し出されるプレゼン資料。見やすい⋯⋯
「問題は儀式はかなりこう、グロテスクというか生理的嫌悪感も大きく、さらに第三者を不用意に傷つける危険性があり私個人としては、お勧めできません」
「類さんも聖さんも、望んではおられないと思いますし」
「悪魔、というのも女性だという記述があるものは殆どありませんでした。あと、これはまぁ、個人の思想ですが、女性同士以外は嫌なんです」
意外と情熱的なところ、良いと思う。
「うん、図書館ちゃんのそういうとこ好きっす」
「ちょ、す、好きって言いました?」
「ダメだったっすか」
「みんなの前では恥ずかしいからやめてって言ってるでしょ」
「顔真っ赤っすねぇ、ふひひ」
「ごほん!こちらに好意的な女性悪魔がいることに期待しましょう」
最後は、国内の八百万の神や土着の神秘に助力を願うというやり方だ。
日本国内には、神社仏閣において多種多様な神が祀られている。田舎の方には、地元民しか知らないような信仰がある。
うちのばあちゃんにも会いに行きてぇな。聖も紹介したいし。
土地との繋がりや信仰心は力を大きくしていく。より強く結びつくことができれば、不可能とも思える奇跡を呼び起こせるかもしれない。
「みんなで日光に行こうよ。あと伊勢神宮も。あ、春日大社もいいよね」
「あんたが行きたいだけでしょ」
「違うよ、君と一緒に行きたいとこ」
「えっ⋯⋯あたしとってこと?」
才女とライバルちゃん、良いね。
「そう、縁結びのお守りも買っていこうよ、みんなでさ」
「あんたにしてはいいこと言うじゃない」
「僕のことなんだと思ってるんだか。失礼しちゃうなぁ」
なんだか可笑しくなって、全員で笑った。
国内旅行もいいな。いろんな場所行って、地元の人にいろいろ質問とかしてさ。腕の中にいる聖がそっと耳打ちしてきた。
「ねぇ、類。今の私達もたくさん思い出をつくろうね。次の「私たち」が振り返った時に頑張れるように、負けそうになった時にまた立ち上がれるようにさ」
こいつの優しさに心打たれて、思わず抱きしめた。
「そうだなぁ!いっぱい遊んでもうめっちゃすげえ思い出作ろうな!!!」
「おーーーっ!!!」
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