第30話: イヴェルの処遇 ~フォクシー~

「フォクシーさん。イヴェルのやつ、逃がしちまってほんとに良かったんですか?」


 俺が星雲荘で休んでいる時に、ふとあの夜のことが思い出された。

 使えなくなったイヴェルをどうするかの判断は俺の中で、曖昧なところがあった。


 フォークスが育てた子ということで、俺の中で特別視していた部分はあった。

 結局フォークスは俺が手をかけてしまったが、あれは仕方のないことだった。

 フォークスは隆太郎たち三人と接触したことで、仕事に精が見られなくなり、ミスを連発しすぎた。

 その上、どうしようもなく優しいやつだったため、この星を侵略するのではなく、共存する道を選ぼうとしただろう。

 そうなってしまっては、俺のメンツにも関わってくる。


 こんなことをイヴェルに知られたら、相当なストレスになってしまう。

 そう思って、隆太郎たちを犯人扱いすることによって、真実を誤魔化すことができた。

 けれどまさか、仲間たちと一緒にその話をしているときに知られてしまうとは思ってもいなかった。


 その結果、今まで俺に対して怒ってこなかったイヴェルが俺をぶった。

 咄嗟のことで俺は避けることができなかった。

 けれど打たれた時に、仕方ないとも思ってしまった。

 俺はずっと、イヴェルを騙し続けてきた。その報いが来たのだと。


「もうお前は用済みだ。この地球人たちと一緒に滅ぶといい」


 純粋なイヴェルをもうこれ以上この場所には置いて行けない。

 かといって、チャコフ星へ戻っても、身寄りが誰もいないイヴェルを誰が引き取るのだろう。

 ならいっそ、この場所で終わらせてあげることが、一番苦しまずにいられるのではないか。

 その原因を作ってしまったのは俺だ。

 だからこそ、イヴェルの面倒は俺が見なければならない。


「フォクシー、大丈夫ですか?」


 ふと顔を上げると、フュースが俺を見つめているのが見えた。


「おう。なんかあったのか?」


 俺が答えると、フュースは安堵したような表情を見せた。


「いえ、特に非常事態ということではないですが、フォクシーの顔がとても悩んでいるように見えたもので…」


 フュースは誰かが悩んでいたり苦しんでいたりすると、声をかけずにはいられないらしい。

 誰かの悩みを解決した時の、相手の顔が癖になったらしい。


「別に俺も深く悩んでいるわけじゃないんだけど、ただ、イヴェルのことでな……」


 そのことを聞くとフュースは俺が何を言おうとしているのかが大体わかったらしい。納得したように頷いている。


「あぁ、突き放しちゃったことですか?

 あの時わざと皮肉っぽく口調が変わりましたもんね。

 けどあれって本意じゃなかったんでしょう?

 今から探せばまだ間に合いますって」


 どうやらフュースは、まだイヴェルとの仲が取り戻せると考えているらしい。


「もう無理だって。イヴェルは純粋な子なんだ。

 俺が今何を言ったって何も聞いてはくれないだろうさ。

 俺はあの時、あいつの嫌われ者になるって決めてるんだ」


 そう、俺はあの時、イヴェルに嫌われる道を選んだのだ。

 いや、もしかしたら、イヴェルを地球に連れてきた時から、決めていたのかもしれない。


「そうやって見切りつけて。フォクシーの悪い癖ですよ。

 それで傷ついているのはあなたじゃないですか」


 フュースに痛いところをつかれ、俺は何もいうことができなくなってしまった。


「さすがフュースは見ているところが違うな。

 確かに、俺のその行動のせいで俺の元を去って行ったやつは何十人と見てきた。

 あれは、そういうことだったんだろうな」


 なんとか絞り出した言葉は、俺が俺自身を否定しているような文になってしまった。


 「別にそこまで私は攻めていないですよ。

 ただ、イヴェルのことで悩むなら、本人の前で直接伝えなければいけないというだけの話です。

 何も伝えないままこの地球人たちと一緒に殺してしまうのですか?」


 その言葉で俺は気付かされた。自分がやろうとしていることは、嫌なことから逃げ、その結果もっと傷ついているだけだということに。


「わかったよ。イヴェルを探してくる。それまでフュース。

 ここをお願いできるか?」


 そう言って、俺は星雲荘を飛び出した。

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